第61話 暗い街色
前話のあらすじ!!
・ミイリンの森を移動
・クァァー!
・冒険者たちの日常
街についたらすぐに宿屋を確保し、夜ご飯を食べて三人で明日のことについて話をした。その結果、明日一日は情報を集めるために動こうということになり、その日は就寝。
翌朝。朝食を食べたら宿屋を出て三人で街を回ることにした。
大陸の西部に位置する街であるコロセッタ。周りが草原に囲まれた平地であるため起伏が少なく、同じような高さの建物が並んでいる。
舗装された土の道路。街の中心である大通りではその道を挟んで左右に隙間なくお店が並んでいる。その並びは惚れ惚れする程に綺麗で、入り組んだ路地などはなく、前後左右に道が分かれているだけだ。
その街並みは昔の日本のようだった。
「凄いね。なんか、江戸時代にタイムスリップしたみたい」
「そうだな~。教科書とかで見るような街並みだな」
だけど……。
(なんだろ?この暗さ……)
今までいろいろな街や村を見てきたけど、その中のどれも感じなかった暗さがこの街からは感じられる。
光が足りないという意味の暗さじゃない。今は朝の時間だから日は十分すぎるほど差している。
そういう意味ではなく……街の雰囲気が暗いんだ。
大通りのお店は開いており、営業している。でも、客引きを行っているわけでもなくお客さんが大勢来ているというわけでもない。人がいないのかと思うかもしれないが、そうじゃない。朝の時間帯だけど、人は結構いる。でも、通りを行きかう人々の表情は暗く、話し声などもほとんど聞こえない。
そう、街の活気がないんだ。
今まで訪れた王都やイクシオン、シルトランス、ラトノアなどは活気に溢れ、街の雰囲気が暗いと感じたことはなかった。
でも、このコロセッタはなんというか、人がいなくなった商店街のような……そんな寂しさを感じる。
(みんな……何かに怯えてる?不安がっている?)
でも、当然か。アルガンス家とオールフェイ家で得た情報ではエクイラー公爵が領民を無理やり奴隷にした噂が街にいる人達に伝わっているそうだ。
なら、不安がるのも無理ないよな。
日本でそんな黒い噂が出回ったらSNSでさらに拡散されて、数日後には辞職に追い込まれるだろう。
だけど、ここは異世界。
しかも、この世界は貴族社会。逆らえば命すら危うい。だから、反乱できない。
それがこの街の現状。
「本来の貴族の役割を忘れ、傍若無人に振るまった結果か……」
そんな俺の呟きに唯香もルナも無言で頷く。二人もそう思っているんだろう。
なにせ貴族としての誇りを持ち、立派であろうとするアリスやイリスの姿を知っているからな。
とにかくこの街のことやエクイラー公爵についていろいろ調べないと。
このコロセッタは大きく分けて五つのエリアに分かれている。
この街に住む人たちの住居がある住宅街の南区。
街の入り口があり、宿屋や、洋服店、食堂・レストランなどのお店がある東区。
鍛冶屋や工場などの生産系の建物がある北区。
お店の代表や四大貴族のエクイラー公爵などのこの街の上流階級の人達の家がある西区。
そして、商業や生産などが集中しており、冒険者ギルドや警備団の基地がある中央区の五つだ。
このことを踏まえ、三人で街を南から順に反時計回りで回っていくことにする。
まずは住居がある南区。ほとんどが一階建ての家で、造りも似たようなものが並んでいる。
その一角で中年の女性三人が集まって話し合いをしている。井戸端会議というやつだな。そういうのは日本でも異世界でも変わらないようだ。
「ねぇ、聞いた?あの噂」
「ええ、聞いたわ。不安ね~」
「あの噂って本当なの?」
「本当らしいわよ」
「ということは五年前の出来事も事実かしら?」
「奴隷にしているなんて……娘がいるから心配だわ~」
どうやらエクイラー公爵の噂について話しているようだ。ちょっと気になるけど、あの中に入るのには中々に勇気がいる。
と、思っていたら唯香がスッとその女性たちに近づいていき、
「あの、その話って詳しく聞かせてもらえることってできます?」
そう声をかけた。
突然入ってきた唯香に若干の戸惑いを見せた女性たちだったけど、年頃の女の子が聞いてきたからこそ真剣にその噂のことを話しだした。
「…………というわけなの。だからあなたも気を付けてね」
「はい、ありがとうございます」
しばらくしたら唯香がこちらに戻ってきて、さっき聞いたことを俺たちに話してくれた。
五年前。この辺り一帯はモンスターの大群に襲われ、小さな村は壊滅した。
だが、このコロセッタは四大貴族の屋敷があり、警備が万全だったためなんとか壊滅を逃れた。そんなこの街に壊滅した村の生き残りの人達が避難してきた。
厄災ともいうべき状況。だからこそ、この街の人達は快くその人たちを受け入れた。のだが、数日後には何人かの人達が姿を消していた。特に若い女性たちが多かったそうだ。
人々は不安がった。
―――モンスターの仕業か?
―――はたまた未知の現象か?
そんな中、一人の男性が自分の妻が公爵に攫われ、奴隷にされたと叫んだそうだ。
その声はこの街の人達の心に響いた。昔からエクイラー家には黒い噂が立ち上っていたからだ。
―――まさか?
そう思ったが翌日にはその男性はいなくなっていた。
―――嘘だったのか?
―――それとも本当なのか?
疑惑の目がエクイラー公爵に向けられるが公に何か抗議をすることは出来なかった。
相手は四大貴族で自分たちは平民。あまりにも立場が違いすぎる。しかも、その時は魔王が復活し、危険な状況。これで街を追い出されたりしたら一巻の終わり。
だから、その時はあまり問題にならなかったけど、つい一か月ほど前にエクイラー公爵がこの街一番の娘を連れ去ったのを目撃した人物がいたそうだ。そして、五年前の話が話題に上がった。やはり、あの時に居なくなった女性たちも連れ去られていたのでは?と。
その声はどんどん大きくなっていった。
それが今のこの街の状況だという。
「アリスたちやアルガンス家、オールフェイ家で聞いたことと一致してるな」
「ってことは全部真実ってことだよね……許せないよ。こんなこと」
「そうだな」
唯香は奴隷についてあまり良く思っていないようだ。奴隷が出てくる異世界物の作品を結構読んでいる俺でもいざ、本当に奴隷って言葉を聞くとあまり良くは思わない。
だから、ルナに対しても奴隷として接したことは一度もない。
「どうにかしてエクイラーの屋敷に入れないかな?」
それともアルガンス家でした時みたいに侵入するか?
「とにかくもっと街を見て回ろう」
そのまま東、北、西と街を回り、昼を過ぎたあたりに中央辺りにやってきた。
冒険者ギルドに立ち寄り、もろもろの手続きを済ませる。その手続きの最中も、ここに来る道中でもあちらこちらで例の噂が飛び交っていた。
もう街中がエクイラー公爵に疑惑の目を向けてるな。
奴隷の件もだけど、エクイラー公爵が持っている《呪い》のこと。そして国王や四大貴族が企んでいる計画。
そのことを突き止めるにはエクイラー公爵に近づくのが一番なんだけど、どうやって近づくかが問題なんだよな。
そう悩みながらギルドを出るとふと人ごみに見知った顔を見かけた。
「あれ?あの人……」
「えっ?なんでここに居るんだろう?」
その人ごみの中にアルガンス家で俺たちを案内してくれた爽やかな執事の男性がいた。




