第50話 修羅場??
前話のあらすじ!!
・透明化
・アリスとイリスの決意!!
・勝利!!
勝った、のか?
なんだったんだ?あのスライムは……。
異様。異常と言ってもいい姿。
強力な不可視の攻撃に魔法。
透明化の能力。
通常のスライムとはかけ離れた強さ。しかも、あのスライムはその場に死体が残ることなく消えた。
この世界はステータスやスキルがあるからゲームの世界みたいだと勘違いしがちだけど、紛れもない現実であり、モンスターの死体などはその場に残る。
そのモンスターの死体から魔石を取ったり、その素材から武器、防具を作る。だから、ゲームのように倒したら光の粒子になって消えて、その場にお金やアイテムや宝箱がドロップ!なんてことはない。
いくら《聖属性魔法》で倒したといってもさっきのスライムのように死体が消えるなんていう現象は起こらないんだ。
本当に何なんだ?
とにかくこれで終了、だよな。
辺りを見回してもあのスライムがいた時のような不気味さはもうなく、モンスターもいない。
「アリス!大丈夫!?」
「う、うん……」
そう考えているとイリスが心配そうにアリスに声をかけた。それにアリスは弱々しくながらもしっかりと答える。
「立てる?」
「うん…………あれ?」
アリスが立ち上がろうとするが、立てない。足が震えている。
「あはは……ちょっと腰が抜けたみたい」
そう笑みを浮かべながら冗談みたく言うが、無理やり笑っているのが分かる。
無理もない。なんせ、あんな異様なスライムに食われかけたんだ。
「一応、回復魔法をかけるね」
「ありがとう。ユイ」
唯香がアリスに《回復魔法》をかけるが足の震えは直らなかった。この世界の《回復魔法》は傷や体力を回復するだけで精神的なものまでは回復することが出来ない。
だから恐怖などで腰の力がなくなり、立ち上がれなくなってしまう現象に見舞われたアリスはしばらくは立ち上がれないだろうな。
だけど、いつまでもここに居るより早くシルトランスの街に帰って休んだ方がいいと思う。
「アリス。背中に乗れ」
「え?」
「早く街に帰って休んだ方がいいだろ。だから街までおぶっていくよ」
「い、いいよ。そんな、悪いから」
「でも、いつまでもここに居るわけにはいかないだろ?」
「うっ……分かった」
ようやく分かってくれたのかアリスが俺の背中に乗ってくれた。
よし!これで帰れるな!
そう思い、アリスをおんぶした瞬間。
「~~~~!!!」
唯香の方からなにやら声が聞こえてきた。振り返るとむくれている唯香が目に映った。
「え、え~と、何か?」
「べっっつに~~~」
これは、あれだ。何かダメな時のやつじゃないのか?
「……あっ!!ち、違う!ユイ!特に意図はないから!!」
「だ、だいじょうぶ。気にしてないよ~~~」
……あっ!
そうだよ!他の女の子をおんぶしたら唯香だっていい気はしないじゃん!!
ただ時すでに遅しと言ったところか、アリスに「降りろ」と言えるはずもなく、
「さ、さぁ!シルトランスに帰るぞ!」
帰路についた。
うん。唯香には後でフォローを入れよう。
帰路についてから一時間程度が経過した。その間、何とも言えない空気が俺たちの周りに充満していた。
まぁ、その理由が唯香が拗ねているからであり、原因は俺なんだけど……。
くっそ!桐生や木原なんかの女子からモテるリア充組なんかだとこんな時の対処なんかも簡単にやるんだろうな!
そんなスキル俺にはないんだよ!!
とにかく帰ったら唯香と話をしよう。絶対にしよう。
と、ここであのスライムについて考える(現実逃避)ことにする。
普通のスライムとは違う異質なスライム。
見た目もそうだけど、何より厄介だったのがその能力だ。
―――不可視の攻撃
《感知》スキルがないと防御することさえ困難な視認できない攻撃。威力も黒竜の防具の防御力を貫いて俺にダメージを与えてきた。
そしてさらに厄介だったのが、
―――透明化
《感知》スキルや《看破》スキルでさえ見破ることが出来なかった能力。普通に相手取ったらまず勝つことは困難。
しかも《鑑定・極み》で鑑定しても分からない、というよりバグってるようなステータス。
さらには最後の攻撃の時だ。アリスとイリスを攻撃したのは偶然ではなく、恐らく狙ってのこと。
分かったんだ。アリスとイリスの二人が自分の居場所を特定していることに。
本来スライムというモンスターは知性や理性はなく、本能のままに動くだけのモンスターのはずだ。
にも関わらず、あのスライムはアリスとイリスが自分の居場所を突き止めていると判断し、それを排除しようと動いた。
明らかに知能が備わっていた。
そして、倒すと消滅。
普通の冒険者じゃ倒すのは不可能なくらいの強さ・戦闘能力を持ち、異常なステータス、高い知能。
あのスライムは何なんだ?あの時感じた感覚は……?
