第48話 スライムとの戦い
前話のあらすじ!!
・異様なスライム登場
・不可視の攻撃!?
・とんでもない魔法の発動予感!
これまでの戦いからこのままじゃ勝てないと感じたアリスとイリスはお互いに手を取り、繋ぐ。
そして、息を合わせるように目を閉じ集中。
呼吸や仕草、その意思や意識、心臓の鼓動まで……。正に二人が一人の人間になるかのように……。
すると、アリスとイリスの足元に小さな魔法陣が現れた。注意しないと分からないほどに小さな魔法陣。だが、その魔法陣が徐々に大きくなる。
魔法陣の大きさが一定に達した時、
―――ゾッ―――
とんでもない魔力が周囲に溢れ出す。
「っ!?」
その魔力は戦っていた春樹にも届き、思わず振り返った。
何だ!?この魔力は!?
魔力。つまりMP。
物として表す場合は魔力。数値化した物をMPとこの世界では呼んでいる。統合しろよと言いたくはなるんだけど今はそんなことは本当にどうでもいい。
(2000?3000?いや、4000?どれだけの量を集めているんだ??)
肌で感じたその感覚は唯香の魔力をも上回る。いや、もしかしたらあのティアナさんに匹敵するかもしれない。
そんな量の魔力をアリスとイリスは一つに集めている。足元にある魔法陣がその証拠だ。今もその魔法陣は大きくなり止まる気配がない。
そして二人が合わせている手にも魔法陣が出現。
その瞬間、
―――パリ―ン!!
ガラスが割れたような甲高い音が周囲に響き、魔法陣が消え去る。
「え?」
その魔力に圧倒されていたルナが戸惑いの声を上げる。それもそうだ。あれだけの魔力が一気に霧散し、今は全く感じないのだから。
その現象を起こした張本人であるアリスとイリスはその場で崩れ落ち、膝をついた。
「っ!?アリス!!なんで!?なんでこんな時にも失敗するの!?」
イリスは悔しそうに、そしてそれを吐き出すようにアリスにぶつける。
「っ!?私の所為だっていうの!?イリスのせいでしょう!!昔から失敗ばかりしてるのは!」
アリスも自分の思いを吐き出す。悔しそうに、目には涙を浮かべながら。
「私のせいじゃないわよ!私は成功したいって思ってる!」
「私だってそうよ!!成功しなきゃいけないの!!こんな時だからこそ!成功しなきゃいけないのに!!」
そして喧嘩が始まる。普段なら苦笑いして止めに入るけど、今は戦闘中。流石にそんな余裕はない。
「アリス!イリス!喧嘩は後にしてくれ!今はあのスライムを倒さないと」
「そうだよ。今はあのスライムを」
ルナがスライムの注意を引いてくれていたからアリスとイリスに攻撃はやってこない。そのうちに態勢を整えるために俺と唯香が二人に声をかける。
「なんで!?なんで!?なんで成功しないのよ!!!」
「成功させなきゃいけないのに!その名にかけて……」
だが、二人はさっきの攻撃が成功しなかったのがショックなのか立ち上がろうとしない。
ダメだ。あの二人は後回しだ。
「唯香!二人を頼む!」
唯香にそう言い、俺はスライムに突っ込んでいく。
「ルナ!一旦後退!」
「うん!」
ルナが後ろに下がると同時に俺がスライムの前へ。《鑑定・極み》と《剣豪》を解除し、《剣王術》と《魔法剣術》と《剣術攻撃威力増加》を再現。
「いっけ!!」
俺は左手で《火魔法》の《フレア》を発動し、それを地面に向かって放った。初速が速いこと以外はそれほど特徴のない下位魔法。でも、攻撃手段としてこれを発動したんじゃない。
地面に着弾することによって土煙が発生。それによりスライムの視界を奪う。
あれだけ目があるんだ。体温で感知してるとかじゃなさそうだし、嗅覚があるとは思えない。
だから視界を奪い、後ろに回る。そして《剣王術》スキルの《断絶斬》を使用。
―――ズドーーーン!!
