第30話 勇者としての誓い
前話のあらすじ!!
・「キシャー」
・諦めるのはまだ早い!
・動き出す銀髪少年
「はぁ……はぁ……はぁ……ようやく地下から出れたわね」
ティアナさんは疲労をにじませながらそう呟いた。結局、地下にいる間モンスターたちはティアナさん一人で倒してしまった。
本当に凄いな。この人。
Sランク冒険者の凄さを改めて実感しながら、ゴーレムがいた場所を目指す。その道中、ある異変に気が付いた。
(モンスターがいない……?)
来るとき、そして地下にはあれだけ大量にいたのにここには一体もいない。俺たちが殲滅したんだと思えばそれまでだけど、なんか嫌な感じがする。この静かさが薄気味悪い。
なんか俺の知らないところで何かが動いているような……
って!どこのファンタジーだよ!!
いや、ファンタジーかここは!!
でも、こう考えられているのは俺の中二力が戻っている証拠!
とにかく今はゴーレムを倒すのが優先だ。
考えろ!想像しろ!妄想しろ!
ゴーレムに勝つために。そのためには何が必要か。妄想しろ。
順番にゆっくりと再現していく。
【妄想再現の条件が達成しました】
【スキル《魔法剣術》を再現します】
【妄想再現の条件が達成しました】
【スキル《水魔法》を再現します】
【妄想再現の条件が達成しました】
【スキル《俊足》を再現します】
【妄想再現の条件が達成しました】
【スキル《予見眼》を再現します】
【妄想再現の条件が達成しました】
【スキル《物理攻撃耐性》を再現します】
《魔法剣術》《水魔法》《俊足》《予見眼》《物理攻撃耐性》の五つ。
これで……倒す!!
《妄想再現》で再現し終わったタイミングを見越してかそうじゃないのか。そのタイミングで地面が揺れた。
「っ!?来るわよ!気を付けて!!」
その瞬間、
―――ドーーーーン!!
と真横の壁が壊れ、その先にはゴーレムがいた。
「#&%*」
ゴーレムが見つけたといわんばかりにこちらに近づいてくる。
「行くわよ!」
「「「はい!!」」」
俺たちとゴーレムとの戦いが始まった。
まずは唯香の付与魔法。俺とルナに様々なバフが付与される。付与が終わると同時に俺とルナはゴーレムに向かっていった。
ゴーレムもそれに合わせて攻撃。しかし、その瞬間、俺とルナが同時に左右に分かれる。俺が右側でルナが左側だ。
ゴーレムがどちらに攻撃したらいいか分からなくなった一瞬の隙に、ティアナさんが《フリージングサインズ》を使用。ゴーレムの足元を凍らせる。身動きが取れなくなった隙に俺とルナが攻撃。その一瞬の間、
「今っ!!」
唯香がゴーレムに《物理耐性低下》《魔法耐性低下》のデバフをかける。そして、俺とルナの攻撃が命中。
ゴーレムの強靭な体にひびが入った。
よし!いける!!
「%$*#」
今度はゴーレムの攻撃。物理攻撃ではなく魔法での攻撃だ。巨大な魔法陣が地面に浮かび上がり、その魔法陣から大量の岩石が現れ、その岩が俺たちに向かって高速で飛んできた。
「ルナっ!回避!!」
「はい!!」
俺は《俊足》と《予見眼》でルナは《俊足》と《感知》を使い岩の弾丸から逃れる。
唯香とティアナさんは《水魔法》の《ウォーターウォール》で弾丸を防ぐ。
―――ドドドドドドド!!
攻撃が止んだタイミングで俺が攻撃。《魔法剣術》の《水流斬》を使用。水を纏った剣でゴーレムを攻撃。その体を深く傷つけた。
でも……
このままいくわけはない。
そう思ったとき、ゴーレムから黒いオーラが出てきた。
きた!!
ここからが本番だ!
集中しろ!一瞬でも油断するとやられる!
「きたわよ!!集中しなさい!!」
ティアナさんの喝も飛ぶ。
さぁ、行くぞ!!
俺とルナが一瞬見合い、そして同時に突っ込んだ。ゴーレムは右腕を振り上げつつも黒いオーラで地面を操り、俺たちに攻撃を仕掛ける。
「くっ!!」
《予見眼》で地面から突き出してくる岩を避けながら徐々にゴーレムとの間合いを詰める。
だが、
「っ!?」
間合いを詰めたと思ったらゴーレムからパンチが放たれた。即座に回避。
あっぶね!!後一歩踏み込んでたら避けられずに当たってたぞ!?
