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第40話 黒い悪魔

前話のあらすじ!!


・な、なんでもないよ!

・うん!なんでもない!

・さらばイクシオン!

「ふぁ~、やっと着いたーー!!」



 イクシオンを出たのは朝の時間。にも関わらずシルトランスに着いたのはもう夜の時間だ。



 本当に遠かったな!!



 道中休憩も挿みながら歩いてきたけど、モンスターとの戦闘もあったりでもうクタクタだ。



 とりあえず宿屋だ。今日はもうご飯を食べて速攻で寝たい。



 せっかくの異世界なんだから自分の足で移動したいって思ったから歩いてきたけど、次からは馬車での移動だな。それが絶対良い。



 ってことで宿屋を見つけて夜ご飯を食べ、お風呂に入ってその日は寝た。

















 ―――翌日。



 朝はゆっくりして、午前10時頃に冒険者ギルドにやってきた。



 シルトランス冒険者ギルドはイクシオン冒険者ギルドと同じくらいの大きさで、イクシオンとは異なる木造建築のそれは昔ながらの異世界ギルドって雰囲気を醸し出している。



 中に入ると冒険者ギルド特有の騒がしさが耳を貫く。イクシオンに負けない活気だ。



 ギルドに入り奥にある受付の前まで歩いていく。



「シルトランス冒険者ギルドにようこそなのにゃ!本日はどういったご用件ですかにゃ?」



「はい。実は、ギルドマスターにこの紹介状を……って?」



 え?……はい?



 にゃ?って……



 よく受付の人を見てみると頭には耳が付いていて、目は大きく、頬には三本の髭が生えている。



 ―――獣人!!それも猫だ!!



 語尾も「にゃ」って言ってるから間違いなく猫だ。



 身長も低く、愛らしいその顔は甘え上手な猫そのままだ。髪もふわっとして柔らかそうで耳もふわふわ。



 ―――モフモフしたい



 と思っていると、唯香に脇腹をつつかれた。



「は~る~き~くん」



「は、はい」



 いや、だってしょうがないじゃん!こういう猫耳は憧れと言うか……



 とにかくこれ以上は危険な感じがするから話を進ませる。



「えっと、シルトランス冒険者ギルドのギルドマスターにこの紹介状を渡してほしいんですけど」



「分かりましたにゃ!すぐにギルドマスターに渡しますにゃ!」



 そう言い、その猫耳の受付の人は紹介状を持って奥に行った。しばらく待っているとその人が帰ってきて、「上でギルドマスターがお待ちなので案内しますにゃ!」と言われたのでついて行く。



 受付の奥に進み、階段を上がり三階に上っていく。そして、三階の中央の部屋の前まで来る。



「ここがギルドマスターの部屋だにゃ!……ギルドマスター。案内しましたにゃ!」



 猫耳の受付の人が扉を開く。木で出来た落ち着く内装に中央には一際大きな机。そこには一人の女の子が座っていた。



 雪を思わす真っ白なミディアムヘアー。身長は座っているから正確には分からないけど150cmはないくらい。見た目は小学生の女の子だ。しかし、その女の子の頭には真っ白な細長い耳が付いており、その肌も美しいほどに白い。



 ―――これまた獣人だ。しかも、あの耳は兎?



「フフフ……よく来たね。私がこの、シルトランス冒険者ギルドのギルドマスター、リユ・ハウスターだよ。イクシオン冒険者ギルドで噂の冒険者ハルにユイ、それからルナ!私は三人をギルドマスターとしてかんげ……ぎゃやぁぁっぁぁっぁああああああああああ!!!!」



 と、突然悲鳴を上げてシルトランス冒険者ギルドのギルドマスター、リユ・ハウスターさんは凄まじいほどの速度で部屋の端に行き、うずくまった。





 …………え?何事?



「え?ギ、ギルドマスター??」



 猫耳の受付の人も混乱している。



「あ、あの~、どうしたんですか?」



 カタカタカタと震えているギルドマスターに出来るだけ優しく声をかける。



「な、なんで~!どうして【黒い悪魔】がいるんだよ~」



 く、黒い悪魔?




 悪魔ってまさか六魔族!?




 どこだ!?どこにいる!?




 辺りをよく見回すがこの場には俺と唯香とルナ、そして受付の人と奥で震えているギルドマスターしかいない。



 どういうことだ?



「あの~黒い悪魔って?」



 唯香がギルドマスターに問いかけると、ギルドマスターは震える手をその人物へと指さした。



 その先に居たのは…………ルナだった。



「え?」



 指をさされたルナは戸惑っている。



「獣人の中でも圧倒的な戦闘能力とスキルを有する戦闘種族である黒狼種。通称【黒い悪魔】って言われてて、私たち白兎種(はくとしゅ)の中では最凶最悪の存在って言われて恐れられているんだよ~。そんな悪魔がなんで~!なんでーー!!」