これまで以上の轟音。
だが、スライムにはダメージが通っているようには見えない。
なら……
「《焔斬り》!!」
《魔法剣術》の上位スキルである《焔斬り》を発動。黒竜の剣に炎が纏わりつく。
集中しろ!想像しろ!妄想しろ!
炎。
それは俺が妄想の中で一番好きだった物。一番得意だった分野だ。
それに黒竜の剣の効果で火属性の攻撃の威力が上がっているから普通の斬撃より効果的なはずだ。
炎を纏った剣でスライムに攻撃。一撃、二撃、三撃と攻撃をヒットさせる。ヒットさせるごとに周囲に《焔斬り》の影響で火の粉が舞う。
が、スライムには傷一つ付いていない。
さらに攻撃を加えようとするがスライムが反撃してきた。正面ではなく、四方からの攻撃。
これを《盾術》の《エリアシールド》で防ぐ。攻撃を防ぎきり、反撃しようとしたがスライムの足元に魔法陣が現れているのに気が付いた。
(こいつ!魔法も使うのか!?)
俺に対してスライムが放った魔法は《水魔法》。おそらく中位クラスの魔法だ。
だったら……。
俺の中で妄想を膨らませる。妄想の中で俺は《氷》の魔法を使っている。そのシーンを思い浮かべる。
冷たい冷気が辺りを漂い、地面を凍らせ、迫ってくる水の攻撃を凍らせて無効化する。
【スキル《盾術》を解除します】
【妄想再現の条件が達成しました】
【スキル《氷魔法》を再現します】
「《フリージングベール》!!」
迫ってくる水の攻撃を包み込むように氷が纏わりつき、凍らせて攻撃を無効化する。
―――よし!!
次にその《氷魔法》でスライムを攻撃。
「《フリージングサインズ》!!」
スライム全体を覆いつくすほどの強力な氷の波にのまれ、スライムの体を凍らせる。
「《焔斬り》!!!」
凍っているスライムに炎属性の《焔斬り》で攻撃。氷が砕け散り、《焔斬り》の熱により、水蒸気が発生しスライムが後方に吹き飛ぶ。今、とんでもない衝撃がスライムを襲っているはずだ。
なのにも関わらず、スライムはそのダメージをもろともすることなく次の攻撃を行おうとしている。
防御をしなければかなりのダメージが俺を襲うだろう。だけど、俺は防御ではなく攻撃のモーションに入っていた。
そう。今は俺一人で戦っているんじゃない。
「はぁああっ!!」
スライムが攻撃に移ろうとしたその一瞬の隙にルナがスライムに肉薄する。疾風の如くスライムに迫り、右足で思いっきり踏み込む。
踏み込みと同時、身体を右側にねじり、右手を思いっきり後ろに引く。左足の着地と同時に身体全体を使って鋭い突きを放つ。
《鉤爪》スキルの《激突》だ。
鋭く、貫くような攻撃。そのスキルの余波で周囲の木々が揺れる。
スライムがルナの攻撃により、怯み、攻撃ができなくなった。
今だ!
さらにその隙をつき、今度は俺がスライムに迫る。ルナは俺の動きを見て後ろに後退。俺は《魔法剣術》の上位スキルである《雷神斬》を使用。
「《ウォータープリズン》!!」
それを見た唯香が《ウォータープリズン》を発動し、瞬時に解除。スライム全体に水がかかる。
ナイスだ!!
《雷神斬》でスライムに攻撃。周囲にはバチバチバチという電撃が舞い、スライムの体全体に電流が流れる。
痺れたか??
