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本音の隠し場所 七

 それでいて、アヂスキからは、追い詰めたりやりこめたりする気持ちなど全く感じられなかった。


「いいや」

「では、それと同じです」

「お前は気にならないのか?」

「はい。僕は、ただ受け入れるだけです」


 かすかに笑ってさえいるアヂスキを見ていて、なんだか自分が恥ずかしくなってきた。


「あなたこそ、自分自身がどんな人間なのかをつかむために、父に会いに行くのではありませんか?」


 アヂスキに尋ねられて、また言葉に詰まった。まさにその通りだからだ。


「俺は、お前の親父を殺すように言われてるんだぞ」

「はい。でも、あなたは、機会があってもそうしません。自分を知る手がかりがなくなるからです」

「ふざけんなよ。俺がヘマをしたら、俺の親父の立場がどうなるかわかんねんだ」

「それでも、です。あなたの父上は、とても賢くて誇り高い方だと思います。あなたを見ていてそう思いました。だから、あなたにとってこの役目は不本意なはずです」


 アヂスキの台詞はいちいち本意を突く。なぜか本気で怒れなかった。それよりも、もっとたくさん話をしてもっといろいろなことに気づかせて欲しい。オモイカネとはまた違った刺激を受ける。


 部屋の戸口が軽く叩かれた。時間だ。


「礼を言うぜ。ためになった」

「そうですか。中つ国に行ったら、妹のシモテルに会うはずです。次にあなたがどうするのかは、妹に会えば自然にわかるでしょう」


 励ますのでも決めつけるのでもない言い方だった。助言とも違う。


 強いて説明するなら、予言だろう。とにかく、オオクニヌシについてはさっぱりわからなかったものの満足して引きあげた。


「どうだったの?」


 クニタマの屋敷につくなり、サグメが聞いてきた。


「ああ、アヂスキな、あれはいいやつだ」

「なによ、それ。ま、たしかにいい男だけど。あんたと違って乱暴じゃないし」

「そうだな」


 いつもならやり返すところだが、なぜかおとなしく答えた。サグメもそれ以上は聞きようがなかった。

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