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異性

「人間の中に魔法というものを信じているものはいるか?」

 ディーヴァが尋ねると、神父は地図を広げた。この世界の地図のようだ。

「魔法は存在しません。ですが、人ならざる所業のことを『魔法』と呼ぶ文化は世界各地にあります。宗教の背信者や英雄だけれど女である故に排斥された者には『悪魔』や『魔女』などという称号が与えられました」

 この世界にとって「魔」というのは悪の象徴とされる言葉のようだ。世界から不要とされたものが集まって形成されたのがセフィロートというセカイであることを考えると辻褄は合う。

 この世界から排除された「魔」が混沌となり、セカイを形作った。故に混沌から生まれた力が魔力となるわけである。

 魔力や魔法は不要とされた世界。けれど、魔法に夢見る者は存在するらしい。

「その中でも呪術的な意味合いでの魔法や魔術の文化が残るのは欧州です」

「呪術……興味深いな」

 ディーヴァは既にこの世界の基本知識については神父の脳内に残る知識や記憶から情報を得ていた。おそらく神父にはそれなりの負担がかかっているが、話すのに支障はなさそうだ。

 人間の耐久性テストでもある。ディーヴァに適応できるほどの存在であれば、セフィロートの魔力も難なく受け入れることができるであろう。

 召喚も魔法を使うより、この人間という物質の座標移動をするという考え方の方が効率がよさそうだ。ディーヴァと接続したままならば、ディーヴァの元に引き寄せるのも容易い。

 ただ、この神父をこのまま座標移動で召喚するにはまだ情報が足りない。この世界は十都市しかないセフィロートと違い、いくつもの国がある。全世界をくまなく調べて、最も適応する人物、人種を見つけるべきだろう。

 それに、先に述べた通り、この神父は耐久性テストの被験者だ。使い潰すくらいしないと、ディーヴァがこの世界の人間にどれくらいの負荷をかけられるかわからない。

「では、その欧州に向かってもらおう」

「しかし、神様、私の信仰する神は魔法は邪法と……」

「貴様の気が乗らないなら、他の者に憑くだけだ」

「ま、待ってください神様!」

 すがろうとする姿は情けない。この世界の人間には寿命が存在する。セフィロートで魔物や魔族を眷属に持つディーヴァからすれば、瞬きほどの短さだ。生きることに固執するのは生き物として当然のことだろう。

 この世界の人間を殺してもディーヴァの糧になりはしないが、()()()()()。殺しても殺さなくても変わらない存在である。つまり、いくら死のうと構わないのだ。

 元々、司ることの中に「死」を持つディーヴァは譬自らの糧にならなくとも、生き物の死を見ることに喜びを覚える性質を持つ。生き物が死ぬことはディーヴァにとって得でしかないのだ。むしろ是非見たい。

 が、死を強制する場面でもない。利用できる限り使い尽くしてやろう、と旅支度を始める神父を見ながらディーヴァは思った。


 魔法のない世界というのは不便で、乗り物に乗らなければ移動もままならないようだ。船だの電車だの飛行機だのバスだの、色々乗った。魔法の代わりにこの世界で発達した科学の結晶たちである。世界に科された理を犯さぬ力の使い方にはディーヴァも関心した。

 が、事はそう上手くいかない。接続が途切れた。

「ふぅん、これが限界か。わりと色々できたな」

 ディーヴァはセフィロートの湖の前の本体に戻り、白い本を取り出して経験を綴った。あちらの世界では日記というのだったか。

「途切れた座標から適当な人間を探るか」

 メモを終えると、ディーヴァはちゃぷ、と湖に足をつけた。ぱしゃぱしゃと水が跳ねるのを楽しむ。

 あちらの人間での実験は面白そうだ。


 それからディーヴァは様々な人間を渡り歩いた。その結果得られたのは、ディーヴァに適応できる人間は女性より男性の方が多かった。女性は抵抗が激しく、数分程度しか保たない。

 これはおそらくディーヴァが()神であることが関係している。世界にもセカイにも多種多様な対なるものが存在するが、その中でも最たるものが性別だろう。

 子孫を生むには男女の交わりが不可欠である。それはセフィロートでも覆されなかった理だ。つまり女神であるディーヴァは対となる異性との方が適合するということである。

 まさか死を司る自分が生命の理に沿うことがあるとは思っていなかったが、面白かった。

 なるほど、女性は生命を生み出す存在、死を司るディーヴァとは適合しないわけだ。生命が生まれる神秘を成す存在が生命を滅ぼす存在と相容れないというのは当たり前の話である。だからディーヴァは生命の神の対抗神なわけなのだし。

 それと、面白かったのは、神父が話していた欧州の魔術よりも極東の国の人間の方がディーヴァやセフィロートへの適応性が高かったことだ。何故かと調べたら、その国にはどんな宗教を信仰しても良いという制度があり、表現の自由があるため、あらゆる「魔法」への夢想が混沌と集っているからだった。

 ただ、混沌の中で生きる人間は他の人間よりも面白かった。ディーヴァが脳内に直接語りかけているとちょっと引くくらいのオーバーリアクションをする。そして「私の中から出ていけ」というのは最初の人間と同じなのだが、珍妙な呪文を唱えてディーヴァを追い出そうとするのだ。それらが茶番として一般に受け入れられている。これほど愉快なことがあるだろうか。

 そこに住む人間たちの魔法への夢想はその人ごとに異なり、興味をそそられ、思わず肉体の強度を無視して知識を覗いてしまったほどだ。

 自由宗教の国なだけあって、妙ちくりんな神を信仰しているものもいたが、ディーヴァは向こうの世界の規則に従う必要はないため、適当に流しておいた。

 というわけで、極東の人間を召喚することにした。座標移動……つまるところ、土の民の転移技、土の友のようなことの実験も兼ねているため、失敗するかもしれない。

「さて、始めるか」

 失敗しようとかまわない。召喚を果たすだけで、セカイは大きく揺らぐ。それがディーヴァにとっての第一歩なのだ。

 こいつにしよう、と極東の人間を選び、その気配を座標移動する。体の成分はほぼ同じものをセフィロートの大地から抽出して構築。見る間に人の形になっていく。

「ここはどこだぁ!?」

「成功だな」

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