そう思っている間にも地面からの攻撃が迫ってくる。
―――くっそ!近づけない
ルナも避けるので精一杯でゴーレムに近づけないようだ。
でも……それなら……
「《ウォーターフロー》!!」
《水魔法》で遠くから攻撃すればいい。
「《ウォーターショット》!!」
「《ウォータースラッシュ》!!」
唯香とティアナさんも《水魔法》で攻撃。
水流が、水の弾丸が、水の刃がゴーレムに迫り、命中する。
「《ライジングランス》!!」
その隙をつき、唯香が《ライジングランス》を発動。
「っ!?」
そう水は電気をよく通す。だから……
――――ビリビリビリ
よし!!ゴーレムが痺れて動きが止まった!
今がチャンス!!
俺とルナがゴーレムに攻撃を放つ。
―――ズサ―――ゴウ―――
という音と共に攻撃が命中。ゴーレムが後ろに一歩下がる。その直後、痺れが消えたのか連続でパンチをしてくるがそれを冷静に躱し、後ろに下がる。
よし!良いペースだ。
連携も取れてる。黒いオーラの攻撃にも対応できてる。
良いぞ!このままいけば……
だけど、
このままいくはずはなかった。
「%#&$¥?!+*+&%」
ゴーレムからより強い黒いオーラが放たれる。そのオーラは辺り一帯を埋め尽くすほどに広がった。
こんなの何か来るに決まってんじゃん!!
「何か来るぞ!!気を付けろ!!!」
精一杯叫ぶ。次の瞬間、
――――ドーーーン!!
と言う音と共に床や壁、柱などこの遺跡を形成するもの全てにひびが入り、壊れ、その残骸が黒いオーラに包まれ、意識を持っているかのように宙に浮く。
「っ!?」
そう、俺は自分で言っただろ。「あの黒いオーラはオーラの所持者、つまりゴーレムの意志で操作できる。オーラに取り込まれればただの石でも強力な武器になるから気を付けろ!!」って。
四方八方にそんなこぶし大のオーラを纏った岩が数千という単位で漂い、そして一気に俺たちの元に飛んでくる。
やっばい!!
こんな数、回避なんて間に合わない!!
《予見眼》を即座に解除し《盾術》を再現。そして。俺、唯香、ルナ、ティアナさんに《エリアシールド》を発動。その人を中心に半透明なシールドが現れ、攻撃から身を護る。
「くっ!!」
―――ドドドドドドド!!
休みなく岩が俺たちに迫ってくる。だけど、これなら防ぎきることができる。
だけど、
―――ピキッ…………ドーーン!!
と言う音と共に壁が崩れ、天井が……落ちる。
っ!?
そうここは遺跡内だ。そんな場所でこんなことをすれば遺跡が崩壊する。
くっそ!!このまま《エリアシールド》で防げるか?
その瞬間、背筋に寒気がした。嫌な予感。気味の悪い悪寒がする。
目の前にいるゴーレムを見てみると……そこには魔法陣が形成されていた。
うっっそだろ!!!この状況で魔法を放つ気かよ!!??
でもそれは当然だった。人が建物の倒壊に巻き込まれればただでは済まない。でも、巨大で強靭な体を持つゴーレムなら?
倒壊なんて関係ない。
ただ俺たちを倒すだけ。そのための魔法が構築される。
天井が落ちてくる。その岩石は《エリアシールド》で防げた。けど……
ダメだ……俺一人じゃ対応できない!
ゴーレムから放たれる魔法に対応することが出来ずに、俺たちは岩を大量に含んだ土石流のようなものに呑み込まれた。
「う、うう……」
半分地面に埋まった体を起こし、辺りを見回す。辺りはかなり開け、天井からは日の光が入ってきている。
そして、横たわる女の子三人。
「唯香!ルナ!ティアナさん!!」
「う、う……」
と言う三人から発せられたうめき声。良かった!三人とも息はある。
―――ドン―――ドン―――ドン
「っ!?」
そこにゆっくりと近づいてくるゴーレム。
このままだと……負ける。
それでいいのか。
いいわけないだろ!!!!
俺は誓ったはずだ!絶対に勝つって!勇者として証明するって!
