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第56話 次期当主と夕食会

前話のあらすじ!!


・ヤバイ

・家くる?

・ラトノアへ

 屋敷と同じ大理石でできたアーチ状の門を潜り、敷地内へと入る。入ってまず驚いたのが庭の広さだ。



(これ……どれくらいの広さなんだ?下手したら王城と同じくらいはあるんじゃないか?)



 敷地内に訓練場や聖堂があった王城と同じくらい広い。その庭は正に庭園といった感じで右側から川が流れており、大きな池が中央で出来上がっている。左側には色とりどりの花が植えられた花壇があり周囲には数々の樹木が植えられている。

 さらに、右奥と左奥には景色を楽しむためであろうテラスがある。日本庭園に似てはいるけど、魔道具による光で街と同じく幻想的な雰囲気の庭園になっている。



 俺たちはアリスとイリスに案内され石畳で出来た道を奥に進み、屋敷の前までやってくる。すると、



「お帰りなさいませ、お嬢様方」



 入り口から数名の執事の人達が出てきて出迎えられた。



 お、おう……



 こうしてみると本当にアリスとイリスってお嬢様なんだな。全然そんな感じじゃないのに……。



 中に入るとさらに屋敷の豪華さが際立った。煌びやかなエントランスホール、頭上に輝くのは豪華なシャンデリア、床には赤色の絨毯が敷かれており、シャンデリアの輝かしい光が絨毯を赤く煌めかせ、その存在をより一層際立たせている。

 その左右には天使や騎士を模した彫刻品。正面には上階へと続く大階段があり、階段の手すりにも華美な彫刻が彫られている。



「わぁ、す、凄い……」



「これ……どんな貴族の方の屋敷よりも凄いですよ」



 唯香が感嘆の声を上げ、色々な貴族の屋敷を見たことのあるルナがそう呟く。



 俺もその内装に驚愕していた。同じ四大貴族であるアルガンス公爵の屋敷よりも豪華であることは一目でわかる。



「お嬢様方。お父上がお呼びです。応接室に来るように、と」



「うっ、お父様が……?分かったわ」



「うう、また何か言われるかな?」



「分かんない。とにかく行こう」



 俺たちが驚愕しているとアリスたちの間でどんどん会話が進んでいっている。アリスとイリスが父親に呼び出されたそうだからしばらく待機かな。



「あっ!そうだ。ハルとユイとルナも一緒に連れて行っていいかな」



「どうでしょう?お父上からは何も言われていませんが……」



「よし!じゃぁ、大丈夫!みんな行こう!」



 ちょっと待て!



「えっ?俺たちも?」



「うん。だってお父様が何も言ってないってことは大丈夫ってことだから」



「アリス……さてはハルたちがいるとお父様に怒られなくて済むかも?とか思ってるでしょ」



「な、なにを言っているのかしら~イリスは。そんなこと思ってるわけないでしょ」



 おい!目が泳いでるぞ!!



「さ、さぁ!行こう!!」



「ちょ、ちょっと!?アリス!?」


「わ、わわ」



 そう言いながら唯香とルナの手首を掴み、強引に連れて行くアリス。イリスも仕方ないな~と言わんばかりに後をついて行く。



 これ、ついて行くしかないよな。



 覚悟を決めて俺はアリスたちについて行った。
















 大階段を上がり二階へ。右に曲がり、二番目の部屋の前にたどり着いた。



「失礼します。アリスです。ただいま戻りました」



「イリスです。ただいま戻りました」



 アリスとイリスがお辞儀をしながら部屋に入る。



 本当にあのアリスとイリスなのか……?



