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黎明の空 第四話

授業が始まっても、隣の彼は文庫本を読むのをやめない。私の興味は完全に授業よりも彼の読んでいる本。本好きとしては何を読んでいるのか気になって仕方ない。


「さっきから、手動いてないよ。」


いきなり彼に話しかけられて、思わずガタンと大きな音を立ててしまった。クラス中の目線が私に集まる。


「転校初日に居眠りしないでね。」


先生が茶化す。別に寝ていたわけではないが、否定する言い訳も思いつかないのでそのままで。わかりやすく顔が赤くなる。クスクスと聞こえる。


「すいません。」


私は静かに謝った。横にいた彼は、そんなこと気にもせずに、西日に照らされながら、小説を読んでいた。そんな彼に少し腹が立った。



授業終わりに彼が私に話しかけてきた。


「本のタイトルが気になるんでしょ?自己紹介の時本が好きって言っていたから。」


「ちゃんと聞いてたんだ。」


思わず、嫌味を口走ってしまう。


「聞いてたさ。流石に転校生がどんな子かは気になるからね。本が好きっていう共通点があって、君に興味が出たからね。話が合う人がいなくて、学校ってつまらなくてさ。」


よくこの人いじめられないなと感じた。それと同時に、彼に興味を持った理由がわかった。私と似てるから。


「あんまりそういうこと言うもんじゃないよ。話を合わせるって言うことも大事だから。」


「君が、そんなこと考えられるような器用な人には見えないけど?」


「そうだけど。」


「そんなことどうでもいいから、どう?本のタイトル気になる?」


私は小さく頷いた。「気になる」って言ったらなんか負けた感じがして。


「いいね。なんか面白い。」


彼はブックカバーを外して、私の机にその本を置いた。


「モスキートーン。知ってる?」


彼が読んでいた本は、私も好きな本だった。それにテンションが上がった私は活字オタクがゆえの癖が出てしまう。


「知ってる、知ってる。まず設定がいいよね。子供の声だけが聞こえる世界で、その声は大人には聞こえない。でも、その聞こえない声で、世界が回っていて、それに気づいた大人は必死に子供に媚を売るようになる。そんな大人を見て、醜いと思った子供は自分たちもいずれこうなるのかなと恐怖してしまう。そこで、大人と子供で何が違うのか子供たちだけで会議し始める。そこで出た答えが実は意外なもので・・・。」


これ以上言うとネタバレになってしまうと思って、私は勝手に早口になってしまっている口を手で強引に押さえた。声もだいぶ大きかったみたいで、休み時間のクラスの視線が私に集まっていた。その目は唖然とした感じだった。


「面白いね。暦さんだっけ?君のこと、好きになったかも。」


彼は爆笑しながら、どう捉えていいかわからない言葉をかけてきた。彼は本を回収して、ブックカバーに戻した。そのまま席に座って、また本の中の世界に入っていった。


「ねえねえ。何言ってたの?早口すぎて聞き取れなくて。それに、空が笑っているところ見たことなかったから驚いて。」


すずさんから話しかけられた。


「わからないけど、好きな本の話だったから、つい夢中になって話してたら、そうなってた。」


クラス中も、驚いた感じで静かな空気に包まれていた。それを気にせず彼は完全に本の世界に入っていた。だいぶ図太い精神の持ち主なのかも。静かな教室の中を次の時間のチャイムだけが響いた。


モスキートーン、今度暦の空色関連の小説で出そうと思います。

中編くらいになるかな。

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― 新着の感想 ―
[一言]  好きな事に出逢うと自然とテンション上がって無防備に話しちゃう事ありますよね。  共通の会話できる友達になれたらいいですね。  先行きが明るくなって来た気がします。  「モスキートーン」は…
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