プロローグ
初投稿作品となります。
ゆったりと話を進めていくつもりですので、どうかごゆるりとお付き合いください。
うちは母子家庭だ。僕と母さんの二人暮らしで、あんまり贅沢は出来ない。
家族仲はそれなりに良い、同年代の子達に比べて母さんが好きで、母さんも僕を大切にしていてくれてる。
それで幸せだし、充分だった。
でも、どうしても胸の内に不安感がある。僕がいるせいで、母さんの幸せを邪魔してるんじゃないかって思ってしまう。
これまで、一度たりとも母さんに怨み言を言われたことなんてなかった。なのに、バイト先の店長の言葉で意識が変わった。
「女って言うのはいくつになっても恋がしたいもんなのよ」
母さんも、もしかしたらそうなのかもしれない。
18歳で僕を生んだ母さんは、現在35歳だ。まだまだ若い。青春期を僕の養育に費やした分、恋愛に未練があるのかもしれない。
そうだったとしたら、母さんのしたいようにして欲しいと思う。母さんの恋を応援する事は簡単だ。
母さんの恋が始められない理由が僕だったなら、そう考えてから、僕は家に帰ることが憂鬱になっていった。
春先から少しずつ帰宅時間を遅らせて、休みの日は図書館で一日を過ごして、なるべく母さんと顔を合わせないように過ごした。夏頃にはそれが当たり前になって、秋には母さんとのやり取りは「おはよう」と「おやすみ」だけになった。そして、冬になった頃、僕は本格的に心を病み始めた。
早く母さんを楽にさせるため、いい大学に推薦で入るため、努力を重ねてきた。けれど、僕がいることがそもそも迷惑だったらと考え続けた結果、母さんと一緒にいることが苦しくなってしまった。学校にいても、バイト先でも、家でも外でも、考えているのはただ一つ、僕が母さんの重荷であったらという思い込みに取り付かれて、心が限界になった。
もう、死んだ方がましなんじゃないかなと、そう考えた冬の日、僕は道端で踞って動けなくなった。
息苦しさと、申し訳なさと、無力感でいっぱいになって、動き出せなかった。
周囲からチラチラと向けられる視線が背中に刺さって辛かったのに、少しも立ち上がる力が湧かなくて、涙まで出てきた。
こんな自分が恥ずかしい。母さん、ごめんなさい。
動けないまま、アスファルトを見つめていると、自分のものじゃない革靴が視界に入ってきた。
邪魔だって言いに来た人かな、申し訳ないな。そう思っていると、頭上から優しげな声が聞こえた。
「きみ、大丈夫かい?お腹痛いのか?」
顔をあげると、そこに立っていたのは仕立てのよさそうなコートとスーツを着た大人の人だった。整髪剤の匂いが漂っている。
これが、僕の長い初恋の始まりだった。
お読みくださった皆様ありがとうございます。




