第43話 潜入
前話のあらすじ!!
・ドキドキの謁見
・スライム『呼んだ?』
・本当にスライム??
アルガンス公爵との謁見が終了し、俺たち三人は応接室に案内してくれた執事の青年に再び先導され出口へと案内される。
最後に気になったことを聞くか?
「あの~、少しいいですか?」
「はい。何でしょう?」
「執事ってイメージだともっと年齢が上の人がしているもんだと思っていたんですけど……」
「ああ、そのことですか。良く驚かれるんですよね。このアルガンス家では年齢よりかも能力、力を優先するんですよ。アルガンス家が武闘派の貴族だというのは有名な話でしょう。だからこの屋敷ではそう言った戦闘面で能力の高い人が使用人に選ばれるんです」
「つまり……あなたもかなり戦闘面では能力が高いと?」
そういうことなんだろう。実際そう聞かれた青年は笑みを浮かべてるしな。
「そのため、私みたいに若い年齢でも執事をしている人は他にもいます。ですから年齢と実力は関係ないと分かっていたのですが、あなた方を見て思わず驚いてしまいました。あなた方……かなり強いでしょ」
「っ!?」
今度はこっちが驚いてしまった。その言葉と雰囲気に。一瞬にして変わったその青年は正しく武人といった感じだ。
「私よりも若いのに凄いですね。流石、パープルトーン男爵に認められるほどの冒険者だ……出口に着きましたね。どうぞお気を付けて」
「は、はい。ありがとうございました」
ビックリした。でも、会ったときに驚かれた理由が分かった。
俺たちは執事の青年に見送られながらアルガンス公爵の屋敷を後にした。その後は、明日に山脈に行くための準備のためにこの街の色々なお店を回りポーションや道具を買い揃えた。
そんな春樹たちを見ていた二人の少女、アリスとイリスは、
「やっぱりあの二人、アルガンス公爵から依頼を受けたんだ。どんな依頼かまでは分からないけど」
「でも、あのアルガンス公爵が他の冒険者に依頼する程だよ。絶対に凄い内容だよ」
「うん。だとしたらチャンスだね」
「うん。私たちが強くなるために」
そう言ってそれぞれが決意をした。強くなるために。
―――その日の夜。
俺はアルガンス公爵の屋敷に来ていた。別に会いに来たわけじゃない。
「よし!やるか!」
気合を入れるためにそう自分に言い聞かせるように発する。
そして《妄想再現》を使用する。
イメージするのは【忍者】だ。
黒装束に身を包み、闇夜に紛れて敵を打つ。そんな忍者。
忍者になるためには何が必要だ?そのスキルは?
ゆっくりと的確に妄想する。
自分の妄想の中で自分の姿が思い描いた忍者の姿になる。そう、忍者になれ。俺は忍者だ。
【妄想再現の条件が達成しました】
【スキル《身体強化》を再現します】
【妄想再現の条件が達成しました】
【スキル《隠密》を再現します】
【妄想再現の条件が達成しました】
【スキル《夜目》を再現します】
《身体強化》《隠密》《夜目》の三つを再現。
とりあえずこれでいいかな?後は状況に合わせて再現すればいい。
俺がやろうとしていることは実にシンプル。アルガンス公爵の屋敷への潜入だ。
何か手掛かりが掴めればいいんだけど……
とにかく屋敷に入り込む。
日本みたいに優秀な防犯システムがそもそもこの世界にはない。だから基本的には屋敷を見回っている警備の人達に見つからなければ問題ない。
俺は《隠密》のスキルを使い、警備の人達を掻い潜りながら屋敷の中庭へと入っていく。
(敷地内には侵入できた。後はここからどうするかなんだけどな……)
屋敷の中まで入ると《隠密》の効果が薄れてしまい、見つかる可能性が出てくる。
どうするかと悩んでいると俺の真上の窓から明かりが漏れているのを発見した。
誰かがあの部屋にいるってことだ。
そこで俺は《身体強化》のスキルをフルに使い、窓の淵の部分や凹凸を上手く駆使しながら屋敷の壁を上る。
(ボルダリングなんて初めてやったけど案外できるもんだな)
と感動しながらも目的の窓にまでやってきた。その窓があるのは四階。この屋敷の最上階に当たる。
カーテンがきちんと閉まっておらず隙間から少しだけ中を確認できる。中に居たのはアルガンス家当主、ジーゼット・フォン・アルガンスと俺たちを案内してくれた執事の青年だ。
流石にここからじゃ中で何が話し合われているのか確認できない。
だから……
【妄想再現の条件が達成しました】
【スキル《聞き耳》を再現します】
遠くの声を聞くためのスキルである《聞き耳》を再現。窓に耳を当てて中の会話を聞き取ろうとすると、二人の会話が聞こえてきた。
その会話に耳を澄ます。
『やはりあの話は本当だったようですね』
『ああ。どうやら王都内では勇者たちが二分されているらしい』
……勇者。みんなが二分?
