第32話 勇者たちの状況2
新章開幕!
前話のあらすじ!!
・春樹Bランクへ
・勇者ありがとう!
・ついに敵の名前が……?
9月の初頭。春樹たちがCランクとなり、依頼をこなしていた時、王国では勇者たちが桐生たちと原崎たちとで二分されるという複雑な事態になっていた。
「あれからもう一か月か……」
ライオットが王城に設けられた自室で机に向かいながらそう呟く。王国騎士団団長の仕事は戦闘関連だけではなく、各地から寄せられた情報をまとめ、国王に報告することや騎士団員の訓練メニュー制作、部隊配置、騎士団の派遣とそれに伴う手続きなど多岐にわたる。そのため机に向かって報告書を書くことは珍しくない。
そして先ほどライオットが呟いた内容は、春樹と唯香のことだ。約一か月前、春樹が嘆きの洞窟で崩落に巻き込まれ、生死不明の状態になった。その翌日にその春樹を探しに唯香が王都から出て行った。
騎士団が嘆きの洞窟とその周辺を捜索するも見つからず、何故か春樹を探しに行った唯香も発見できなかった。
一応、もう一度その周辺の街や村を捜索しているが、これで見つからなければ二人は死亡扱いとなるだろう。
ライオットがそう思っていたその時、扉がノックされ人が入ってきた。
「リアーナか。どうだった?」
入ってきたのは20代後半の目麗しい女性。水色の美しい長い髪をなびかせ、凛とした表情でライオットの近くまでやってくる。その表情はきつめな女性というようなものではなく、カッコいいという部類に入る表情だ。
王国騎士団副団長、リアーナ・イルベスタがその表情を崩すことなく、ライオットに報告する。
「嘆きの洞窟周辺の街および村、王国の南側の森や洞窟を捜索しましたが、アサヒナ・ハルキ、ササキ・ユイカの両名は発見できませんでした」
「そうか……」
ライオットがため息交じりに呟く。一か月間探し回っても見つけられないということはそう言うことなんだろう。
「陛下にはどう報告するんですか?」
「どうって……アサヒナ・ハルキは嘆きの洞窟内で死亡。ハルキを探しに行ったササキ・ユイカは道中でモンスターに襲われたらしく発見できなかった。っと報告するしかないだろ」
「それで大丈夫なんですか?相手は勇者ですよ。魔王を倒す存在。それを守れなかった責任を負わされる可能性もあります」
「責任は俺にあるさ。黒竜からみんなを守れなかったんだからな……」
「それは……」
仕方がない。そう言おうとするがリアーナは思いとどまる。なんたってライオットはこの王国の騎士団団長だ。王国最強の戦士なのだ。自身の敗北は騎士団の敗北と言われても仕方のない立場。だからこそ相手が誰であっても負けるわけにはいかない。例えそれが竜種の最強の一角である黒竜が相手だとしても……
「それで、勇者たちはどうするんですか?」
「勇者か……」
リアーナは話を変えるために勇者のことを持ち出したが、この話も非常に重要なことだ。
「オールフェイ公爵は一体何を考えているのか……今の不安定な勇者たちを二分するのは良くないと私は思いますが……」
「俺もそうは思うが……ただ、オールフェイ公爵も何か考えがあるんだろうな。勇者たちを思ってのことだと言っていたし」
ライオットは約一か月前。勇者たちを二分した出来事後にオールフェイ公爵に事の真意を確かめに行った時の会話を思い出していた。
『オールフェイ公爵。少しよろしいでしょうか?』
『なんですかな騎士団長殿』
ライオットは訓練場で桐生たちから原崎の誘い、そしてその直後に食堂に入ってきた人物について話しを聞き、訓練が終了した後、ヘルマン・フォン・オールフェイ公爵に話を聞きに行った。
場所は広く、豪華な客室。ヘルマンは四大貴族の当主だ。だからこそ王城ではこうした部屋を自由に使える権利が与えられている。
しかし、現在、その広い客室にはライオットとヘルマンの二人しかおらず、二人の話し声以外の音は聞こえない。その静かさがその場の雰囲気を作り上げ、ライオットですら少し緊張をするほどの空気だ。
『他の勇者から話を聞きました。ハラザキ・ゴウキを含む勇者数人を王都にある自分の屋敷に連れて行ったそうですね。どういうことですか?失礼ながらこの状態の時に勇者を二分するのは良くないと思われますが……』
