第64話 罠
前話のあらすじ!!
・屋敷探索
・地下?
・奴隷部屋発見
「では、アイナちゃんはここで生まれた子ってことなんですか?」
「はい……」
どうやらアイナちゃんは俺たちが最初に想像したように無理やり奴隷にされて連れてこられたような境遇ではなかったようだ。でも、不憫な境遇には違いない。
「あの子には悪いと思っています。こんな環境で育ててしまって。さっきの反応を見ても分かる通り、あの子は外に興味津々なんです。ここにいる人達から色々お話を聞いていますから……だから、あの子にも外の世界を見せてあげたい。こんな汚い場所だけじゃなく、世界には綺麗な場所や温かい場所が沢山あるんだよって教えてあげたい。でも、同時にこの場所に居ることで安全が保たれていることも事実なんです。ここに居ればモンスターに襲われる心配もなければ必要最低限の食事を与えられるので飢えて死ぬなんてこともありません。だから、ここに居ることであの子の安全が守られるのならここの方がいいんです……私が公爵様やその息子さんの営みに利用されるのを我慢すれば」
「っ!?利用って……」
その言葉の意味。その意味は十分に理解できた。
「公爵様たちには私の体を好きにしていいと言っています。どんな要望にも応えます、と。その代わり、アイナが十歳になったらこの屋敷から出してあげてほしいという約束を交わしています……あと五年。私が我慢すればあの子は自由になれるんです」
「…………あなたはそれでいいんですか?」
「正直言って良くはありません。一人の女性として、体を毎晩のように犯されるのは……でも、それでアイナが守られるのなら」
「アイナちゃんはそのことを……?」
唯香のその問いにメイナさんは首を横に振った。
「知りません。私達を犯す時はこの部屋のさらに奥にある部屋に連れて行くので、アイナは何が起こっているのか見てはいません。だから、私が我慢すれば……あの子にとって私は母でありたった一人の家族ですから。私があの子を守らないといけないんです」
「えっ!?たった一人って……」
「モンスターの大群に襲われ、私と夫の両親は亡くなりました。私には弟がいたのですが、彼も生きてはいないでしょう。それに、夫は私が連れ去られた数日後に死亡したと教えられました。公爵様から直々に……」
「っ!?」
「私の心を折るのが目的だったのでしょう。ですが、公爵様は知らなかった、母の強さを……。その時に決意したのです。例え、この体をどんなに汚されたとしても、アイナを守ると……」
そう言うメイナさんの瞳には絶望は感じられなかった。その瞳に感じたのは壮絶な覚悟。自分はどうなってもいいから愛娘だけは守る、という決意。
「…………私たちがどうにかします!この状況を!」
「唯香……?」
そんなメイナさんを見て、唯香がおもむろに口を開いた。
同じ女性として、何より人としてこの状況を見過ごすことなんて出来ない。特に、唯香は異世界物のラノベなんかを読んだことはほとんどないからこの状況は納得できるものではない。そんな想いが声に出た結果だ。
「ありがとう。でも、あなたたちにはあなたたちの目的があるんでしょう。私たちのことはいいからその目的のことを考えて」
俺たちにそう言ったメイナさんの優しい表情が俺の頭に色濃く残った。
「ごめんね。唐突にあんなこと言っちゃって……」
あの後、地下から誰にも見つかることなく屋敷内に戻った俺たちはそのまま屋敷の巡回をし、夕方には解散となった。
その後、夕食を食べるために中央区にあるレストランに来ているのだが、席に着いて唯香が呟いたのがそんな言葉だった。
「いや、大丈夫だよ。俺もあれは放置しておけない」
「うん。私も……同じような立場だったからこそ、あそこにいる人達を助けてあげたい」
同じような境遇だったからこそ、ルナもあの状況に憤りを感じているらしい。
そりゃそうだろ。メイナさんの話、あまりにも胸糞悪すぎる。
にしても、どうするかだな。
―――翌日
朝、ご飯を食べていると宿屋の人がギルドの職員から伝言を預かっているということを伝えられた。
内容はギルドに俺たち宛ての手紙が来ているから受け取りに来てほしいとのこと。
「手紙って誰からだろう?」
「さぁ、そんな心当たりはないんだけど……」
とにかく呼ばれたからにはいくしかない。朝食を食べてすぐに冒険者ギルドに行く。
ギルドの中に入り、受付の人に手紙を受取に来た旨を報告。すると、すぐに封筒が出された。
受取り、その封筒を確認。表と裏には何も書かれていない。中を確認すると一枚の紙が出てきた。
地球で使われている紙よりも若干分厚く、硬い。二枚折にされているその紙を開けると綺麗な字で文字が書かれていた。その最後の行にはあるSランク冒険者の名前。
「ティアナさんからだ」
「ティアナさんから?なんて書いてあるの?」
「待って、今読む」
『 ハル、ユイ、ルナへ。
久しぶりね。ユーリスから無事に認められて貴族との繋がりが出来たと聞いてホッとしているわ。
それで早速本題。私の方でも四大貴族について調べていたのだけど、どうやらオールフェイ家で不審な動きがあることが分かったわ。次期当主であるガルフ・フォン・オールフェイがオールフェイ家が所有している私兵を動かそうとしているらしいの。それだけじゃなく、王都周辺でもオールフェイ家の関係者がうろうろしているという情報もあるわ。
だからオールフェイ家の方は私の方に任せて、それ以外で何かが起こっていた場合はそっちを優先してほしい。
お互いの健闘を祈りましょう。
ティアナより 』
「アリスたちのお父さんが……?」
「私兵……」
唯香もルナも手紙の内容を聞いてガルフに対し、疑惑を向けている。
にしても……。
それ以外で何かが起こっていた場合はそっちを優先してほしい。
か。
なんか意味深な言葉だよな。まるで何かが起こるのを分かっているみたいだ。
とにかく気を付けないと……。
ちなみに、今の俺たちのステータスは、
名前 朝比奈 春樹
性別 男
年齢 16
Lv 62
HP 4799/4799
MP 2796/2796
攻撃力 2174
物理防御力 2010
魔法防御力 1995
敏捷性 1981
魔法力 2136
運 30
スキル
《勇者》《武器強化》《魔法強化》《剣術》《火魔法》
ユニークスキル
《妄想再現》
称号
【架空の勇者】【竜殺し】
名前 佐々木 唯香
性別 女
年齢 17
Lv 58
HP 4946/4946
MP 5940/5940
攻撃力 1881
物理防御力 3080
魔法防御力 3626
敏捷性 1980
魔法力 6926
運 45
スキル
《勇者》《賢者》《魔法最適化》《魔力増加》《自然治癒》《水魔法》《風魔法》《雷魔法》《杖術》
称号
【癒しの勇者】
名前 ルナ
性別 女
年齢 13
Lv 51
HP 1497/1497
MP 641/641
攻撃力 1537
物理防御力 932
魔法防御力 880
敏捷性 1561
魔法力 612
運 12
スキル
《鉤爪》《俊足》《夜目》《感知》《感情感覚》
称号
【黒狼の子】
こんな感じ。
…………って、あれ?