『全くオールフェイ公爵は何を考えているのか……これでは計画が……』
オールフェイ公爵。計画?
『ですがオールフェイ公爵の行いは国王陛下の意向だという話ですよ』
『う~ん。陛下にも何かお考えがあるのだろうが……これでは計画に支障が出ると思わんか』
計画。やっぱり何か企んでるんだな。
ティアナさんの読み通り、王国側の計画には四大貴族が関わっている。
『それよりも問題なのはエクイラー公爵の方だ!全く、貴族としての誇りがないのか!!!』
おう……ビックリした!そんな大声を急に出すなよ!!
『噂では自分の街の人まで奴隷にしているらしいですね。噂が広まってからは民からかなりの批判を受けています』
『当たり前だ!自分の領民を奴隷にするなど……四大貴族としての誇りはないのか!!!』
バンッ!!と机を叩くアルガンス公爵。
いや、勇者にあんな呪いをかけた時点であんたもその誇りはないと思うんだけど。
でも、自分の領民を奴隷に……そのエクイラー公爵っていうのには気を付けた方がいいな。
『それで本当にあの冒険者を信用してよいのですか?』
っ!?冒険者!?
それって俺たちのことか??
『信用している、していない。で言えばしていないな。あの三人は冒険者らしくない』
『冒険者らしくない、ですか?』
『ああ。冒険者は自分の命と引き換えにモンスターを討伐している。だからこそ危険な依頼を受けるときは、報酬の話は具体的なものをするはずだ。依頼を受ける、受けないの返事をする前にな』
っ!?
『だがあの男は報酬を確認する前に依頼を受けるといった。他の二人も報酬の話をしなかった。まるで何か他の目的があるみたいにな』
…………依頼を受けるって言ったときのあの少しの間はそういうことなのか。流石に四大貴族と言われるだけはあるのか。
これ以上アルガンス公爵に探りを入れるのは危険すぎる。依頼を達成したら余計なことは言わずに報酬だけ受け取って帰るか。
でも、収穫はあった。
勇者たちの二分。計画。オールフェイ公爵にエクイラー公爵。
『だが、あのパープルトーン男爵が推薦してきた冒険者だ。その実力は確かなはず。今回の依頼を達成してくれればそれでいい』
それでアルガンス公爵と執事の青年の会話が終了したため、俺は気付かれないうちにアルガンス公爵の屋敷を後にした。
―――翌日。
早朝。まだ日が昇る手前くらいの時間。俺たち三人はシルトランスの街の東側の出口に居た。
「よし!準備おっけーだな」
「うん」
「大丈夫」
出発の準備が出来て、俺たちが東にある山脈に向かおうとしたとき、不意に声がかかった。
「ねぇ、あなたたち。少しいい?」
うん?
振り返るとそこには綺麗な白い髪の女の子と黒い髪の女の子がいた。
「えっと……何か用?」
この出会いが後にとても大きなものとなることを俺たちはまだ知らなかった。




