第71話 思考
前話のあらすじ!!
・これは革命だ
・おいおい、マジかよ
・読めていますよ
―――違う
―――違う違う
俺はとんでもない勘違いをしていたんだ。
俺は今までこの国が何かの計画を企んでいると思っていた。国王や貴族たちが裏で結託して俺たちに何かしようとしているんだと。
だけども、もし、それが違うのだとすれば……?
貴族たちやその周りから聞いた情報。それをもう一度思い返してみる。
まず、アルガンス公爵が治める街、シルトランスで得た情報。
シルトランスの街の人から得た情報ではアルガンス家はAランク冒険者に並ぶ実力を有している武闘派の貴族で不正や不当な権力の行使を嫌うとのことだ。
そして、そんな評価がされていたアルガンス家当主、ジーゼット・フォン・アルガンスとその時に執事としてアルガンス家にいたクラウスさんとの会話では、
『やはりあの話は本当だったようですね』
『ああ。どうやら王都内では勇者たちが二分されているらしい』
『全くオールフェイ公爵は何を考えているのか……これでは計画が……』
『ですがオールフェイ公爵の行いは国王陛下の意向だという話ですよ』
『う~ん。陛下にも何かお考えがあるのだろうが……これでは計画に支障が出ると思わんか』
そんな会話の後、続いた会話はエクイラー家の奴隷の話だった。
そう、この会話では計画に支障が出る、ということだけで何かこれから動くような会話、内容ではなかったんだ。
そして、ジーゼット・フォン・アルガンスから国王、ローランド・フォン・アイゼンブルのことを聞いたとき、非常に民のことを思う優しい王だと答えていた。その情報はルナのスキル《感情感覚》でも嘘ではないということが分かっているし、街の方で聞いたこととも一致していた。
で、さっきデグッド・フォン・エクイラーから聞いた情報では俺たちに呪いをかける提案をしたのはヘルマン・フォン・オールフェイだという。それに国王は了承しただけ。
そして、オールフェイ家で次期当主のガルフ・フォン・オールフェイと執事のと会話では、
『父上から何か知らせはあったか?』
『はい。ヘルマン様からは計画通りに進行していると……』
『そうか。では、予定通りに動くとしよう』
そう。計画通りに進行していて何か行動を行おうとしていた。
―――ここで矛盾があるんだ。
そこから導き出される答。
そう。俺は今まで勇者陣営と王国陣営の二陣営いるんだと思っていた。
―――でも、それが違うのだとしたら?
デグッドが言っていた計画というのは俺たちを呪いでコントロールすること。
ヘルマンはみんなを二分し、ガルフは何やら準備を進めていた。で、ヘルマンのその行いにジーゼットは不快感を示していた。そして、デグッドも呪い以上のことは知らない。
つまり、ヘルマンやガルフの計画と他の貴族たちが企んでいる計画が違うということだ。
その時、不意にコロセッタに来る馬車の中での唯香の言葉が蘇る。
『ひょっとしたらいくつもの計画が進行しているんじゃない?』
いくつもの計画。いや、いくつもの企みが進行しているのだとしたら?
俺の中で点と点が繋がった。
―――違う違う違う
―――二陣営じゃない
―――陣営は三陣営いるんだ。
勇者を召喚し、その勇者に呪いをかけたローランド・フォン・アイゼンブルやジーゼット・フォン・アルガンスたち王国陣営。
日本からこの世界、シリアに勇者として召喚された俺たち勇者陣営。
そして、王国陣営とは別で計画を企てている陣営。
この三陣営いるんだ。
そして、その三陣営目にいるのは…………ヘルマン・フォン・オールフェイ。
待て待て待て。
じゃあ、その計画ってなんだ?そこまでして企てている計画って。
ヘルマンが王都でみんなを二分させた。恐らく桐生や大介たちと原崎たちの二分だ。
つまり、原崎の後ろにいるのはヘルマンということだ。
そう言えばあの時大介は?なんて言っていた?
嘆きの洞窟から王城に帰ってきた時の大介との会話を思い出す。
『今回の件は、原崎が関わっている可能性があるから。だろ?』
『今日の昼間、原崎に絡まれたんだ。その時の原崎の言いようはあの水晶を壊すと黒竜が出ることを知っているかのようだった。多分、あれはわざと水晶を壊して、黒竜を出したんだ』
原崎は水晶を壊すと黒竜が出るのを知っていた。つまり、あの黒竜はヘルマンが用意して原崎に使い方を教えたんだ。
なんで黒竜を用意した?原崎を手に入れるため?にしては大掛かりすぎる。
じゃぁ、本命は…………目的は…………勇者を殺すため?
それが目的、なのか?
いや、待て待て。黒竜?
あの時、地面が崩落した。
似たようなことがなかったか?そう、あれはティアナさんと一緒にイクシオンの西にある遺跡の調査をした時。
遺跡の奥でゴーレムと戦っていたときに地面が崩落した。
――――同じだ。
――――あの時の光景……手口が同じなんだ。
つまり、あれを仕掛けたのは同一人物??
あの黒竜とゴーレムの共通点は…………黒いオーラ?
