碧虚の空 第七話
家に帰るとすでに父の店の営業時間になっており、開店して間もないのにも関わらず、たくさんのお客さんが来てくれている。私と違い社交性の高い両親なのですでに何人かの常連さんがいるらしい。元々はフレンチのレストランを営んでいた父だが、こっちに来てからは、店構えを一新したようにほぼ居酒屋。フレンチのレストランでは、お客さんの顔が見れなくて寂しいとよく言っていた。今は対面して料理を振る舞うことができているので、心なしか、父の顔は明るい。高級なものはないが、地元の食材を使ってお酒と一緒に楽しむ。父曰くそれがコンセプトらしい。にしては、生姜焼きの隣に聞いたことのない横文字の料理名が書かれていて、少し違和感を覚える。
「暦、おかえり。手洗ったら、少し手伝って。」
前の店では父の他にお弟子さんがいたらしく、私と母が手伝うことはなかった。大体、フレンチの用語は何言っているのかわからないので、いたとしてもただの足手まといになるだけ。料理は嗜む程度しかできない私だが、料理を運ぶことくらいはできる。知らない人だし、自分をいじめることもないと思うので、特に人に対する恐怖はない。私だって作り笑いくらいできる。少しくらいなら声も出せる。決して大きくはないけれど。
ガラッ。と店の扉が開いた。
「いらっしゃいま・・・。」
そこにはさっき別れたばかりの人たちがいた。
「あれ?ここで何してるの?」