 という俺の心の声はさておき、アリスたちに続いて俺たちも中に入る。



 入ると正面には40代くらいの男性がいた。アリスと同じく白い髪に赤い瞳、鋭い目つきではあるもののメガネをかけており、それが知的な印象を与えている。



「帰ってきたか。二人とも」



 少し低めの落ち着いた声色だ。



「うん?そちらの方々は?」



「あっ!この三人は私たちと一緒に依頼をこなしてくれた冒険者のハルとユイとルナです。お世話になったので今日の夕食をご馳走したいと思い、招待しました」



 紹介されたので自己紹介をするしかないだろう。



「ご紹介に上がりました冒険者のハルと言います。お世話になります」



「ハルと同じく冒険者のユイと言います。お世話になります」



「ルナと申します。お世話になります」



 俺たち三人は順番に挨拶する。短いけど、あまり長々と挨拶するとぼろが出そうで怖いからな。



「そうか。私はアリスとイリスの父親のガルフ・フォン・オールフェイだ。娘たちが世話になったな。夕食は楽しんでくれ」



「はい。ありがとうございます」



 そう言いながら俺はアリスたちの父親であるガルフ・フォン・オールフェイという男をよく見る。



(…………いや、確か……いなかった、と思う。俺たちが召喚されたときも王城内にも)



 目の前の男の顔を俺は見たことがない。唯香が言っていた通り、王都で勇者たちを二分した人はまだ王都にいるってことだ。



 ということは当然、俺たちが勇者だということも多分だけど分からない。挨拶をしても何の反応も返ってこないところを見ると大丈夫だろう。



 ホッとしながら俺たちはアリスたちの会話を見守る。



「それで何の御用でしょうか?」



「いや、お前たちに一言、言っておこうと思ってな。シルトランスで冒険者として活動することを許可はしたが三日も連絡がないのはダメだ。今後は連絡を寄こすように」



「はい……分かりました」



「分かったら下がってよし。お客様を案内して差し上げなさい」



「はい」



 そうアリスが言って俺たちは応接室を後にした。この時は不思議に思ってなかったけど、部屋に入ってから会話をしたのはアリスのみ。イリスは最初に帰ってきたことを報告しただけで、その後は口を閉ざしたままだった。

















 俺たちはアリスとイリスに屋敷の中を案内された。大広間、数々の美術品が置いてあるギャラリー、書斎、自分たちの部屋、その他にも使用人や他の人が使うための部屋が20以上、屋敷の裏手には訓練を行うための練習場等、周っているだけで数時間は経過してしまうくらい広い。アリスもイリスも案内している間、ずっと楽しそうだった。



 それはそうか。アリスたちは公爵家の人。王族の次に位が高いからこんな感じで気楽に友達を家に招待する機会も少ないだろうしな。



 それより……。



「なぁアリス、イリス。オールフェイ家って明らかに他の貴族や同じ四大貴族のアルガンス家よりも豪華なんだけど何か理由があるのか?」



「昨日言ったでしょ。オールフェイ家は四大貴族の中でも一番古くから王家に従えている貴族だって。その歴史はなんと1000年以上!だからこれだけ豪華な屋敷が与えられているし、民からの信頼も厚く、王家からも頼られているの」



「1000年以上……それは凄いな」



 魔王が誕生し、勇者が召喚されたのが今から約200年前。つまり、このオールフェイ家はそれよりも800年以上前からこの国を支えている貴族ってわけか。



「他の四大貴族も古くから王家に従えているけど、大体500年から600年くらいの歴史なの。1000年以上従えているのはオールフェイ家のみなんだ」



「そうか……だから本物の貴族って」



「そう!それは私たちの誇り!オールフェイという家名がこのラトノアという街が私とイリスにとって誇りなの!」



「その名に。その誇りにかけて私たちは強くなりたいって思っているの。オールフェイ家は魔法の名家だからね!」



 だからか。アルガンス公爵の依頼について行きたい、強くなりたいって言っていたのは。



「あっ!もうすぐ夕食の時間じゃない?食堂まで案内するわ」



 色々納得し、俺たちは二人について行った。















 時間は午後六時を少し回ったくらい。俺たちはアリスたちに連れられて屋敷の二階にある食堂に案内された。奥の方にある一際大きな扉を開けると二十人以上は座れるだろうという大きなテーブルがあった。



(凄い豪華な食堂だな)



 席に着くとすぐに食事がテーブルに並べられた。サラダに肉料理に魚料理、スープ……シルトランスの高級レストランと遜色ない料理だ。だけど、その中で一番俺の、というか俺と唯香の目を奪った料理があった。



「こ、これは……」


「まさか……」



 二人してゴクッと唾を飲む。



 香ばしい香り、四角く小さく切られた肉、食欲をそそる胡椒の匂い、そして鮮やかな緑色のネギが上にのせられている。



(チャ、チャーハンだ)



 そう、チャーハンだ。



 この世界の主食はパンで、米ではない。だからどんなお店に行ってもご飯は出てこなかった。それなのに、目の前にはチャーハンがある。



「な、なぁ、この料理って……」



「うん?ああ、チャーハンのこと?珍しいでしょ」



 名前そのままなのな!