そうだよ!黒竜もゴーレムも黒いオーラを纏っていた。
それが示しているものは、つまり。
俺の体中を悪寒が走った。
遺跡の地下でのティアナさんの言葉。
『あれは……あの黒いオーラは……魔王の力だから』
『魔王より直々に力を与えられた六体の悪魔。それが六魔族。六魔族はあの黒いオーラを自在に操ることができ、他のモンスターにもその力を分け与えることができる』
つまり、ヘルマン・フォン・オールフェイのバックにさらにいるのは……。
「魔王六魔族……」
くっそ!!なんでもっと早く気が付かなかったんだよ、俺は!!!
いや、待て待て待て。
それを決定付けるにはあの遺跡の件がヘルマンによるものだという証拠がない。黒竜の件だけじゃ足りない。もっと証拠は?
いや、本当にないのか?
あの遺跡の異常を知ったのは……冒険者になってからすぐの依頼、その時にカインたちと出会って教えられた。
待て待て。あの時、カインは……。
『数日前、イクシオンのギルドにとある情報が入った。それはこの森の奥にある遺跡で異変が起こっているという情報だ』
そう。イクシオンのギルドにと言っていた。
つまり、あの遺跡の異常は外部から寄せられた情報ということになる。しかも、ギルドがすぐに動くということは相当信頼されていないといけない。
待てよ。そう言えば……あの時のアリスは何て言っていた。あれは……。
スライムを討伐してシルトランスに帰っている時の会話だ。
『強いといえば、ハルたちの実力も相当だったわね。流石、Sランク冒険者のティアナさんと異常があった遺跡の調査を行ってイクシオンを救っただけあるね』
なんで遺跡の調査を行ったことを知っていたんだ?
あれはギルドからの直接の指名依頼だった。つまり、あの遺跡調査のことを知っているのは実際に遺跡の調査を行った俺たちと依頼をしたイクシオンのギルドだけだ。
その証拠にシルトランスのギルドでのリユさんとの会話では、
『そんなに俺たちのことが知られてるんですか?』
『そりゃもちろんだよ。あのティアナ・アルデシアのCランク最速ランクアップの記録を抜いて、イクシオンの危機に駆けつけた冒険者だからね』
ティアナさんのランクアップ記録を抜いてイクシオンに迫っていたモンスターを退治した話題しか出てこなかった。
つまり、この大陸で二番目に大きな冒険者ギルドのギルドマスターでさえ、遺跡調査のことを知らなかったんだ。
なのになんでアリスとイリスは知っていたんだ?しかも、あんなに詳細に?
それは……知る立場にあったから?
つまり、あの遺跡の異常をイクシオンのギルドに知らせたのは……オールフェイ家?
だとしたらその目的は?
あのモンスターの大量発生の原因は結局掴めなかったけど、ゴーレムを倒すとモンスターはいなくなっていたし、イクシオンに迫っていたモンスターを退治してからは異常は起きなかった。
あのゴーレムが原因?
いや……本当にそうなのか?
遺跡の中で起きた出来事を思い返す。
『その道中、ある異変に気が付いた。
(モンスターがいない……?)
来るとき、そして地下にはあれだけ大量にいたのにここには一体もいない。俺たちが殲滅したんだと思えばそれまでだけど、なんか嫌な感じがする。この静かさが薄気味悪い』
そう。あの時、上に戻ったときにはモンスターがいなかった。
あれだけ大量にいたのにだ。
そして後から聞いた話だけどモンスターの大量発生は各地で起こっていたらしい。そのためイクシオンのギルドからも冒険者を各地に派遣していた。だから街の防衛にあれだけ苦戦していたんだ。
でも、幸い被害は確認されていなく、夕方にはいつもの日常に戻っていた。
―――何でだ?
遺跡にはカインたちが苦戦する程のモンスターがいた。
そして、イクシオンにはかなりの数のモンスターが迫っていたのに大きな被害は確認されていない。
―――何でだ?
それは…………他に目的があるから?
そう言えば遺跡の中にはカインたちを襲っていたあの巨大なオークのようなモンスターはほとんど確認できなかった。
その時、俺の中である考えが浮かんだ。
―――モンスターの大量発生はカモフラージュ?
―――本当の目的は別にある?
オールフェイ家が本当に遺跡の情報をギルドに流したのなら?
ヘルマンが国王に対して不満を持っているのなら?
ガルフが私兵を動かす準備をしているのなら?
そして、その背後に六魔族がいるのなら?
こんな時、魔族の狙いは?
貴族の思惑は?
ポツリと考えを口にした。
「本当の狙いは大量発生したモンスターの一部を手に入れ、そのモンスターで王都に攻め込み、国王、そして勇者たちを始末する、こと?」
背筋が凍るような寒気がした。
ヘルマンが国王のローランドに対して強い不満があったならば、反乱を起こそうという意思があったのかもしれない。
そして六魔族にとって勇者は邪魔な存在。
ヘルマンの目的と六魔族の目的が重なる。
やばい――やばい――やばい。
今までは王国陣営は勇者たちには手を出せない。だからまだ余裕があると思っていた。でも、それは違った。
―――余裕なんてなかった。
「唯香!ルナ!今すぐアリスたちのところに行こう!!」
「えっ?な、なんで?」
「確認しなきゃいけないことがある!!詳しいことは馬車で移動しながら話すよ!!」
タイムリミットは刻一刻と迫っていた。