本音の隠し場所 二
大ケガをしないようほどほどに手加減した。それでも鼻血が両の穴から二筋流れ出した。
「ぎゃあっ! な、なにを……」
「ヨタを吹くなよ、コラ。こっちではなんの手柄も立ててねえのに、最初からまともな屋敷なんて構えられるわけねえだろ」
「乱暴はやめなさいよ。どんな証拠が……」
やかましくさえずるサグメを黙ってにらみつけた。サグメは顔色を失って座りこんだ。
「さっさと話せ」
「い、今ここでですか?」
クニタマは、サグメと違って立ったままだ。鼻血のせいでひどく間抜けに見えた。
「当たり前だ」
もう一度拳を振り上げると、クニタマは真っ青になってがたがた震えだした。
「は、はい、話します。話しますからご勘弁を……」
「始めろ」
「はい、あなた様とアヂスキ様はうり二つ、鏡を見るようにそっくりです。タカミムスヒ様はそこに目をつけられました」
「そんなことはとうに知っている。つまり、お前は俺を騙してアヂスキを助け出すつもりだな」
「はい、恐れ入ります」
「ところがお前は、成り行きによってはオオクニヌシを裏切って本当に俺を助けるつもりでもいる。タカミムスヒもそれを察して、わざとそれなりの屋敷を与えたんだ。お前をこっちに引き入れるためにな」
殴った以上の効果があった。クニタマは足が萎えてしまい、両手で地べたをついた。
「おかしな真似をすんなよ」
と、これはサグメに言った。彼女はあわてて襟元から手を離した。
「サグメはお前を助ける間者だな? お前はオオクニヌシのもっと大事な秘密を知ってるはずだ。でなきゃこんな屋敷なんかもらえねえって」
「う……そ、それだけはご勘弁を……。いくら殴られても教えられません」
「ああ、いいぜ。親父にお前らのことバラすから」
「ひいっ」
クニタマは、すがるようにサグメを見た。なんの手助けにもならなかった。
「早く言え」
「わ、わ、わかりました。オオクニヌシ様は……オオクニヌシ様は……、ば、化け物なんです」
「はぁっ?」
特別な弱点だの財宝の隠し場所だのを予想していたが、さすがに驚いた。
「ふ、普段は私らのような姿をしています。ですが、本当は恐ろしい力があって、正体を見た者は殺されます! ア、アヂスキ様は、その正体を知っていて、私らとオオクニヌシ様の橋渡しをしています!」
いつの間にかクニタマの額からは大粒の汗が流れ、鼻血を薄め始めていた。
「だから、必死になってアヂスキを助け出したいんだな。そんなアヂスキがどうして捕まったんだよ」
「う……ううう……」
目と口を大きく見開き、うめく以外になにも出来なくなったようだ。
「サグメ、お前はどうだ?」
「クニタマがアヂスキ様を騙したのよ。オオクニヌシ様にわざわざ断って、アマテラスを殺すために必要だからとかなんとか」
「じゃあこいつは、オオクニヌシとアヂスキとアマテラスとタカミムスヒを騙していたのか」
「し、しようがなかったんだ! 高天原に逆らうなんて正気の沙汰じゃない! 得体のしれんやつのために命まで投げ出せるか!」
要するに保身だ。さりとて殴り倒したりタカミムスヒに報告したりするのもつまらなかった。
老父からは、だれもが正々堂々と生きられるわけではないと学んでもいる。