本音の隠し場所 四
講義が終わるのを見計らって、サグメが膳を運んできた。
青白い高坏に盛られた強飯……大根の葉を刻んで散らしている……、軽くあぶった干魚に猪肉と大根の蒸しもの、ドングリの団子の蜂蜜がけと言った品々が、食べやすいように並べてあった。
「うまそうだな。ありがとう」
「あら、人にお礼が言えるなんて知らなかったわ。ところで、その食器の使い方知ってるの?」
「箸だろ。俺ん家じゃ普通に使ってたよ」
「高天原にも野蛮人じゃない人がいるってわかってうれしいわ。ご飯だって、こしきを使って蒸してるんですからね」
「中つ国が文明国なのはわかったけどよ、道具に頼りすぎていくさに弱くなったんじゃね?」
「なによ、作ってあげたのに!」
「あー、とりあえず、食べた方が良いかと……」
遠慮がちに提案したクニタマの膳には、強飯ではなく粥をよそった椀が置いてあった。
「そうだな」
あっさりと矛を収め、サグメが座るのを待って食事を始めた。
たしかにうまい。食器に須恵器を使っているせいか、泥臭さが全くない。
それ以上に、蒸した米の食感と干し魚と猪肉のそれとが文字通り噛み合っており、口の中でこりこりした旨味が限りなく広がった。口が疲れたときにはドングリの団子を頬張り、いよいよ食が進んだ。
「さてと、俺の話だったな」
少し改まった口調で前置きしてから、もともと真っ直ぐな背筋を伸ばした。
「俺の本当の親は、この世にいねんだ。……いや、母親は本当に死んだけどな、父親はちょっと意味が違う」
けげんそうにしているクニタマの横で、サグメは好奇心の塊そのものになっていた。
「俺の、本当の父親は翔翼って名前で、精霊たちの皇帝なんだとさ」
少し投げやりな言い方になった。オモイカネを前にする以外で口にする機会は、実は初めてだ。
心の中では、数え切られないほど思い返していた。
なぜ友人ができないのか。なぜ相手のちょっとした変化にすぐ気づけるのか。なぜだれよりも喧嘩が強く足が速いのか。
全て、父親からの『血』だ。