碧虚の空 第六話
ある地点で2人と別れた。そういえば今日初めての1人の時間。今までは1人の時間の方が圧倒的に多かった。人と関わろうなんて思いもしてなかった。昼休みも、放課後も、ましてや部活なんて。そんなこと考えることすらなかった。
『この世界で1番の才能は、人と過ごせるということだよ。誰でも持てる事かもしれないけど、これが1番難しい。どんなに能力的に人よりも優秀でも、得られるのは巨額の富だけ。富なんて、ギャンブルでも、宝くじでも得ることができる。確率はバカみたいに低いけどね。運だけさえ良ければ誰でも得ることができる。でもね、人は違う。もちろん、自分と合う人と出会うのはあくまで運次第みたいなところはあるかもしれないけど、それ以上に、それを継続させることの方が難しくてね。その上で、取捨選択もしなければならない。自分を押し殺してもいけない。たまにその人のことを思って鬼にもならなければならない。それができるかできないかで、人としての才能の有無が分かれると思うんだ。生きる上で、必要最低限の最も難解な問題の答えを自然にできる人はそれこそ才能に溢れている人だと思うよ?』
学校のものの小説だった気がする。これを読んだときは不快感しか覚えなかった。孤独な自分に能無しって言われている感じがして。今は少しわかるかもしれない。2人と会ったのはあくまで偶然で運が良かっただけ。問題はここから。私は2人との関係を続けたい。継続させたい。お友達になりたい。初めての感情だった。今までは本の中にはたくさんの人がいて、その人たちの関係を見るだけだった。それでどこか満足しているところが私にはあった。1人じゃない気がして。誰でもない自分になれている気がして。でも、何だろう。こっちの方が楽しいって感じてしまった。自分の好きなものを理解してくれる人。共通の話題で盛り上がれる人。少し変だけど、頼ってくれる人。うん。初めて人といて楽しかった。