あの半透明なスライムは?あれは関わりはあるのか?
そう言えば、なんでアリスとイリスはあのスライムの透明化を感知出来たんだ?
聞いてみるか?
「なぁ、アリス。なんであのスライムの位置を感知出来たんだ?」
「え?……ええっと感知というよりかは、魔力の流れが変だったから分かったというか……」
「魔力の流れ?」
「そう。魔法やスキルを発動する際に消費する魔力―――MP。それは人の体の中だけじゃなく、モンスターや自然の中にも存在しているの。モンスターは体内に魔石を宿しいていてそれから魔力を引き出し、魔法やスキルを使用する。でも、人でもモンスターでもない存在である《精霊》なんかは自然界に存在している魔力を使用することで魔法やスキルを使用する。世界には見えていないだけで魔力が溢れているの」
「私とアリスは幼い頃からあるスキルを発動するために魔力を制御する訓練を積んでいる。だから二人で力を合わせれば普通は感じ取れることの出来ない自然界にある魔力の流れを感じ取れるの。あのスライムは透明化していて姿は視認できなかったけど、ほんの少しだけ不自然な魔力が漏れていた。それを感じ取った、というわけ」
アリスの説明を引き継いでイリスが答えてくれた。
なるほどな。スライムが透明化した時に周囲に現れたオーラのようなもの。あれは魔力に似た何かだった。
あのオーラがスライムに吸収された後は感じ取ることが出来なかったけど、アリスとイリスは感じ取れたというわけか。
「そ、それより……」
「うん?なんだ、アリス」
「も、もう大丈夫だから!降ろしてもらってもいい?」
「あ、ああ……」
そう言ってアリスをゆっくりと降ろす。足を踏み外すということもなくしっかりと立っている。本当にもう大丈夫だな。
「あ、ありがとう」
俺から離れる際に小さい声でそう言ったアリス。その顔は赤く染まっているように見えた。
「お、おう」
うん?なんだ?この展開は??
これってよくある展開なのでは……??
「へ~~~」
「あっ!いや……」
そんなことを考えていたからなのか唯香が俺に詰め寄っていた。
「良かったね~~~。アリスのことをおんぶ出来て。さぞいい感触だったんだろうね~~~~」
「いや、そ、そんなことはないって!む、胸とかも当たってなかったし!」
「そんなことはない……?しっかり当たってたと思うんだけど……それってどういうことかな~?」
「へっ?いや、それは……」
ここでアリスから追撃!?これって逃げ場なくない!?
アリスの胸はなんていうか……まぁ、残念なほどにない。イリスや唯香と比べて可愛そうなくらいに……。
肯定すれば唯香、否定すればアリスから何かを俺は受けてしまう。何かは分からないけどとんでもないものを受ける。そう確信する。
「え、ええっと……」
黒竜、ゴーレム、そしてスライム。
数々の強敵と戦ってきたけどその中でも一番に冷や汗をかいたのがこの瞬間でした。
帰路についてから二時間ほどが経過。あと少しでシルトランスに到着というところまで帰ってきた。
やっとここまで帰ってきた~~~。
つっかれた!マジで疲れた。
あの後唯香を説得したり、アリスに説明したり……ルナも手伝ってくれればいいのに、「自業自得」って感じで会話に入ってこなかったし、イリスもフォローするどころか笑ってたし。
とにかく疲れた。今日はもう宿屋に帰ってゆっくりしよう。アルガンス公爵への報告は明日でもいいだろう。
その前に、聞いておきたいことをアリスたちに聞いておくか。
「なぁ、二人とも。エクイラー公爵って知ってるか?」
「えっ!?そ、そんなの知ってるに決まってるけど……」
「それがどうしたの?」
「いや、なんか変な噂を聞いてさ。もしかしたらそのことについて何か知ってるかな~と」
「あ~、もしかして奴隷の件のこと?」
おっ!やっぱり知っていたか。
「そう!それ!」
「あくまでも噂の範囲だけどね。昔からエクイラー家って黒い噂が絶えない貴族で、現当主のデグッド・フォン・エクイラー公爵は歴代のエクイラー家の中でも特に女好きって話よ」
「屋敷で雇っている人もほとんどが若い女性で奴隷も各地から大量に買っているらしいわ。そして、自分の領地に居たある女性を気に入ったらしくてね。旦那さんがいるにも関わらず、その女性を無理やり屋敷に連れて行って、逆らえないように奴隷にしたらしいの」
なんだそりゃ!?最低じゃん!!
