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 混沌の塊をセカイに放ってから、ディーヴァは二人目の召喚について取りかかった。

 といっても、一度目と同じくただ召喚するだけでは同じ結果になるのは明白である。それならばどうすればよいか。

 いきなり禁忌を犯すのではなく、その一歩手前くらいのところから手をつけ始めればよいのではないか、とディーヴァは早速試すことにした。

 禁忌である召喚魔法の手前。それは召喚する相手について知ること、ひいては向こうの世界について知ることだとディーヴァは判断した。

 召喚とはつまり物体を引き寄せることである。それなら引き寄せる物体の詳細を知っていた方がいいし、その物体がどこにあるのか認識しておいた方がいい。そこでディーヴァが採ることにしたのは、向こうの世界の人間と聴覚を共有するということだ。

 百聞は一見に如かずというが、ディーヴァは向こうの世界に行く方法がない。方法があったとしても、向こうの世界には魔法がなく、魔力も存在しないだろう。別世界になろうとしている世界の死の力をディーヴァは魔力に変換できない。となると、こちらに戻ってくる方法がない。それは詰みというやつだ。

 素直に湖を渡ればいいのかもしれないが、この湖があちらの世界のどこに繋がっているかは不明である。

 あちらには味のする水がたくさん湛えられた海というものがあるらしい。海には魚という生き物が棲んでいて、それを食べて生きる人間もいるのだとか。

 肉体の構成物質が異なる。維持に必要なものも違うだろう。まずは情報収集だ。

 ディーヴァもテレパシーが使えないわけではない。普段リーヴルが近くにいるし、得意というわけでもないから使わないだけだ。

 と、ここで問題に気づいた。あちらの人間には魔力がない。つまりテレパシーに返事をすることができないのだ。

「ふむ……そのうち魔力に適応する人間を探さねばならないな。魔法も使えるようになってもらわねばならぬ」

 だが、今、それはしない。

 ディーヴァに必要なのは情報だけだ。あちらの人間に一方的に通じるだけでもいい。というか、それならテレパシーじゃなくて、脳内を見たり、視覚や聴覚を共有した方が早い。

 あちらの人間の都合など考える必要はないだろう。ディーヴァは破壊の女神で、死を司る女神なのだから。

 人間の気配の掴み方は一度召喚を果たしたことで要領は得ていた。魔力でない気配……生命の気配を読み取るのは生命に満ちたこのセカイの神であるディーヴァにとっては容易なことだ。掴んだ気配をどうやってこちらに召喚するかが問題なのだが。

 生命の気配、その形を理解する。形の中から人間のものを物色する。面白半分でテレパシーを飛ばしてみる。脳内を見て、接続するきっかけとしてテレパシーはうってつけだ。

「聞こえるか、人間」

 一度目。人間は辺りをきょろきょろしているようだった。周りに他の人間はいないようだ。

「私はそちらにはいない。お前の脳内に直接語りかけている」

 人間がぎょっとした。ひねりのない表現だが、ひねろうがひねるまいが、意味はわかるまい。戸惑う人間に構わず、ディーヴァは人間の脳内を覗いた。

 その人間はとても五月蝿かった。悪魔に取り憑かれただのと騒いでいる。悪魔ではなく闇の女神である。もしかしたら悪魔よりヤバいかもしれないが。

 何やらいもしない神を信仰しているようで、神を奉る教会に向かったようだ。視覚の共有も始めると、狂ったように暴れ始める。

「やめろ、やめろ、入ってくるな! 神父様に浄化してもらうのだ!」

「ふん、人間なぞに私がどうこうできるわけがなかろう」

 嘲笑を返すと人間は喚き散らしながら、鮮やかな彩りの窓のある建物へ入っていった。

 そこで神父とやらに頼み込んで悪魔を祓ってもらおうと懸命な人間が面白くて、せせら笑いをしてやった。

 「悪魔が頭の中で笑うんです」「ああ、また笑っている」「出ていけ、私の中から出ていけ」などと様々叫ぶうち、異常であることに気づいた神父とやらが、祈りを始める。

 面白そうなので、ディーヴァは神父の方にも声を繋げないか試した。

「祈ったところで無駄だ。私は悪魔ではないからな」

 たっぷりの意地悪い声を込めて囁くと、神父がびくんと反応した。届いたようだ。このまま侵略してやろうか。

「ま、まさか女神様……」

「お、物分かりがよくていいな。気に入ったから乗り移ってやろう」

 同時に二人の情報を、と思ったが、地位が高く、知識のある者に移った方が効率がいいだろう。ディーヴァはあっさり最初の人間から離れ、神父との知覚共有に集中する。すると、元々入っていた人間であろう男が穴という穴から血を噴き出して倒れた。

 ふむ、とディーヴァは分析する。どうやらディーヴァが脳に潜り込んだことが過負荷と捉えられたようで、肉体が悲鳴を上げたらしい。今度は神父が悲鳴を上げたが。

「私は人間を探している。私に適応する人間を」

 本当はディーヴァではなく、セフィロートに適応できる人間を探すことが目的だが、体の丈夫さは重要だろうと考えてこういう表現をした。

「あ、貴女様は一体……」

「ただの女神(ディーヴァ)さ。そこの人間のようになりたくなかったら、利口になることだな。私に従え」

「は、はい、仰せのままに……」

 従順な僕が手に入った。ふふっとディーヴァが笑うと、神父はほう、と溜め息を吐いた。

「美しいお声だ……」

 褒められても嬉しくなかった。

『ディーヴァちゃんの声、綺麗だね』

 リーヴルに言われたことのある言葉だというのに、どうしてこうも心象が異なるのだろうか。所詮は別世界の人間だからだろうか。

 否、眷属にすらそんな思い入れはないのだ。それがディーヴァの性質である。

 では何故、リーヴルの言葉は心地よいのだろうな。

 その疑問に思考を割いている暇はない。早くこのセカイを滅茶苦茶にしてやるのだ。

「さて、働いてもらうぞ、人間」

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