『どういうことかと聞かれましても私はただ勇者のことを思ってそうしただけですよ』
『勇者のことを、ですか?』
『ええ。そうです。聞けば勇者たちは嘆きの洞窟で黒竜に出くわしその脅威に怯えているそうではありませんか……勇者とはいえまだ16、17歳の子供。そんな子供たちに対して心のケアをしてあげたいと思いましてね。少し、戦いの場から遠ざけることでね』
『そうですか……』
ライオット自身も四大貴族の中でも一番古くから王家に使え、王国を支えてきたオールフェイ家を疑うようなことはしたくない。それに今までもこのヘルマン・フォン・オールフェイという男は国のために尽くしてくれた国王からも信頼の厚い人物。王国を裏切るとは考えにくい人だ。
『それにハラザキ・ゴウキを含む勇者を私が預かることは陛下も了承してくれましたよ』
『そうだったんですか。差し出がましいことを言って申し訳ございませんでした』
『いえいえ。騎士団長殿も勇者たちのことを思ってのこと。気にしていませんよ……私たちで勇者たちを支えていきましょう』
「陛下が了承したというのは本当なんですか?」
「ああ。俺も確かめたが本当だ」
だというならそれに従うしかない。国王陛下の意見に逆らうこと。それは反逆と同じだからだ。
「とにかく今は俺たちに出来ることをするしかない。勇者たちの心のケアや大丈夫なものは訓練……勇者たちは俺たちの希望なんだからな……」
「希望……あれからもう五年経つんですよね」
リアーナは先ほどまでの凛々しい口調から一転、優しく、昔を懐かしむような言い方になった。それはリアーナなりの切り替え。先ほどまでは仕事での会話だったが今は私情でのやり取りという意味だ。
「そうだな……もし、俺じゃなくてあの人がいてくれたら違っていたのかな」
ライオットがいつになく弱気な口調でそう言った。団長と言う立場ではなく一人の騎士として出た本音。
「そんなことないと思いますよ。団長は頑張ってます。勇者たちにもそれは伝わってますよ……特にモチヅキ・アカネには」
リアーナはライオットの気持ちを察し、フォローしつつも少しからかうような口調で言った。
「そうだといいな……彼女は俺がきちんと指導しないといけない。あの人と同じスキルを持っているからな」
「そうですね……」
そうして二人の会話は終了した。
ライオットとリアーナが話している時、大介たちもこの状況をどうにかするための話し合いを行っていた。
「で、これからのことだけど……もう何回目だ?このやり取り」
現在、大介の部屋に集まっているのは西山楓と佐藤剣斗の三人のみ。この三人は毎日のようにこれからのことについて考えるために集まっているが一向に進展がない。
「何回でもいい意見が出るまでやるしかないでしょ」
と西山は言うが、西山自身もかなり疲弊している。西山は原崎たちから剣斗を守ると心に誓い、日々訓練に全力を注いでいる。それだけでも大変なのにここ一か月の間、王国の企みを気にしながらクラスメイトたちをフォローし、原崎たちの動きに注意し、毎晩こうして会議をしている。
「楓。大丈夫?」
「大丈夫だから。剣斗は気にしなくていいよ」
幼馴染だからこそ剣斗は西山がどれほど疲労しているか分かる。だけど、今の自分には何もできない。そう思っているから強く意見を言えない。
「なぁ、西山。これ以上俺たちだけで問題を抱えていても仕方ない。桐生や望月にもこの話を共有しようぜ」
「だ、駄目よ。そんなことをしたら桐生くんにも茜にも負担になる。ただでさえあの二人はクラスをまとめるために頑張ってくれているのに……」
「だからこそだ。クラスの中心的な存在の二人だから知らせた方がいいと思う。何か起こったときに対応がしやすいし、俺たちよりか確実にクラスのことを見てるからこそ、いい意見も出るんじゃないか?それにこのまま俺たちだけで言い合ってもいい意見が出ると思うか?」
「それは……」
大介の言っていることは最もだと西山も思う。それほどこの一か月、進展がないからだ。
「大丈夫だ。あの二人ならな。それに春樹と佐々木が絶対に王国の企みを阻止してくれる」
「そうね……」
今は会えない。そんな親友のことを想い、西山は二人に告げる決心をした。