 そう泣きながら叫ぶ。その姿はギルドマスターというよりかは完全に小学生の女の子のようだ。



 にしても、ルナが黒い悪魔って恐れられている……か。



 正直ルナの可愛い容姿からは想像もつかない。



 でも、ルナの戦闘能力は普通の人とは比べ物にならないぐらい高い。勇者である俺たちと同じくらい動けて、Sランク冒険者であるティアナさんについていけていた。



 ステータスも攻撃力なんかはライオットさんと並ぶくらいの数値だったし。



「ルナ。知ってた?」



 ルナにそう問いかけるが首を横に振る。つまりは知らなかったということだ。まぁ、ルナは幼い頃から家族から疎外されてきたらしいそういうことを教えられてないんだろうな。



「あの、ギルドマスター。私は小さい頃に黒狼の一族から外されたので……大丈夫ですよ」



 そう優しくギルドマスターに声をかけながら近づく。



「ふぎゃややゃゃややややややーーー!!!!」



 しかし近づいた瞬間、とんでもない速度で反対側の端に行きうずくまる。



「怖い、恐ろしい、怖い、恐ろしい……襲われる。目を見たら襲われる……姿を見たら消される。ふぁぁぁああああ!!!おかーさーーん!!おかーさーーん!!」



 流石にここまで怖がられているのがショックなのかルナが必死でギルドマスターであるリユさんに自分の誤解を解こうと大丈夫ですよと言いながら近づくが、



「はがあぁぁぁああ!!!!」



「ぎょえぇぇぇえええ!!!!」



「ぼえぇぇぇぇえええ!!!!」



 完全にパニックになっていてまともに会話できない。



「ルナ。落ち着くまで待機してよう」



「うん」



 結局リユさんが落ち着くまで30分ほど時間がかかった。














「いや〜、ごめんね!小さい頃のトラウマが蘇ってつい……情けない姿を見せたね」



 リユさんが落ち着いたタイミングでソファーに座り、話を行う。



「ルナもごめんね。あんなに驚いちゃって」



「いえ、大丈夫です」



 リユさんは落ち着いた声色と表情で話をしているが手足が震えており、唇も紫色に近い色になっている。白い肌がさらに白くなり、くりくりな可愛い目は視点が定まってない。小学生くらいの容姿も相まってだんだん可愛そうに思えてきた。



 そんなに怖いのか……



「と、とにかく三人のことは歓迎するよ!これからこのシルトランスでの冒険者生活を楽しんで!領主であるアルガンス公爵への推薦状の件も把握したよ!頑張ってね!」



 若干早口で内容を捲し立てるリユさん。



「何か他に私に聞くことはあるかな?」



 ……早く話を終わらせたいのかな?



 とりあえず、聞きたいことか〜。今のところ大丈夫かな。



「大丈夫ですよ。何かあったらまたギルドに来ます」



「そ、そうか!分かった。また来てね!」



 こうしてシルトランス冒険者ギルドのギルドマスター、リユ・ハウスターさんとの会話が終了し、部屋を出てギルドを後にしようとすると二人組の可愛い女の子とすれ違った。



 一人は綺麗な白い髪に真紅の瞳を持つ美少女。もう一人は綺麗な黒い髪に同じく真紅の瞳を持つ美少女。



 顔立ち的に俺たちよりも少し年下かな?



 髪の色やスタイルが正反対な二人だけど、顔や雰囲気は似ているから姉妹なのか?



 兎にも角にもまずは情報収集をするか。新しい街に来たらまずは探索をするっていうのが定番だからな。















「あれ?アリス、さっきの三人って噂の冒険者じゃない?」



「え?そうだっけ?」



 アリスとイリスの二人は春樹たちとすれ違った直後にそう呟いた。これは、ある事情でアリスとイリスがハルとユイという冒険者のことを知っていたからだ。



「なんであの二人がシルトランスに来てるんだろう?イクシオンで活動していたはずだよね?」



「そうね。どうしたんだろう?……あっ!ギルドマスターに聞いてみよう!」



 ということでギルドマスターに聞きに行くべく、三階に上がり中央の部屋の前まで行くと中から声が聞こえてきた。



『いや〜、にしてもびっくりしたよ〜。まさか黒い悪魔に出くわすとは』



『そんなに恐ろしいのですかにゃ?』



『もうめちゃくちゃ恐ろしいよ!目の前に来られると失禁しちゃうくらいだね!』



『失禁って……汚いのにゃ』



『私の聖水は綺麗だよ!でも、本当に子供の頃から親にいろいろ教えられたからね。悪いことをすると黒い悪魔が来るぞ〜って脅されてたくらいだからね』



『そうですかにゃ……』



『もう!反応がイマイチだぞ!でもあの二人、イクシオンの領主であるパープルトーン男爵からの推薦が貰えるほどに優秀とはね〜。Sランク冒険者のティアナ・アルデシアのCランク最速ランクアップ記録を抜いたっていうのは本当だったんだね』



『そんなに凄いことですかにゃ?』



『凄い。なんてもんじゃないよ。あのティアナ・アルデシアの記録を抜くなんて……しかもこの街の領主であり、四大貴族であるアルガンス公爵への推薦。はっきり言って異常だね』



 この会話を盗み聞きしていたアリスとイリスは二人揃ってニヤっとした笑みを浮かべた。

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