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0024.放課後の一幕

「――アンドリアナ様ですか?」

 学院からの帰り道、エーデルとサーシャは、石畳の道を街に向かって歩いていた。

「ええ。彼女、学院ではどんな感じですの?」

「どう、と言われても……大人しい方で、いつも魔術書を読まれているようですが。すみません、私もちゃんとお話しした事が無い方なので、それ以上は何とも」

 アンドリアナ・ルーエンハイム――宮廷魔術師第一席、ドラクロワ・ルーエンハイムの孫で、自身も魔術に長けている。あまり周りと馴染む性格ではないが、真面目で魔術の勉学に意欲的で、特に問題のある生徒ではない。それが、エーデルの知る限りの情報だった。

「あの方がどうかしました?」

「いえ、別に何もありませんでしたが……」

 サーシャの回答も、エーデルが覚えているアンドリアナの記憶と特に異なるものではなかった。

「何故……彼女は今日の昼休み、あの場にいたのかと思いまして」

 ダゴネットとエーデルの勝負を見に来た者は大勢いたが、皆、エーデルが無様に負ける姿を期待していた。しかし記憶にあるアンドリアナは、そんなものに興味を持つような性格ではなかったはずだ。

「……まあ、疑ってばかりいても仕方ありませんわね。少し、神経質になっているのかもしれません」

 サーシャに害を成そうという貴族は、恐らくいくらでもいるだろう。その全員が全員、実際に事を起こすとは思えないが、学院の中であっても気を付けておくに越した事は無い。

 と、背後から駆け寄って来る足音に、エーデルとサーシャは振り向いた。

「サーシャ様! どちらへ向かわれるのです? こちらはご実家とは別の方角ではないですか」

 二人に追いつき、訝しげな声色で問うたのは、セレンだった。

 サーシャが実家へ帰る時にも、彼女はサーシャの護衛をしていた。学院内と同じく、人目につくのを避ける為、離れたところから後を追うという形を取ってはいたが。

 そのセレンが二人の前に出てきたのは、先の疑問の通りだった。護衛対象が不審な動きをしているのだ、見咎めない訳にはいかない。

 セレンの言葉に、サーシャは首を傾げる。

「それが、私も知らないのです。今日は少し寄り道をしようと、エーデルから提案されただけで……」

「おいエーデル。貴様、何のつもりだ? サーシャ様がどういう状況か理解しているのか!?」

「貴女がいるんですもの、滅多な事は起こらないでしょう? それに――」

 怒りに息巻くセレンに、エーデルは不敵な笑みを返した。

「当然、目的がありましてよ! ああ。ちょうど見えてきましたわ」

 エーデルの指し示す先にあったのは――

「あれは……」

「まあ……」

 ――焼き菓子を売る屋台だった。

「おい! どういう事だ!?」

「当然、買い食い! ですわ! 夢でしたのよ、これが!」

 そう、やりたい事リストNo.403、『学校帰りの買い食い』、学院を除籍された時点で諦めていたが、幸運にもこうして復学出来たのだ。やらない理由は無かった。

 しかも、ただの買い食いではない。『友達と一緒に』である。エーデルにとっては、命を賭してでも成し遂げたいミッションだった。

「貴様という奴は……そんな事の為に、サーシャ様を危険に晒すのか!?」

 激昂のあまり頬を紅潮させるセレンを、「まあまあ」とサーシャがなだめる。

「折角ですから、皆で食べましょう。私も、友達と買い食いなんて初めてなので、ちょっと楽しみです」

「さすがサーシャですわ! さあ買いましょう、食べましょう!」

 サーシャの腕を掴み、エーデルは屋台へと走っていく。

 二人を追いかけながら、セレンは嘆息した。

「まったく、何という呑気な……」

「あら。じゃあ貴女はサーシャの護衛に専念したらいかがです? わたくし達だけで頂きますわ。すみません、これ2つくださいな」

「おのれ貴様ぁっ! あと10個追加しろ!」

「どうして自分だけそんなに食べるつもりなんですの!? あと奢りませんわよ絶対に!」

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