「そんなことをしているのに何で捕まらないんだ?」
「一つは四大貴族だから。この国に古くから仕える四大貴族は強い権力を持っている。下手に逆らえば自分、あるいは自分の家族にまでその権力が及ぶ可能性がある」
貴族社会であるこの世界では例え犯罪を犯したものを取り締まる警備隊でも貴族相手には強くでられないというわけか。
「さらにさっき言ってた話はあくまで連れ去られた女性の旦那さんが言っていたことで、その旦那さんは翌日には姿を消したらしいの。だから証拠がない」
証拠がなければ証明は難しい、か。でも、その話は怪しすぎだろ。
証拠隠滅のために暗殺者的な人が動いたとしか思えないな。
「そして、エクイラー公爵には途轍もなく強い護衛がいるのよ」
「護衛?」
「ええ。大量に奴隷を買ってるって言ったでしょ。その中には戦闘用の奴隷もいる。しかも、ここ最近はでたらめに強い人が護衛に加わったって話よ」
フム。ここまでの話でそのエクイラー公爵っていうのは相当なクズっていうことが分かったな。
てことはそれだけ王国、この国の闇に繋がっているってことじゃないか?
「じゃぁ、オールフェイ公爵については?何か知ってる?」
「っ!?もちろんよ!!四大貴族の中でも一番古くから王家に従える誇り高き貴族にして魔法の名家。その当主であるヘルマン・フォン・オールフェイは知性に溢れ、魔法の腕も超一流。正に文武両道!!次期当主であるガルフ・フォン・オールフェイも思慮深く、民から絶大な信頼を寄せられているの!!エクイラー家なんかとは違う本物の貴族なのよ!!!」
そう熱弁するアリス。
なんだ?アリスはオールフェイ家に憧れを持っているのか?
「ちょ、アリス、ストップ!」
横からイリスがアリスの暴走を止める。
「うっ……ごめんハル。ちょっと熱くなり過ぎたわ」
「いや、俺は別にいいけど」
「と、とにかく!オールフェイ家は凄い貴族なの!!」
う、う~ん。アルガンス公爵が言っていたことが事実ならオールフェイ公爵が勇者を二分したんだよな。
恐らく原崎や原崎側につく勇者と桐生や大介、西山を含む他の勇者の二分。
「最近、王都で召喚された勇者については何か知らないか?」
「え?勇者様について?……そうね~。勇者様の情報は極秘扱いだから私たちも詳しくは知らないわね」
「そうか……」
みんなについての情報はなしか。
「勇者様か~。どんな人たちなんだろうね!」
「やっぱりすっごくカッコよくて!すっごく強くて!他の人のことを第一に考える人格者!って感じの人でしょ!」
「アリスは相変わらず、お伽話の勇者像なのよね~。勇者様だって人間なんだよ。そんないい人ばかりじゃないかもしれないのに」
「そんなことないわよ!勇者様がいれば世界は救われるのよ!!」
なんだか……凄い期待が……。
これは流石に唯香も苦笑いしている。
「強いといえば、ハルたちの実力も相当だったわね。流石、Sランク冒険者のティアナさんと異常があった遺跡の調査を行ってイクシオンを救っただけあるね」
「それは私も思った。ほんと凄いよ。私もイリスも結構戦闘に関しては自信あったんだけど、今回の依頼でもっと強くならなくちゃって思った」
「アリスとイリスは今のままでも十分強いよ。魔法の練度で言えば私よりも上だと思うし。今回の戦いは二人がいないと勝てなかったんだから」
「ありがとう。ユイ。でも……」
「私たちは今以上に強くならないと……」
二人ともが表情に少し影を落とした。それを払拭しようとアリスが元気よく言う。
「今のハルたちの実力だと、冒険者の中でもトップクラスでしょ!それこそ敵う冒険者なんてもう一人のSランクの……」
「ちょ!アリス!その方は……」
「あっ!」
何か言ってはいけないことを言ってしまった。そんな表情をするアリス。
「…………あっ!ほら!シルトランスの街が見えてきた!今日は疲れたから早く帰って休みましょ!」
「そうね!ハル、ユイ、ルナもゆっくり休んでね!」
「あ、ああ……」
そう強制的に会話を終了させ、シルトランスの街に急ぐアリスとイリス。さっきまで話していた内容が気にはなるけど、疲れているのは事実なので俺たちも早く街に入ることにした。




