本音の隠し場所 九
「どうしたの?」
「今晩は、あの小屋に泊まろう」
「見たところは廃屋ですが、先を急いだ方が良くはございませんか?」
「いいや。あの小屋からはなにかを感じる」
そう言いきると、クニタマとサグメは顔を合わせて肩をすくめた。
二人を置いて、まっさきに出入り口を……扉はなく、ただ穴が空いているだけの出入り口を……くぐる。
空だった。当たり前なのにもかかわらず、空のはずがないという気持ちが強く湧いてくる。
「どうしちゃったの?」
サグメが、いつの間にかすぐそばに立っていた。
「なんでもねえよ」
わざと乱暴に荷物を置いて、クニタマと入れ替わるように外にでる。
道をへだてて、向かいにある藪の際に一羽の雉がいた。じっとこちらを見ている。
いつもなら捕まえて食べようとするはずなのに、そんな考えは少しもでてこなかった。
それどころか会いたくてたまらなかっただれかにようやく会えたような、切ないうれしさが込みあげてくる。
気がつくと、両手の平が胸の前で向かい合っていた。なにかを包むように持つ格好になっている。
「ワカヒコ?」
サグメが、戸口から声をかけた。雉はあわててどこかに飛びさり、はっと我に返る。
「ワカヒコ、さっきからおかしいわよ」
「なんでもねえよ」
芸のない答えを繰り返して、雉のいた藪を見つめていた。