俺がやらなきゃ!俺が倒さなきゃいけない!!
立ち上がりゴーレムに向き直る。三人には攻撃が届かないように《エリアシールド》を張っておく。
そしてゆっくりと俺もゴーレムに向かいながら集中する。
「絶対に、倒す!!」
大丈夫だ!黒竜と戦ったときと同じだ。
妄想しろ!想像しろ!!
「いくぞ!!!」
その言葉で俺はゴーレムに突っ込んだ。ゴーレムもそれに合わせてパンチでの攻撃。それを《疾走》で躱す。
そして《魔法剣術》の《水神斬》で攻撃。水が刀身の倍の長さまで放出され、それでゴーレムを切り裂く。
続けて《水魔法》の《ウォーターフロー》で攻撃。高圧の水流がゴーレムに直撃する。
しかしその直後、お腹に衝撃が走る。
「ぐっ!!」
ゴーレムが黒いオーラで地面を操って俺を攻撃したんだ。その表劇で一瞬の怯みが生じる。その隙をつき、ゴーレムの拳が俺の前に飛んでくる。
「うっ!」
回避は間に合わない。《盾術》の《クリアシールド》で防ぐが直ぐに破られる。なら……
その一瞬で妄想する。
《俊足》を解除し、《硬質化》を再現。そして《硬化》を使用する。《クリアシールド》が破られ、拳が俺に命中する。だけど、《硬化》と《物理攻撃耐性》のおかげでさほどダメージはない。
よし!上手くいなせた!
直ぐに次の攻撃へ。《魔法剣術》の《雷神斬》を発動。雷を帯びた剣で攻撃しようとするが上空からオーラを纏った岩が降ってきた。
「くっそ!!」
《物理攻撃耐性》を解除し《瞬身》を再現。《神速》を使い回避する。
倒せない……
圧倒的な攻撃力と防御力の両方を併せ持つ巨大なモンスター。
下手をしたらあの黒竜よりか強いんじゃないか?
でも……それでも……
負けるわけにはいかない。
もっとだ!もっと集中しろ!!妄想しろ!!!
俺がやらないといけないだろ!!!
だから……
ゆっくりと深呼吸をする。
中学時代。中二病だった時のように。自分の世界を構築する。
そこで、ゴーレムと対峙する、俺。
現実でゴーレムが魔法を放つ。辺りの岩を巻き込んで俺に砂の嵐が押し寄せる。
妄想でも俺に砂の嵐が押し寄せる。
これを防ぐには……?
ゴーレムに対して隙を作るには?
「《海王》……」
《水魔法》最上位魔法である《海王》を発動。辺り一帯に大量の水が生成されその水を操る。
―――ザーーーー
水を操り砂の嵐を相殺。そしてその水でゴーレムに攻撃し、水を絡めつかせその動きを止めた。
「いけぇえーーーー!!!」
ゴーレムに向かって突っ込んでいく。当然ゴーレムは俺を迎撃しようとするが《海王》で水を操りそれをさせない。
その隙に《魔法剣術》の《水神斬》でゴーレムを斬る。斬る。斬る。
だけど、決定打にはならない。なら……
【スキル《硬質化》を解除しました】
【妄想再現の条件が達成しました】
【スキル《攻撃威力増加》を再現します】
【スキル《物理攻撃耐性》を解除しました】
【妄想再現の条件が達成しました】
【スキル《魔法威力増加》を再現します】
防御をほぼ捨て、攻撃力を上げた。
これで、決める!!!
ゴーレムからの攻撃を《クリアシールド》で防ぎ、攻撃。狙うはあの魔石だ。
―――いけ!!
ゴーレムを斬る。斬る。
―――いけ!!!
ゴーレムから薙ぎ払いの攻撃がとんでくる。それを俺は剣で受ける。さすが黒竜を素材にしているだけあってこの程度じゃ壊れそうにない。
いける!!
吹き飛ばされた衝撃を利用し、上空へ。《海王》を使い、水で壁への激突を防ぐ。そしてゴーレムへ一直線に向かっていく。当然、俺にパンチを合わせようとするが《海王》で水を操り、ゴーレムのパンチを反らす。
そして《魔法剣術》の《水神斬》で斬る。斬る。斬る。
―――いけ!!!!
