禁
ケテルの神殿にて。
「リーヴル、禁術とは何だ? ディーヴァは何をしようとしている?」
ロワはリーヴルを引き留め、何か知っているようであるので聞いていた。リーヴルはにこにことしていたが。
「禁術のことならセカイを守る使徒様なら知っていて当然と思っておりましたが?」
リーヴルは挑戦的に言った。
リーヴルは呆れていたのだ。リーヴルは名前の通り、本を愛し、知識を得ることを幸福と感じる。本の中の様々な事象を見聞きするのも好きだ。
目の前のロワはどうだ。リーヴルを幼いと見下して、ディーヴァの前ではろくに言葉を紡げなかったくせに、偉そうに。自分で調べもせず、年下に知識を乞うこの者のどこが使徒のまとめ役なのか。リーヴルは別に他の使徒たちのことは好きでも嫌いでもない。どうでもいい。それはこれから先も変わらないが、使徒として果たさなければならない務めはきちんと果たすつもりだ。そのために必要ならば他の使徒と協力し合おう。
しかし、この弱いものの前でだけ威張るようなロワの態度はいけ好かない。何故リーヴルが答えると当然のように思い込めるのだろうか。
案の定、ロワは不機嫌になる。
「なんだ、その口の利き方は? 私は生命の神様の第一使徒だぞ」
「第一使徒様なら尚のこと、ご存知ないのは問題かと」
「だから教えろと言っている」
「ご自分でお調べください」
「セカイが懸かっているのだぞ!?」
「セカイが懸かっているからこそにございます」
リーヴルは嫌味ったらしく丁寧に、ロワにつらつらと述べる。
「他者から聞いただけの付け焼き刃の知識であの女神に挑むおつもりですか? 第一使徒と名乗りながら、些か聡明さに欠ける行いに見えますが」
「何が言いたい?」
「自分で書物を読み、得た知識を噛み砕き、迫る危機がどれほどのものであるか、認識なさる方が第一使徒たらんお姿なのではと申し上げております」
ロワは生命の神の第一使徒。リーヴルは第十使徒である。その数字は位階のようなもので、数字が小さければ小さいほど生命の神に近しい、という考え方が使徒の間にはある。
リーヴルはそのことを常々馬鹿馬鹿しいと思っていた。位階が高かろうが愚か者は愚か者に変わりはない。ディーヴァがロワのことを愚鈍と表現したのはそういうことだ。
要は自分で調べて知識をつけろということだ。神に近しいという言葉に胡座をかいて何も知ろうとしないのはただの愚者である。そういう点でリーヴルはロワを尊敬していない。
小さいくせに本なんて読んで、とリーヴルを幾度も見下したくせに、リーヴルに教わらないと世界の法則すら知らないとは、なんと情けないことか。更に問題なのはその事実を本人が情けないと思っていなさそうなところである。
「コクマの図書館にでも行けばいいでしょう。引きこもっている割に何もしていなくて暇なのですから」
「さっきから聞いていれば、無礼だぞ、リーヴル。お前のそういう生意気で勿体振ったところが私は気に食わないのだ」
「おや、愚鈍な使徒が何か言っていますね。では」
「おい、リーヴル、どこに行く!?」
リーヴルはそれに答えず、去った。
リーヴルの行く先は決まっている。ディーヴァのところだ。
ディーヴァが何故セカイを消そうとしているのかを知りたかった。ディーヴァはディーヴァなりにこのセカイを大切にしていたはずだ。それが禁術である召喚魔法に手を染めてまで、セカイを存在しなかったことにしているなんて、リーヴルには俄に信じられなかった。
世界の法則として、各世界は平行で並行であることを定められており、故に、世界と世界の間に交わりを生じさせる異世界召喚魔法は禁じられている。その禁を破れば、世界の死神に罰されるのが普通だ。
だが、まだ完全に独立していないセカイであるセフィロートは該当しない。死神は来ない。だが、独立しようとしているセカイに他の世界のものを呼ぶ、もしくは元となった世界のものを呼ぶと、セカイの存在はあやふやになり、次第に溶けて消えていく。
セフィロートというセカイがあったことすら、記憶にも記録にも残らないのだ。
何がディーヴァをそうさせているのか知りたかった。生命の神のことも大切だが、ディーヴァと自分が過ごした時間までもが消えてしまうのが悲しかった。リーヴルにとってはかけがえのない時間でも、ディーヴァにとっては違ったのだろうか、と考えると寂しさも感じる。
リーヴルは座標移動でディーヴァの封印の場所までやってきた。
「ディーヴァちゃん」
「……リーヴル?」
リーヴルの声にディーヴァはすぐに出てきた。問答無用で帰されなくてよかったと思い、口を開こうとしたところで、意識が曖昧になる。
ディーヴァと何を話したか、リーヴルは覚えていない。ただ、意識が戻ったとき、聞こえたディーヴァの声にリーヴルは愕然とした。
「何がセカイを壊すな、共存しろ、だ。私がセカイを壊すのはお前のせいだ! いい加減にしろ!! もう二度と、私の前に現れるな!!」




