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氷柱

 ディーヴァが研究に研究を重ねて導き出した召喚の成功方法。それは死の間際の者を拐うことだ。

 死を司ることもあり、ディーヴァには死相というものが見える。死相とは上手く言い表せないが、近々死にそうな気配のようなものだ。形に表れるわけではない。ディーヴァには直感的にわかる。これは死の女神特有のものだろう。

 容姿もディーヴァに近ければ近いほど、混沌の力に適応しやすい。何よりディーヴァが座標移動をさせるにあたって、存在の輪郭が取りやすいのだ。

 性別は男が良い。年齢は世界に順応しきっていない十代半ばほどが適している。

 その条件に当てはまる存在がちょうどあちらの世界に現れた。死相の現れた人間を死の直前で拐い、死によって空になりかけた器の中に混沌を注いで適応させる。魔力ではなく混沌を注ぐのは、混沌の方があちらの世界の力に形が近く、馴染みやすいからだ。体に取り入れた混沌を魔力として変換する方法はディーヴァが手ずから教えれば良いだろう。

 ダートが現れなければならないような事件が続き、生命の神がダートを遣わし、人間や自然などの生命力を強めたのに比例して、ディーヴァの眷属である魔族や魔物にも強い者が増えてきた。セカイを物理的に滅ぼすには頃合いだ。これから喚ぶ者にはそのセカイ征服の旗頭となってもらう。

 ディーヴァは湖に魔法をかけ、あちらの世界を映した。カラスという黒い鳥と視覚を共有できるようになったため、だいぶ視覚的な情報の入手は楽になった。

 対象を見つける。黒髪黒目の癖毛の少年。黒い服を着ている。これは世界を探索して知ったのだが、学校に通う生徒が身に着ける制服というものらしい。

 この少年は今日死ぬ。理不尽に人に殺される。

 何故ディーヴァがそんなことを知っているかというと、近頃の少年の付近を見張っていたが、情勢的におかしな人間が周りに増えているのだ。

 「死は救済」などと掲げる新興宗教。それは人を殺すことで不幸の多い生を終わらせて結果幸せなことの多かった人生にするというかなり独善的なもの。その宗教団体の信者が最近よく殺人事件を起こす。死相の表れている少年はそれによって死ぬのだろう、と予測するのは容易だ。

 少年は病気を患っているわけでもない、至って健康体だ。それなのに死ぬということは殺されるしかないだろう。事故の可能性もあるが、尾行されている状況から見るに、殺される可能性の方が高いと見ている。

 カラスの目を通じてディーヴァはその少年を見張っていた。すぐに座標移動させてもいいが、よりこちらのエネルギーに馴染ませるためのベストタイミングを見計らっている。つまり、少年が死んだ直後だ。

 死んだものの扱いはディーヴァからしてみれば息をするのと同じようなもの。新鮮な死体なら、書き換えも容易だ。

 死んだその瞬間が狙い目である。

 学校の帰り道なのだろう。日が傾いてきた中を暇そうに歩く少年。その後ろから鈍色を携えて現れたのは、日頃よりこの少年をつけていた新興宗教の狂信者だ。

 人は簡単に死ぬ。


 カラスの目が光って、痛みより先に衝撃が走って、少年の視界は流転する。

「ようこそ、黒雲(くろくも)(つらら)。終わりゆくセカイの導き手よ」

 そんな女声のアルトを最期に、黒雲連の意識は途切れた。


 連を透明な柱に封じ込める。氷魔法の封印だ。ディーヴァに施されている封印と比べたら、目を瞑っていても解けるような代物。

 ディーヴァの力を流し込むだけなら、何属性の魔法でもよかったが、今回は見映えを気にすることにした。

 ダートは人間にのみもたらされる力。悪神とされるディーヴァは封印され、ディーヴァの眷属である魔族や魔物は高度な魔法を扱えるものの、特にこれといった特別なものは授けられなかった。

 それはディーヴァが別段必要がないから用意しなかっただけであり、眷属を軽んじていたわけでは決してない。

 そんな眷属たちへの最初で最後の贈り物がこのあちらの世界から召喚した少年「黒雲連」である。

 連には純度の高い魔力に変換できるよう、選りすぐりの混沌を与えた。魔力に変換する機構は体を書き換える際に取りつけ、封印前に不備がないことも確認できている。

 あとはセカイを消滅へ向けて舵を切るだけだ。

「異世界に来るなり、俺は死ぬこと確定なんすか?」

「そのために召喚した。死ぬまで私のために働いてくれ」

 予想以上に順応の速かった連は早くもディーヴァとテレパシーを使えるようになった。

「……えーと、闇の女神サマ? セカイを滅ぼすのが目標ってなんかそれっぽくていいんだけどさ、俺も俺なりに好きに生きていい? セカイ滅ぼす魔王とやらはちゃんとやるから、それと並行して」

「面白いことを言う。あと、私は闇の女神ではないよ、連」

「連って呼ぶのやめてくんない? 異世界来てまで名前で弄られたくねーわ」

「そうだな。じゃあ、我が眷属たちに名乗れ。お前の新しい名は『ノワール』だ」

「猫みたいな名前だな」

 これが、セフィロートを震撼させる魔王ノワールの誕生であった。

 セカイは、順転しながら、不穏に染まっていく。黒く、黒く……

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