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手紙

 破壊の女神よ

 突然の不躾な手紙をお許しください。訳あってリーヴルを匿っているため、大きな魔法が使えないのです。

 申し遅れました。私はリーと申します。始まりの十人の一人、慈愛を司る使徒でございます。

 私のことはどうでもよいでしょうから、リーヴルのことをお話しいたします。

 先日、私のところに尋ねてきたリーヴルから貴女様のお考えは聞かせていただきました。私はそれを邪魔立てするつもりはございません。問題はその後、またリーヴルが私のところを訪れたときのことです。

 生命の神が私の体でリーヴルと何かお話しになったようなのです。どのような話だったのかはリーヴルから聞けていませんが、リーヴルが私の体を突き飛ばしたことから思うに、快い話でなかったというのは想像に難くありません。

 生命の神の能力に「感情操作」というものがあると私は考えております。

 生命の神が去った後の私はかなり錯乱しました。リーヴルに正気を取り戻してもらったことで、生命の神の能力、もしくは取りつかれた後遺症のようなものに気づいたのです。それが「感情操作」でした。

 自分で言うのもどうかとは思いますが、私は平時より、沈着である方だと思います。少なくとも、ケテルのロワよりは冷静であるつもりです。涙など、何百年振りに流したでしょうか。

 そんな私が取り乱して涙を流し、リーヴルを不安にさせてしまうなど不甲斐ない限りですが、これほど心乱されたのは初めてといっても過言ではないため、違和を覚えました。そのため、私の中の特定の感情が極端に増大され、錯乱状態に至ったのだと結論づけました。

 要因は生命の神が直前までついていたことくらいしか心当たりがありませんから、生命の神の力のうちなのだと思ったのですが、私がその推測を不用意に発言したため、リーヴルは混乱してしまい、自死を望む発言をしたため、今は眠らせております。

 聡明な貴女様なら既にお気づきのことと思われますが、私の仮説が正しいとしたら、リーヴルの中の貴女様への好意も、生命の神がそうであるように操作した、という可能性が出てきます。

 これはあくまで可能性です。我々が使徒となる前、まだ始まりの十人の人間であった頃から、リーヴルと貴女様が親しい間柄であったことは聞いております。その頃のリーヴルはマルクトの最果て、貴女様の封印の地に向かうことが一番の楽しみだったと認識しております。使徒となって長いですが、他の使徒たちと折り合いが悪いのはあの頃から変わらずなのです。

 きっと、リーヴルは私の仮説を聞いて、自分の好意が生命の神によって捏造されたものと思い込んでしまったのでしょう。リーヴルの好意が本物か偽物かは、最後は本人に判断が委ねられるものです。けれど、私個人から見て、リーヴルの貴女様への好意は今も昔も変わらないように思います。

 私からリーヴルを説得してはみますが、貴女様からもご助力いただけると心強いです。一筆したためていただくだけでもかまいません。どうか、リーヴルに貴女様の心の裡を明かしてはいただけませんか。リーヴルが自分を信じられるように。

 リーヴルが「死にたい」だなんて言わないように。


 ディーヴァは届いた手紙を冷たい目で見下ろした。

 ディーヴァのセカイ消滅計画の進捗はそこそこだ。安定して世界のものを召喚することに成功している。実験の余波でセカイはあれ、あらゆるダートが生まれたようだが、これから起こることに比べたら、全て些事に過ぎない。

 それにしても、生命の神は悪質だ。感情を利用するのか。いや、これはリーが聡明な使徒だからこそ仕組まれたことだろう。

 始めから手段を選んでいない気はするが……本格的になんでもするようになってきたというか。何がしたいんだ、一体。

 一貫して、「姉さんと一緒にいたいだけ」というが、まさかリーヴルに嫉妬して、こんな陰湿な嫌がらせをしているわけではないだろうな。……あり得そうで困る。

 感情操作の能力についてはディーヴァもあの神が持っているかどうかは別として、そういう能力があってもおかしくないとは考える。喜怒哀楽は時に魔力の質を高めたり、魔法の精度に著しく影響したりする。魔力とは混沌だ。混沌を秩序で安定させ、生命としてセカイに送り出すにあたって、魔力に近い混沌とした性質であろう喜怒哀楽の度合いを調節していても何ら不思議はない。

 感情というものについてはディーヴァより生命の神の方が造詣が深い。ディーヴァが作る眷属は独立した意思を持つとはいえ、ディーヴァに忠誠を誓う者ばかりである。対する生命の神の眷属、特に始まりの十人の使徒たちは文字通り十人十色だ。ロワのような神への忠誠の塊のようなものもいれば、リーヴルのように神、使徒、人間の枠組みを超えて分け隔てなく接するものもいる。リーのように中立的で感情を表に出さないものも。

 始まりの十人は「始まり」だからこその実験的に生み出された十人だ。ディーヴァが世界から召喚を行い、召喚したものを世に解き放つのと同じである。

 成功して、安定して人間を供給できるようになり、始まりの十人は使徒として人間と神を繋ぐための眷属となった。まさかまだ実験をしているとは。

 リーヴルを弄ぶのが許せなかった。おそらく、それをディーヴァが許せないことまで折り込み済みでやっているのだろう。そんなことを考える頭があるのなら、是非正常なセカイ運営に生かしてほしかったものだ。

 だが、もう生命の神が正常だろうと異常だろうと関係ない。ディーヴァはセフィロートというセカイを抹消させる。そのための手筈はほとんど整った。

 リーからの頼みを聞いて、リーヴルに手紙を書くとしよう。

 このセカイを消すために、リーヴルに死んでもらってはまだ困る。


 我が友、リーヴルよ

 死にたいのなら殺してやろう。死を司る女神が自ら手を下してやるというのだ。光栄に思え。

 私に殺されることを心待ちにしていろ。

 それまで死ぬな。

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