「う、う~」
ドン!!ボン!!という戦闘音で唯香は気絶から目を覚ました。
(あれ?……ここは……)
私は確か……春樹くんとルナとティアナさんとでゴーレムに挑んで……そうだ!ゴーレムは!?
顔を上げるとその先には見たこともない光景があった。
辺り一帯を覆いつくす水。それを操り、凄まじい攻撃力でゴーレムと戦う春樹。
「すごい……」
純粋に心からそう思った。唯香自身、春樹が本気で戦うところを始めて見たというのもあるが、全員で挑み、苦戦していたゴーレムを相手に互角、いやむしろ押しているのだからその凄まじさが分かる。
(これが……春樹くんの全力……)
結局、私は足手まといなんだ。
そう思いうつむいた時、目に入ったのは春樹くんが誕生日にくれたネックレス。それが目に入ったとき春樹くん前にが言ってくれたことを思い出した。
―――冒険者としても頼りになって助かってる
って。
足手まとい?ううん。そんなことない!!
私たちだって出来ることはある!絶対に!!
それに私たちは……パーティーなんだ。
だから……
「う、う……」
ルナとティアナが気絶から目覚め、目を開ける。
「ティアナさん!!確かに私たちは世界を守るために命を懸けて戦ったSランク冒険者の人達には遠く及ばないかもしれません。実力も努力も覚悟も。でも、私は、私たちは少しの間ですけどこの世界の人達と触れ合って感じました。いい人たちだって……私はこの世界を守りたい!そう思っています!王城にいる勇者は今は立ち止まっているかもしれません。でも!!この先、絶対に立ち上がります!だって……みんないい人たちだから……だから……」
自分で話していて何を伝えたいのか……
自分の覚悟か?勇者たちのことか?
「ルナ!私たちのために戦ってくれてありがとう!でも、こんな目に合わせてごめんね。あなたは勇者じゃない。戦う責任はない。でも、こうして一緒に戦ってくれている。それがすごく嬉しい。わがままだなって思ってる。でも、もう少しだけでいいから……だから……力を貸してくれないかな」
ルナに対してもそうだ。お礼か。お詫びなのか。
でも……
「私は二人に助けられた。絶望しかなかった私に希望が見えた。だから……私の方こそありがとう」
ルナがゆっくりと立ち上がりながら語る。
「それにわがままだなって思ってない。私は黒狼種。狩りが得意だから。戦うのが得意だからこそ戦っている。二人の力になりたいって思っているからこそ。だから、謝らないで……唯香」
「ルナ……ありがとう」
涙が溢れ出てくる。心のどこかで、無理やり戦わせてるんじゃないか?迷惑なんじゃないか?と思っていた。それが違うって。彼女の意志で一緒に居てくれてるんだって。それが分かったからこそ嬉しい。
「唯香。いえ、ここはユイかしらね。確かに私は勇者たちを罵倒した。でも、目の前で必死に戦っている人を評価しないほど落ちぶれてはいないわよ……それに今の私たちは冒険者パーティー。Sランク冒険者は決してパーティーメンバーを見捨てたりしない。だから……ここにいるみんなで勝つわよ!」
「……っ!!はい!!」
そう私たちは共に戦い、共に助け合う。支え支えられる。
―――仲間だ
だから……みんなで!!
その時、
「がはっ!!!」
春樹がゴーレムの攻撃を食らい、吹っ飛んだ。
「春樹くんっ!!!!」
いけ!!
いけ!!!
いけ!!!!
もう何回ゴーレムに攻撃したか分からない。それほどの攻防が繰り広げられ、そして遂に訪れた。
《海王》で動きを止めた一瞬の隙、その隙についに魔石を捕えた。
いける!!!!
「いけぇぇえーーーーーー!!!!」
《水神斬》で攻撃。ゴーレムの硬い体に剣が当たる。
―――キーーーン
と言う音。しかし……
斬れない……
なんでだよ!?黒竜の時はいけたのに!!
俺が倒さなきゃいけないのに!!!
いけ!!いけ!!!
だがその剣は届かない。その時、
―――っ!?
