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波浪

 セフィロートはダートがよく現れるようになったことで、人間の平均的な能力が高くなっていた。それに伴い、魔族、魔物の能力も高まっていた。

 セカイを保つには均衡が大切だ。そのことを魔族たちの神であるディーヴァはよく理解していた。闇の女神の眷属が基礎能力的に人間より強いのは人間よりセカイに適応した個体として作られているからである。ディーヴァはそのことを認識した上で生命の神に人間にのみ使える特別な力を託したのだ。

 ダートは一人の人間にしか扱うことができない。だが、ダートを使うことによって、人間に変化をもたらす。進化をもたらすといえば、わかりやすいだろうか。人間がこのセカイに馴染めるように影響を与えていくのがダートの副次的な効果である。

 人間だけ強くなっていくとセカイのバランスが崩れる。そのため、ダートが生まれるごとにディーヴァは自らの魔力を土に注ぎ、土伝手に眷属たちの強化をしていた。

 そうして保っていたセカイの均衡を魔王ノワールによって崩そう、というのがディーヴァの今回の目的だ。

 ディーヴァから役割を与えられたノワールは魔族や魔物たちに馴染むように、ディーヴァの話をした。ディーヴァが「闇の女神」であることを誇張して。

 人間にはディーヴァは闇の女神として伝わっており、その能力の詳細──死がディーヴァの糧となり、ディーヴァを強くすることなどは正確には伝わっていない。

 ディーヴァの封印を解くために、人間をたくさん殺す、というのがノワールの当面の目的である。何なら相討ちになってもいい。戦争になるなら大歓迎なくらいだ。何せディーヴァは眷属の死が最も大きな糧となる。誰が死んでも、何が死んでも、ディーヴァの糧となり、その膨大な魔力の一部となるのだ。

「闇の女神をこの世に顕現し、ディーヴァ様と我らのセカイにしてしまおう」

 生きる気力のなさそうだった少年もそんな大口を叩く程度にはこの状況を楽しんでいた。

 安穏とした世界では、世界征服なんて体験、なかなかできなかっただろうからな、とディーヴァはノワールと感覚を共有しながら笑む。

 ディーヴァ選りすぐりの肉体と魂を持つノワールは容易にディーヴァとテレパシーをし、視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚の五感の共有を可能にしていた。ディーヴァとノワールは日常的に情報交換をし、楽しくセカイの均衡を崩していく。

 魔族、魔物たちをノワールが取り纏め、魔王軍を作り、それぞれの種族から最も強い四天王も募った。戦いの準備を整えた魔王軍は何も備えていないであろうマルクトを血の海に沈め、マルクトを占領、ディーヴァの封印の膝元に闇の女神神殿を築いた。

 ついでにフロンティエール大森林よりこちら側にある五都市を瞬く間に壊滅。手際がよくてディーヴァは笑った。

「ゲブラーの壊滅は運がよかったってシュバリエが言ってましたよ。ダートの使い手が一人不在だったんですって」

「勇者とか呼ばれているやつか?」

 ディーヴァが尋ねると、ノワールは可笑しそうに笑った。

「それが、なんでかアミドソルんとこにいるんですよね。意味わかんねー。氷のダート使いの方です。炎のダート使いは森に捨てといたって」

「ふっ、シュバリエもわかっているじゃないか」

 脅威となるダート持ちをどうして殺さないか。それは決まっている。勇者には強くなって、魔王軍に立ち向かってもらわなければならないからだ。

 ディーヴァの魔力保有可能量は魔力保有量が多い竜人百人分はある。魔王軍(こちら)側にも死者が多数出ないとディーヴァの復活は成らないだろう。

 ディーヴァの復活を防ぐための手法はただ一つ。魔王軍と争わないことだ。現状、それは不可能に近い。ゲブラーの壊滅を火属性魔法に長けるが、魔法より武力が強いシュバリエに任せたのは建物を崩落させ、魔法を使わずに勇者を伸すことで絶望感を与えるためだ。それと危機感。一人では魔王軍に勝てないという意識を持たせることによって、勇者は他の人間に助力を求めることだろう。それで、大勢がこの戦いに巻き込まれ、命を落とすことになる。

 あちらは魔王軍の目論見を知らない。だから躊躇なく魔物を殺すだろう。殺さなければ殺されるのだ。無理もない。

 それが絶対的な負の連鎖を生むとも知らずに。

「しっかし本当にゲームみたいだな。魔王がいて、魔王の配下にバカ強い四天王がいて、勇者がいて、勇者には袂を分かった友がいて。ラノベ一本書けそうじゃん」

「四天王はバカ強いか?」

「つーか、あいつらセフィロートの上位四人じゃん。あいつらに勝つのにたぶん人間はたくさん死ぬよ」

 ノワールが言うには、主人公と因縁がついて、ゲームストーリー内で三回は対戦するタイプのキャラ、らしい。

「サージュの話だと、森越えは難しそうだな。まあ、森を越えるまでの間は勇者パーティの育成のためのクール期間ってことで」

「サージュとアミドソルか。森の向こうにアクセスできるのは」

「ん。アミドソルがこないだケセドにいた勇者に仕掛けたらしいぜ。サージュはコクマに向かってる。ダートは魔法が使えないから、まず魔法使いを仲間にするのは必須だ。いいやつを見繕いがてら、鍛えるんだと」

 なかなかいい性格してるよなー、とノワールが呟く。ディーヴァはくつくつと笑った。四天王が優秀でありがたい限りだ。

 セカイでも頂点に立つといっても過言ではない魔法使いに育てられた魔法使い。魔法は今や何かを生み出すものではなく、命を断つ武器である。それをセカイ一の技巧で扱えるようになり、コントロールなく魔王軍を吹き飛ばしたなら……想像するだけで笑いが込み上げてくる。復活したときは嘲りの哄笑でもしようか。

「シュバリエとアルシェは大暴れタイプだから様子見は暇だろうな。どれ、俺の世界の文化でも広めてやるかね」

「言っていたお前なりに生きるというやつか?」

「そうそう。ディーヴァも観る?」

 そうして、ノワールと愉快に遊んで、魔王四天王が倒れ始めるくらいの佳境に至ったとき。

 ディーヴァの元に、一通の手紙が届いた。

 見覚えがある装丁。中は慌てていたのか、走り書きで伝言だけがあった。


 リーヴルが見当たらないんです。そちらに行っていませんか?


 ケセドのリーからだった。


 そのとき。

「ディーヴァ、何か来る」

「こんにちは、魔王ノワール。闇の女神ディーヴァ。……いや、姉さん」

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