迷った男
『 おまえ、おのれとおれがいれかわると、―― おもいだしたな? 』
こどもとは思えない腕が首にまきつき、にらめっこをするように顔が近づいた。
『 さあ、返事をしろ。 おれが おまえになってやる 』
このままでは、きっとくわれる。
『 おまえ、 このおれに くわれると、おもったな? 』
耳まで裂けていた口が、ゆっくりとひらき、クマのようなとがった歯があらわれ、獣のような低いうなりごえとともに、なまぐさい息がかけられた。
「 なんだ わらしか 」
戸口に男が立ち、驚いた顔をしている。
首に腕をまきつけていたサトリが消えている。
「雪で迷ってしまってな。―― ここはおまえの親御どのの小屋か?すまぬがひと晩やっかいになりたい。親御どのはどこだ?」
中にはいった男は蓑と笠をとり、雪を払いながら言った。
なにもしゃべらないこどもに眉をしかめ、口がきけぬのか、と寄ろうとする。
「こ、ここは猟師の小屋だ。親はいねえし、じいちゃんはいま、罠を見にでて行ってひと晩もどらねえ。食いもんは、餅がすこしあるだけだ」
にらむようにむかいあったこどもの様子に、目を見張ってから、そうか、とうなずいた男は「なら、おまえに頼もう」と、あらためて泊めてほしいと言った。
こどもはまだ男をにらんだままで、すぐに返事をしない。