本音の隠し場所 六
「まだわかんね。木だろうと化け物だろうと、とにかく俺たちと同じ姿もしてんだろ? じゃアヂスキのしてることって?」
「さあ。自分で確かめたら?」
いちいちつっかかる言い方であり、刺激的でもあった。
「そうだな。明日にでもアヂスキに会いに行こう」
「ええっ?」
クニタマはもちろん、サグメも仰天した。
「なんだよ、勧めたのはそっちだろ? それに、俺はアヂスキの替え玉なんだ。本物に会っとくのは当たり前だろ」
「い、いきなり?」
さすがのサグメも毒気を抜かれたようだ。
「いきなりだからいんだよ。向こうも馬鹿じゃねえだろ。変に知識なんか仕入れてったら、先入観ができて自然なやりとりができねえしな。いいな、クニタマ」
「は、はい、わかりました」
「良し、じゃあ、腹もいっぱいになったし、とっとと寝るか」
一方的に言って、さっさと引きあげた。部屋にもどって寝床に入ると、そのまま眠りについた。
翌朝。
快適に目を覚まし、朝食もそこそこにクニタマをせっついて出発した。
アヂスキは、捕虜といってもオオクニヌシの皇子だ。見張りの兵士に囲まれてはいても屋敷を丸ごとあてがわれていた。
会うからには屋敷に入る。面倒な手続きはクニタマがすませてくれた。もっとも、入るのは自分一人だけだ。
クニタマ自身は会えた義理ではないし、どのみち二人だけで話がしたかった。
「……それが、僕に会う理由ですか」
目の前にいる分身は、口を開けば自分とは真反対な口調で真反対なことを言う。
「仕事もそうだけどな、俺にも好奇心ってもんがある」
異質さのせいで周りから疎まれがちだった半生からして、例え見た目だけでも自分と『同じ』存在にはなにか親しみを感じる。
事実、顔を合わせただけで言いようのない親しみを感じていた。
「では、もう満たされたでしょう」
きりっと引きしまった顔が温和な台詞を差し出した。
「いんや、これからだって。オオクニヌシってどんなやつなんだ?」
「僕の父です」
「そう言う意味じゃないって。性格とか好みとかを知りてんだよ」
「仮にも僕はオオクニヌシの息子です。立場からいって、あなたの役に立つことは教えられません」
穏やかながら、きっぱりと断られた。腹は立たない。むしろうれしさに似た気持ちが湧いてきた。
「ああ。それで構わねえよ。じゃ、質問を変えるけどよ、オオクニヌシってのは木なんだろ? お前、木から生まれたのか?」
「どなたに聞いてこられたのですか?」
などとは、アヂスキは言わない。
「あなたは、自分が生まれた瞬間をおぼえていますか?」
聞き返されて詰まってしまった。自分にとって一番傷つきやすい部分だ。