本音の隠し場所 三
ある意味では、クニタマやサグメは弱者であり犠牲者でもあった。
「ま、いいだろ。俺や親父が巻き込まれたのには腹が立つけどな、お前が正直に言ったのは見直してやるよ」
「で、では、どうなさるので?」
「とりあえず、オオクニヌシに会う。それから先は、会ってから決める。お前たちには、それまで俺を助けてもらう」
二人は一瞬目を丸くしてから、とにかく受け入れた。
「じゃ、部屋に案内してくれ」
「あたしがするから、クニタマ様はご自分で手当していて下さい」
クニタマは、まだ鼻血の跡が残ったまま首を縦に振った。
「こっちよ」
サグメが母屋へ向けて歩き出した。
「あなたって、ただの乱暴者かと思ったら、意外に頭いいのね」
「意外はよけいだろ」
そう言い返しながらも、サグメの体からは奇妙な雰囲気を感じ取っていた。どこか自分と同じように思えて、全然関係ないようにも……。
「クニタマだけじゃなくて、あたしもあなたに教えることがあるわ。オオクニヌシ様に係わることよ」
「なんだ?」
母屋に上がりかけたところで、サグメは足を止めた。
「その前に、あなたのことを教えて」
「そんな必要があるのか?」
そう言いながら、全てぶちまけたくなるような、そうしてはいけないような、おかしな気持ちになった。
「素姓のあやふやな人と長旅なんてしたくないし」
「俺の……」
親はオモイカネだと言いかけて言葉がつんのめった。そんなわかりきった話をしてどうする。
今まで同輩から散々からかわれ続けたのは、一つには真の素姓を隠していたからだ。
わざわざ言いふらすものではないし、言えば言ったでよけいなもめごとを招くのはわかりきっていた。
「どうしたの? 言えないの? 言いたくないの?」
サグメがあおるように言った。
「いいだろ。けどな、クニタマにも聞かせる。晩、飯を食いながら話そう」
「あんなにこっぴどくやっつけて、もう晩ご飯を一緒に取るの?」
「あいつには、もう罰をやった。だから、構わねえだろ」
「あのさ、それって微妙に問題が……」
無視してすたすた母屋に上がった。サグメはまだなにか言いたそうだった。結局黙って部屋を案内した。
通された部屋は、日当たりと風通しが良くきれいに片づいていた。調度品の類は簡素だったものの、気にする性質ではない。
「すぐクニタマを読んでくれ。時間が惜しい」
「講義のための部屋があるわ。そっちにきて欲しいんだけど」
「そうか、わかった」
それからすぐ部屋を移り、鼻血を拭いて顔を洗ったクニタマが現れた。あれほど激しいやり取りがあったのにすっきりした表情になっていた。
本音をぶちまけたせいもあるだろう。……血を落としている間に、意味は違ってもお互いよそ者同士だという事実にも気づいたはずだ。
「では、始めます」
「ああ」
いざ始めるとクニタマはわかり易く能率的に説明をしてくれた。
中つ国が砂鉄を精錬して強力な武器を作っていることや、自然の幸に恵まれていること云々からオオクニヌシの側近まで。
オオクニヌシは、少なくとも民衆の間では寛大で賢明な君主として尊敬されているそうだ。
そして、同じぐらいにアヂスキも尊敬されている。更にもう一人、シモテルという姫がいる。アヂスキにとって妹になる。賢く美しい姫で、国中の若者が婿になりたいと思っている。
「もし、アヂスキ様になりすますなら、シモテル様をまず欺けないといけません。アヂスキ様の立ち居振舞いや言葉遣いにつきましては、明日教えましょう」
と、クニタマは話を締めくくった。