表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/47

0022.魔術勝負

 校庭の片隅には、向かい合う二人の生徒。そしてそれを取り囲む、大勢の観客。

「……サーシャ様、これは何事ですか!?」

 観客に紛れて二人を見守っているサーシャ。そこに息を切らせてやって来たのは、セレンだった。

 サーシャから事の成り行きを説明されると、セレンは頭を抱えた。

「まったく、復学初日から何をやっているんだ……」

 そしてセレンは、サーシャに向かって言った。

「自分が止めて参ります。マイヤーホフにもきちんと謝罪をさせますので」

 しかし、サーシャがその腕を掴んで止める。

「サーシャ様……?」

「エーデルは、きっと勝ちます。彼女の目が、そう言ってましたから」

 その言葉に、セレンは表情を曇らせた。

「お言葉ですが、マイヤーホフは魔力量こそ高くはありませんが、風の魔術においては学院でもかなりの実力者です。魔力の極めて少ないエーデルに勝ち目など……」

 しかし、サーシャは首を振る。

「大丈夫です、きっと」

 セレンは軽く息を吐くと、サーシャの隣に立って、今まさに始まろうとしている二人の勝負に目を向けた。

 互いに睨み合うエーデルとダゴネット。

 ふと、ダゴネットが口を開いた。

「……そうだ。ただ勝負するだけでは面白くないな。何か賭けようじゃないか」

「……と言うと?」

 怒りの笑みを崩さぬまま問いかけるエーデルに、ダゴネットは口の端を歪めて言った。

「敗者は勝者に絶対服従というのはどうだ?」

 ダゴネットの取り巻きに加え、観客からも笑いが起こる。どうやら、誰もがエーデルの敗北を確信しているようだ。

 サーシャは「むむむ」と苦々しく周りを見回した。

「さすがに可哀想かな? うわははははは!」

 大口を開けて笑うダゴネットに、エーデルは指を突き付けた。

「……よろしいですわ。その条件、吞みましょう」

「言ったな。では、始めようか!」

 その言葉と共に、ダゴネットはその手をエーデルに向けた。

 ごお、という音を立てて、突風が吹く。

 エーデルは咄嗟に身を屈め、直撃をかわした。

 風を操る魔術――他の属性に比べ、直接の殺傷力は低いものの、人間一人を吹き飛ばす程度の威力はある。おまけに風は目に見えない空気の流れであり、視覚による回避が難しい。

 エーデルはとにかく動き回りながら、火球をダゴネット目掛けて打ち出していった。しかし、魔力の少ないエーデルが放つ火球に、大した威力は無い。

「馬鹿め! その程度の魔術でどうにかなると思ったか!」

 エーデルの火球は、ダゴネットの巻き起こす突風によって、容易く霧散してしまう。

「……やはり、エーデルに勝機はありません」

 勝負を見守るサーシャに、セレンは呟いた。

 エーデルは必死に回避を続けるも、次第に追い詰められていく。

 尚もその手から火球を打とうとするが、

「いい加減に諦めろっ!」

 遂に、炎を出そうとする瞬間の手を狙われた。

「……っ!」

 突風を受けて、エーデルの右手が弾かれたように大きく天に向いた。

「これで終わりだ!」

 とどめとばかりに、ダゴネットの周りに空気の渦が出現する。あれを食らったら、その身体は高々と舞い上がり、そして地面に叩き付けられるだろう――

「サーシャ様、これ以上はエーデルが危険です!」

 サーシャを護衛すべく学院に戻ったエーデルが、初日の内に負傷など、とても看過出来る事態ではなかった。勝負を止めようと、セレンは一歩踏み出す――が、その身体はまたも、サーシャによって止められた。

「サーシャ様、何故……!」

 振り返ったセレンに、サーシャは静かな声で言った。

「――もう、勝負はつきました」

「え……?」

 改めて勝負の場に目を向けると、何故か勝利を目前にしたダゴネットが、その場にうずくまっていた。

「ぐ、ぐぐぐ……!」

 集められていた風も、既にかき消えている。

「……どうなさいました、ダゴネット様?」

 エーデルは髪をかき上げると、流麗な動作でダゴネットに近付いていった。

「あと一歩のところですのに、どうして魔術を止めてしまったのでしょうか。もしや、わたくしに勝ちを譲って下さる、とでも仰るのですか?」

 ダゴネットは何も答えず、ただエーデルを睨み付けている。その顔には脂汗まで浮かんでおり、もはや闘える状況でない事は明白だった。

「わたくしはまだやれますわ。さあ、ダゴネット様。勝負の続きと参りましょう」

 くすくすと笑いながら、ダゴネットを挑発するエーデル。

 ダゴネットは身を震わせ、

「くそ、くそおおおおおおおおっ!!」

 憤怒の叫びと共に、その場から全速力で走り去っていった。

 観客もセレンも、何がどうなったのか理解出来ず、ただその場に立ち尽くしている。

 しかしサーシャだけは、昨夜の事を、エーデルが自身の魔術について語った時の事を思い返していた――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