碧虚の空 第五話
私を本の世界から引き戻したのは、下校のチャイムだった。1つしかない窓からは真っ赤な夕日が顔を見せた。
「綺麗。」
思わず口に出てしまった。都会に住んでいた頃は、空を見ることなんてしなかった。
「綺麗だね。」
彼は本を片付けながら、私に近づいてきた。
「これは綺麗でいいんだよね?」
「綺麗でいいさ。こうやって、俺と共有できてるからね。どんなことも伝えるのは必ず言葉にしなければいけない。綺麗な景色を見て、その人がどう感動したのかは、その人の言葉からしか伝わらない。共有して初めて、それが綺麗という価値になる。今日の夕日は綺麗だよ。暦と俺がそう思ったんだから。」
「また、なんか難しいこと言ってる。」
部室の扉が開いていて、そこにはすずちゃんがいた。
「ほら、もう下校時間だから、早く準備して。暦ちゃんも、ほら。」
すずちゃんに急かされながら帰る準備をする。
「いつも、迎えにきてるの?」
「そう。空、本読むと周りの音が聞こえなくなるから。私が迎えに来ないとずっとそのまま。でも、今度からは暦ちゃんがいるから大丈夫かな。」
確かに本を読んでいるときは、心ここに在らずみたいな感じになる。今日の授業中の彼もそうだったが、本が好きな人はもしかしたらそういう人が多いのかもしれない。
「私もそういうところあるから、迎えにきて欲しいな。」
すずちゃんはえーっと言いながら内心どこか嬉しそうだった。
学校から3人で並んで帰る。真ん中に何故か私を挟んで。車道側にはしっかり空がいる。そういうところはできるんだ。
「今日はどうだった?」
「楽しかったかな?前いた学校とは大違い。騒がしい人もいないし、新しい友達もできたから嬉しかった。」
「部活は?」
「私に合ってるかな。本読んでただけだし。」
「よかったね。空。話し相手ができて。」
「話し相手も何も、お互い本読んでいるだけだから、今までと対して変わらないよ。」
「嘘言っちゃって。いつもならあくびばかりの空が、今日はほとんどしてないじゃない。暦、空のことよろしくね。」
すずちゃんはその場で立ち止まり、私の手を握ってきた。私は反応に困りながら仕方なく、うんと答えた。
長らくお待たせしました。
今日から少しずつ投稿、更新していきます。