「これ、どうしたの?」



「どうしたって?この料理は家に伝わる伝統の料理よ」



「そ、そうなの?」



「そう。この料理に使っているのがお米っていうのなんだけど……そのお米は昔、他の地方で作られていたものだったの。その地方で作られていたお米の栽培方法をオールフェイ家は受け継いでいるのよ」



「それはなんで……?」



「その地方の公爵家の方と婚姻を結んだのがオールフェイ家なの。私のような白色の髪の毛を持つ人種ってこの辺りじゃ見かけないでしょ。でも、この髪色ってその地方では当たり前だったの」



 確かに……。リユさんとか白色の髪色の人はいるけど、リユさんは白兎種、獣人だ。人種だと白色の髪の人は見たことがない。



「それが証拠。オールフェイの一族は代々この髪色を受け継いでいるの」



「そうなのか……あれ?でも、イリスは?」



 アリスは確かに綺麗な白色だけど、イリスは俺たちと同じ黒色だ。詳しくは聞いてないけど、アリスとイリスは姉妹のはず。代々受け継いでいるならイリスも白の髪色になるんじゃないか?



「あ~~……それは」



 アリスが言い淀む。それを見たイリスが代わりに応えた。



「アリスはお父様の正妻の娘。で、私は側室の娘。同じ父親から生まれたはずなんだけど、私には白い髪色は受け継がれなかったの」



 それ以降、二人は口を閉ざした。



 この二人は異母姉妹というわけか。二人の様子からしてなんか複雑な事情があるんだろう。



「ごめんな、二人とも。変なこと聞いて」



「ううん。全然気にしてないよ」



「それで、そのお米を作ってる地方ってどこなの?私凄く気になるんだけど!」



 話を変えるため唯香が食い気味に聞いた。まぁ、半分は本音かもしれないけど……。っていうか俺も気になる。



「そんなにこの料理が気になるの?まだ、食べてもないのに」



「うん!凄く気になる」



「そう。気になっているところ悪いんだけど、その地方はもうないの」



「えっ?ない?」



「ええ、このお米を栽培していた地方って言うのが中央大陸の【リーフ大陸】なんだけどね」



 あれ?中央大陸?



 この世界、シリアには大きく分けて二つの大陸がある。



 俺たちが今いるアイゼンブル王国がある東大陸の【ナート大陸】とスレイリア王国がある西大陸の【サイル大陸】の二つだ。



 中央大陸なんて聞いたことがない。



「ちょっとまって!中央大陸って?」



「えっ?知らない?結構有名な話なんだけど……。元々シリアは一つの大きな大陸で出来ていたの。でも、200年前の勇者様と魔王軍との戦いで、中央大陸があった部分が消滅してしまったの。だから東側と西側に大陸が分かれているのよ」



 はぁ!?大陸一つが消滅!?



 なんだそりゃ!?そんな凄い戦いだったのか!?



「その大陸がなくなってしまったからこのお米は市場に出回らなくなったの。そう言えば、200年前の勇者様たちはその事実に絶望していたらしいけど……」



 そりゃそうだよ!米がなくなったんだからな!



 っていうかこの話からも分かるけど、200年前に召喚されたのも日本人だったんだな。



「で、この料理のチャーハンはその勇者様たちが作れられた料理で、私たちのご先祖様が勇者様から教わったらしいの」



「そ、そうか」



「それより早く食べよう!私もうお腹ペコペコだよ」



「そうね!」



「あぁ、っていうかアリスたちのお父さんは?一緒に食べないの?」



「お父様は次期当主だからね。忙しいから後で食べるんだと思うよ」



「そうか。じゃぁいただきます!!」



 そういうことでさっそく俺はチャーハンに手を差し伸べた。スプーンですくい、一口。



「う、上手い!!」



「ん~~!美味しい!!」



 どうやら唯香もまずはチャーハンを口にしたようだ。



 この世界に来てから四か月。久しぶりのお米を俺たちは堪能した。


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