ゴーレムが右手を振り上げ、俺に攻撃してきた。
―――やばい
―――回避も防御も間に合わない
防御を捨て、これで決めれると思っていたからこそ……
春樹はその攻撃を防げない。
「がはっ!!!」
「春樹くんっ!!!!」
ゴーレムの強力なパンチが俺にクリーンヒットする。地面に激突し、二回、三回、四回とバウンドし、壁に激突。
あまりの衝撃に剣も手放し、床に片膝をつく。その瞬間、
「ぐへぇ!!!」
大量の血が口から噴き出る。
吐血だ。
意識が遠のき、ゆっくりと倒れる。
アニメなんかでよくある吐血シーン。あまりに当たり前に使われがちだが、実際は肺や腸に損傷が生じ、その血が口から吐き出る現象。つまり、明らかな致命傷。
死ぬのかな。俺……
そう思い目の前が暗くなる。だけど、少しして体が暖かな光に包まれた。
―――なんだ。この光は。
―――暖かくて。優しくて。安心する光。
ゆっくりと目を開ける。そこには唯香がいた。
「春樹くん!!大丈夫!?」
唯香が回復してくれたのか?
「う、うん。ありがとう。唯香」
なら……早く行かないと。俺が倒さないと。
「だ、だめ!まだ傷が……」
「もう大丈夫だから……俺が行かないと」
起き上がった瞬間、唯香に抱きしめられた。
「待って」
「唯香。離して。俺が倒さないと」
「ねぇ、春樹くん聞いて……」
なんだよ!俺が……倒さないといけないのに!
「唯香!!離して!」
「春樹くん!!こっち向いて!!!」
その声に驚き、唯香の方を見る。すると、
―――パーーーーン!!!
…………え?
唯香にビンタされた。
「え……?」
「聞いて。春樹くんにとって私はなに?」
「……なにって。それは、恋人だろ」
俺と唯香の関係。そんなのは恋人同士。どれが答えだ。
「確かに。そう……でも、この場だともう一つに言い方がある。私たちは、仲間だよ」
「っ!?」
そうだ。仲間だ。今の俺たちは共に戦うパーティーだ。
「支え支えあう仲間……だからもっと頼って。確かに春樹くんの実力は凄い。さっきの戦いを見たらそう思うよ。でも、私たちは一人で戦ってるんじゃない」
一人で戦ってるんじゃない。その言葉が俺に突き刺さる。
そうだよ。この場にいるじゃん。仲間が。唯香が、ルナが、ティアナさんが。
妄想の中での俺は確かに勇者だった。でも、その隣には誰もいなかった。友はいた。でも仲間なんていなかった。
いつもたった一人で強敵と戦い。いつも一人で乗り越えてきた。
いつだって孤独だった。
でも……
今は仲間がいる。
「ねぇ、見て。今、ゴーレムにルナとティアナさんが戦っている。その光景を見て」
そう言われ戦っている光景を見る。それは、凄いって言葉しか出てこない光景だった。
ティアナさんが的確に魔法を放ち、攻撃、援護、支援の三つを同時に行っている。
それに合わせてルナが縦横無尽に動き回る。ティアナさんに攻撃がいかないように最速で最短の動きを。
あれを俺は出来るか。多分出来ない。
「協力すればあそこまで戦える。それが仲間だよ。だから……」
唯香が後ろから抱きしめてくる。
「私たちで倒そう」
―――っ!!
そうだよ。なんで、こんな単純なことを、俺は……
全部自分一人で背負い込んでた。
勇者だから。男だから。レベルが高いから。あの黒いオーラを纏ったモンスターと戦ったことがあるから。スキルが優秀だから。
そんな理由を付けて一人で戦った。
黒竜の時もそうだ。助けなんてなかった。来なかった。
自分一人でどうにかするしかなかった。
思えば中一の時だってそうだ。親に頼ればよかった。でも、自分で抱え込んで、そして、現実から逃げた。
ゴーレムと戦っている時だってそうだ。妄想の中での俺は一人だった。
でも、今は違う!
仲間がいる。
この世界で俺は繋がりができた。もう、孤独じゃない。一人で戦っているんじゃない。
「ありがとう。唯香。俺たちであのゴーレムを倒そう!」
「春樹くん……うん!」
そう笑顔を向けてくる唯香。それがたまらなく愛おしい。だから……
「―――っ!?」
俺は唯香にキスをした。
「…………血の味がした」
「ごめん。我慢できなかった」
そう言って立ち上がり、近くにあった俺の剣を拾う。
「春樹くん!私たちで倒すよ!」
「ああ!!」
今度こそ、俺たちで倒す!!!