見た目では分からないが、それでも今が攻め時だ。
「《絶空》」
《剣王術》スキルの上位スキルである《絶空》を発動。圧倒的な空気の刃、嵐のごとき爆風が周囲を駆け抜ける。
《絶空》によりスライムが後退。そして、その先には……。
「やああぁあ!!!」
ルナだ。俺が攻撃を放った瞬間に予測し、スライムの後方に移動していたんだ。スライムが後退した直後を狙い、攻撃。
だが、スライムもやられっぱなしではない。ルナの攻撃直後に魔法を発動。
スライムの周囲に爆風が吹き荒れる。
あれは《風魔法》。だったら……。
【スキル《氷魔法》を解除します】
【妄想再現の条件が達成しました】
【スキル《土魔法》を再現します】
スライムから一点集中の爆風が俺に迫る。
「《アースドウォール》!!」
俺は《土魔法》の上位魔法である《アースドウォール》を使用。俺の目の前に巨大で分厚い土の壁が現れる。
―――ゴウッッッ!!!
土の壁により爆風が防がれ、轟音を残し、消え去る。
「やあっ!!」
その隙をつき、唯香が魔法で攻撃。さらにルナ、俺と続く。
三人での圧倒的な連携。コンビネーションの攻撃によりスライムは中々俺たちに決定的な攻撃を出来ていない。
だけど、それは俺たちも同じだ。あれだけ攻撃してもスライムは倒れるそぶりを見せない。
(不死身かよ!?)
あんな悪魔みたいなスライム……どうやって……?
うん?悪魔……?
……試してみるか。
俺は《妄想再現》により色々なスキルをその状況に応じて再現して適切に使用し、対応できる。いわゆるオールラウンダータイプだ。
いける!試せ!思考を止めるな!
どのスキルがいいか。どんなスキルを再現するか。常に妄想しろ!
春樹たちの戦いを見ていたアリスとイリスはその戦いに驚愕していた。
「なに……あれ……」
今、目の前で繰り広げられている戦いはアリスとイリスが普段行っているものとは一線を画していた。
味方の行動を予測し、自分の役割を正確に理解して、的確に使うスキルを選択する。動きもそうだけど、手札にあるスキルをどのタイミングでどう使うか。それはいくら訓練を積んだとしても実践でしか得られない技術だ。
アリスとイリスは自分たちの実力は同年代の中では頭一つ抜けていると自覚している。
幼い頃より魔法の訓練を死に物狂いでやってきたからこそ、そう信じているし、実際に同年代の冒険者や魔法使いよりも実力は上だ。
だが、目の前の戦闘は明らかに自分たちがついていける次元を超えている。
「凄いでしょ、ハルくんもルナも。お互いに信じあっているからこそあそこまで連携が取れるんだよ」
確かに、ハルとルナ……それからユイも。この三人の連携は凄まじい。
でも……
それを可能にしている者。その者の存在が何よりもこの戦いの流れを作っている。
二人の目線の先にいるのは自分たちよりか年齢が一つか二つ上の少年。黒髪黒目のその少年がこの戦いのカギを握っている。
その少年の名前はハル。
Sランク冒険者であるティアナ・アルデシアのCランク最速ランクアップ記録を抜き、そのティアナと共にモンスターの大量発生が確認された遺跡を調べ、中に居たゴーレムを倒し、イクシオンの危機に駆けつけ、救った冒険者パーティーのリーダー的な存在。
シルトランスの冒険者ギルドのマスター、リユ・ハウスター曰く、異常ともいえる冒険者。
その理由が分かったような気がした。
ハルは多彩なスキルを自由自在に使い分け、的確にスライムからの攻撃を防ぎ、自ら攻撃を加えている。
《剣豪》、《感知》、《火魔法》、《魔法剣術》、《盾術》、《氷魔法》、《土魔法》……他にも二人が分からないスキルを使用している。
一体いくつのスキルを所持しているのか……。
あれでは次にどんな攻撃を行うのか。どんな手段で防御をし、移動をするのか。全くと言っていいほど見当がつかず、予測不可。
正に変幻自在と言った戦い方だ。
そんな異次元ともいえる戦いを目にし、アリスとイリスは唇を噛み締める。
だが、
「「え?」」
二人は不気味ともいえる気配に目を見張る。それはあのスライムから放たれたものだ。
―――何かが来る。
その場に居た全員がそう感じた。