俺のレベルほとんど上がってなくね!?
レベル61になったのがティアナさんと一緒にゴーレムを倒した時だ。あれから一か月近くが経過している。
その間にも俺たちは多数のモンスターやミスラスや異様なスライムなどの強敵を討伐している。
レベルが高くなればなるほど必要経験値が多くなるのは当然なんだけど、にしても上がらなさすぎじゃないか?
このペースだと唯香にレベル追い抜かれそうなんだけど……っていうか何なら既にステータスでは追い抜かれてるんだけど……。
「なんでアリスたちのお父さんがそんなことをしているか分からないけど、それを知るためにもエクイラー公爵のところに行かないとね」
「そうだな」
唯香の言う通り、とりあえずエクイラー公爵家に行くか。
相変わらず不気味な雰囲気を醸し出している屋敷の中に入り、巡回しているとある人物に声をかけられた。
「少しいいか?私についてきてもらいたい」
そう声をかけてきたのはエクイラー公爵と一緒にいた仮面を被った男性だ。
なんの用だろう?
キツネのようなお面をつけているため表情が伺えない。んだけど、なんかこの声つい最近聴いたことがある気がするんだよな。
とりあえず、呼ばれたからにはついて行かないといけない。
俺たち三人は仮面を被った男性の後に続いて屋敷内を移動する。屋敷の一階を奥に進み、奥にあるドアから一旦外に。少し進んだところの屋敷の壁に手を当て、押し込むと一部分がへこみ、すぐ横の壁が左右に分かれるように開く。
そこにあったのは地下に続く階段。
(これって……隠し階段)
「この下だ」
なんでこんな場所に俺たちを?
警戒しながらも、その男性の後に続き地下へ。長い階段を降りると開けた場所に出た。
薄暗く、じめじめとしていて鼻をツンとした刺激臭が襲う。
そして……周りには鉄の檻。
「ここって……」
そう、ここは昨日俺たちが来た場所。奴隷になった人たちが囚われている場所だ。
「なんでここに?」
唯香も疑問に思っている。屋敷の関係者ならこんな場所を俺たちに見せるわけない。
「それは……」
「それは、お前たちのためを想ってのことだ」
「っ!?」
俺たちの反対側。ちょうど昨日俺たちが降りてきた階段がある場所から声が聞こえてきた。
その声の主は、緑色の髪を七三分けにした髪形に、小柄でかなり太っている男性。
「エクイラー公爵!?」
そう、エクイラー家当主であるデグッド・フォン・エクイラー公爵だ。
なんでここにいるんだ!?
そして、そのエクイラー公爵から衝撃の言葉がかけられる。
「なぁ~…………勇者よ」
「っ!?」
その瞬間、
「ぐっ!?」
俺のお腹部分に攻撃が加えられた。激しい衝撃が俺を襲い、後ろに吹っ飛ばされる。
視界の端で捉えた一瞬の光景。そこにはあの仮面の男性が片足立ちになり、俺のいた場所にもう片方の足がある光景が映った。
蹴りを加えられたんだ。
そう思った瞬間、背中に感じる衝撃。全身に痛みが走り、逆らえない力に身を委ねるままに地面を転がる。薄暗い部屋のさらに奥にある部屋まで転がり、ようやく止まったと同時に息苦しさを感じ、むせる。
「ゲホゲホッ……」
くっそ!警戒してたのに……
唯香たちは!?どうなった!?
顔を上げ、確認しようとするが、
―――パタンッ
と、扉が閉められた。唯香とルナ、公爵がいる部屋と俺がいる部屋とで完全に分断されてしまった。そして、その扉の前には仮面の男性。
「この先にはいかせませんよ。ハルさん……いや、ハルキさん」
「っ!?なんで……」
この人なんで俺の本当の名前を知っているんだ!?
っていうか、この人は一体……。
「なんで自分の名前を知っているんだ?っという顔ですね。では……種明かしをしましょうか」
そう言ってその人は仮面を外した。その下にあった顔。それを見て、俺は混乱した。その顔を俺は知っているからだ。
「…………クラウスさん?」
そう。アルガンス公爵家で執事をしているクラウスさんだったからだ。