「くっ!!やっぱりきつい……」
ティアナは魔法をゴーレムに放ちながらそう思った。春樹が倒れてから唯香が回復するまでの時間、ゴーレムを押さえていたが限界が近い。
「私が《三重詠唱》を使っても倒せない……やっぱりあの黒いオーラを持つモンスターを倒すには勇者の力しかない」
魔法は基本的に一度に一つしか発動することができない。連続では発動できるが同時には発動できないのだ。それが世界の常識。しかし、それを覆すスキルがある。それが《二重詠唱》。
この《二重詠唱》のスキルを持っていれば二つの魔法を同時に放つことができる。
しかし、ティアナはそのさらに上である《三重詠唱》のスキルの持ち主。それはティアナが師であるシアリーのもとに弟子入りしてからの二年間。必死に努力し、身に着けたスキル。
この世界でも《三重詠唱》を使えるのはティアナただ一人。
たった16歳にしてすでに魔法使いとしてティアナの右に出るものはいなかった。
最も魔法の才能のある者。それゆえに「才女の魔法使い」と呼ばれている。
そのティアナが《三重詠唱》の絶技を用いて戦っているのに倒せない。勝てない。
でも、勇者なら。この世界に舞い降りた希望なら……
ティアナの目線の先に怪我から回復した春樹がいた。
「っ!?ルナ!!春樹をゴーレムのもとに届ける。そのために全力でやるわよ!!」
「はい!!」
その声を聴き、ルナが全力で駆け回る。春樹に攻撃がいかないように、攻撃をいなし、躱す。
(私だって!!……私はもう一人じゃない。私の存在を認めてくれた。私に名前を与えてくれた。私を呪縛から解放してくれた。そんな人たちがいる。私は……ルナ!春樹と唯香の想いに応えたい!!!)
ルナのその想いが力になる。
「ああああああああああ!!!」
全力のルナの動きに完全にゴーレムが翻弄される。
「《アースバインド・ウォーターベール・フリージングフロア》!!!!!」
翻弄され、隙ができた瞬間、ティアナが《三重詠唱》を使い、三つの魔法を同時発動。
発動した瞬間、ティアナが片膝をつく。今まで魔法を連発して遺跡に入ってから約500体ものモンスターを倒したティアナのMPが対に切れた。
これが正真正銘最後の攻撃。
「行って!!春樹くん!!!」
唯香が支援魔法を春樹にかけた。その想いを受け春樹がゴーレムに向かっていく。
これで決める!!!
(もう大丈夫。絶対勝てる!!俺たちで倒す)
そう確信する。だって……
最高の仲間がいるから……
《魔法剣術》の《水神斬》を発動。さらに《水魔法》を解除し、《瞬身》を再現。《神速》を使い、ゴーレムの頭上をとる。
そして、魔石に向かって攻撃。
その瞬間、ゴーレムから黒いオーラが放たれる。
やばい……
そう思ったとき、
「春樹くん!!!いけーーーー!!!!」
唯香からの叫び。大丈夫だ。いける!!
絶対にいける!!!俺たちで勝つんだ!!
いけ!!
【……………………】
いけ!!!
【……………………】
いけ!!!!
【………………妄想再現の条件が達成しました………………】
【ユニークスキル《英雄昇華》を再現します】
体が軽くなる。力が湧いてくる。
「いけーーーー!!!!!!!」
「凄い……すごく暖かい光」
その光景を見てティアナがそう呟く。春樹があの黒いオーラに呑み込まれそうになった時、急にその体が輝きだした。
その姿は正に、絶望と言う闇の中、希望と言う光を見出しているかのようだ。
「あれが……勇者……」
ウルが……師匠が……みんなが求めた存在が、今、目の前にいる。
(ようやく、ようやく現れたよ。みんな……あの戦いは無駄じゃなかった。みんなの命は決して無駄じゃなかった!!!)
涙を流しながら叫ぶ。
「いけぇぇええーーーー!!!!!勇者ぁぁああ!!!!」
その叫びを受け、春樹がゴーレムに攻撃を当てる。
硬い。でも、斬れる!!倒せる!!
片手じゃなく両手で剣を持ち。
「いっけぇぇえーーー!!!」
その剣を振り切った。
――――ゴウッ!!!
という音。その音と共に、ゴーレムの体が斬れた。魔石も真っ二つになり、黒いオーラが霧散。ゴーレムの目が黒くなり、倒れ、沈黙した。
今日の18時にもう1話投稿です!




