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第29話 地上と地下の戦い

前話のあらすじ!!


・ゴーレム登場

・黒いオーラは魔王の力

・ティアナさんの嘆きが……

「さっきはごめんなさい。取り乱しちゃって……」



 少し時間をおき、落ち着きを取り戻したのかティアナさんが俺たちに謝罪する。



「いえ、大丈夫ですよ」



 そう答えるが何とも気まずい雰囲気が辺りを支配する。ティアナさんからしてみればいくら勇者とはいえ、年下の後輩冒険者に泣きついたんだ。



「さっきのことだけど……」



 そんな中、ティアナさんが口を開く。



「あなたたちが勇者だということを隠してたのには何か理由があるんでしょ。私はそれを口外はしないし、何かの見返りも求めない。ただ示してほしい。希望を……私たちが探し求めたものを」



 ティアナさんが真剣に聞いてくる。その声、表情にはさっきまで泣いていた女の子の面影はない。今、目の前にいるのは世界に二人しかいないSランク冒険者だった。




「はい!任せてください」



 俺は、俺たちはその想いに応える。そう誓った。だからこそ……



「じゃぁ、行くわよ!まずはこの地下から脱出しないとね!」



 そうして俺たちは遺跡の地下を進んでいった。


























 その時刻より、少し前。正確にはティアナと春樹たちが遺跡内に大量発生したモンスターと戦っている時、地上でも異変が発生していた。



 気が付いたのは、ここ最近冒険者登録をした15歳くらいの男女二人組のFランク冒険者。



 Fランクの依頼である【紅香(こうが)の薬草の採取】のため森を訪れている時だった。



「……?ねぇ、アル。なんか変じゃない?」



 そう最初に気が付いたのはただ何となくだった。



「うん?……確かに、森が静か過ぎる」



 この二人はイクシオンよりずっと北東に進んだところにある森に囲まれた小さな村の出身。小さな頃から森に入り遊んでいた幼馴染同士。



 だからこそ気が付いたのかもしれない。鳥の鳴き声が、虫のさざめきが、モンスターではない他の動物たちの声が聞こえない。あまりにも静かすぎる……と。



 その時、近くの草がカサカサカサ……と揺れた。



「―――っ!?」



 振り向いてみるとそこに居たのは、



「キシャー」「キシャー」「キシャー」「キシャー」「キシャー」「キシャー」「キシャー」「キシャー」「キシャー」「キシャー」「キシャー」「キシャー」「キシャー」「キシャー」「キシャー」「キシャー」「キシャー」「キシャー」「キシャー」「キシャー」「キシャー」「キシャー」「キシャー」「キシャー」「キシャー」「キシャー」「キシャー」「キシャー」「キシャー」「キシャー」「キシャー」「キシャー」…………




「な……なっ……」



「いや……いやーーーー!!!!!」



 見たこともない量のゴブリンの大群だった。



 ゴブリンだけじゃない。後方にはオーク、コボルド、ウルフなんかのモンスターから、コドラ、リザードマン、グリズリー、タイガーなんかの上位のモンスターまで。多種多様なモンスターが大量にいた。



 二人は必死にイクシオンの方に走る。無我夢中で。



 幸い、街の近くだったからこそ何とか街中に入ることができて命は助かった。街に着いた時には足が震え、呼吸すらままならない状態。でも、この状況をギルドに伝えるために二人はギルドに行き、受付をしていた人に伝え、それがギルドマスターのガイゼクトに伝わる。



「チッ……くっそ!このタイミングでモンスターの大量発生かよ!!」



 ガイゼクトは盛大に舌打ちしながらもギルド職員に、冒険者に指示を出す。Cランク以上の冒険者には指名依頼としてモンスター討伐の依頼を、Dランク以下の冒険者には協力の要請を。



 だけど、圧倒的に冒険者の数が足りない。



 ここ最近、こういったモンスターの大量発生が各地で起こっていた。そのモンスターを倒すためにイクシオン冒険者ギルドからも高ランクの冒険者たちを派遣していたためだ。



 カインたち優秀なCランク冒険者やB、Aランクの冒険者は今現在この街にほとんどいない。



 しかも、Sランク冒険者であるティアナも遺跡の調査に向かわせたばかりだ。



 ―――タイミングとしては最悪



「くっそ!足りない……このままじゃ、モンスターの数に圧倒され、押し負けちまう」



 だからこそ、ガイゼクトは決心する。奥から懐かしの武具を取り出して……

























「はっ!!」



 遺跡の地下でティアナさんの魔法が炸裂する。《火魔法》の《フレイムスフィア》だ。



 次にティアナさんが使用したのは《風魔法》の《ストームブロウ》。圧縮された風の一撃がモンスターの体に大穴を開けさせる。



 さらに続けて魔法を発動。《雷魔法》の《ライトニングボルト》を使用。稲妻の巨大な槍がモンスターに向かって飛んでいく。それに貫かれたモンスターが次々に倒れていく。



 今度は《土魔法》の《ロックバレット》。無数の岩がモンスターを直撃し、押し潰す。



 このように多種多様な魔法を使い、ほとんどティアナさん一人でモンスターを倒している。



「ふ~、この辺りのモンスターは大体倒すことができたわね」



 周りを見てモンスターがいなくなったのを確認し、一息つく。そのタイミングを見計らって唯香がティアナさんに提案する。



「あの、やっぱり私たちも戦いますよ」



「ダメよ。あのゴーレムに対して有効的な攻撃ができるのは勇者であるあなたたち二人。ゴーレムと戦う前に消耗してしまったら勝ち目がなくなる」



「なら私がサポートに回ります」



「ルナ、あなたもダメ。いくら勇者とはいえ二人だけであのゴーレムと戦うのは無理がある。しっかりと二人のサポートをこなせる人が必要なの。それは今まで二人と戦ってきたあなたしか出来ない……だからここは私の役目なの」



 断固としてティアナさんは俺たちにモンスター討伐を手伝わせようとしない。それはSランク冒険者としてのプライドか、少しでも勝つ可能性を上げるためか。



 恐らくは両方なんだろうな。だからこそ……()()やらなきゃいけない。



 その想いに応えなきゃいけない……


















「森の北側からモンスターが接近!!数は100以上です!!」



 《索敵》のスキルを持つ冒険者の女性がそう声を上げる。その声を聴き、周囲にいた冒険者たちがあわただしく動く。



 イクシオンにいる冒険者たちのほとんどが街の外でモンスター戦っている。だけど、圧倒的にその数が足りない。だからこうして《索敵》のスキルを使用し、先にモンスターを見つけることで何とか対応をしている。けど……



「誰か!彼に回復魔法を!!」


「ポーションでいい!余ってないか!!」



 そんな声が各場所から聞こえる。人は怪我をすると簡単には直せない。重傷を負ってしまうと戦うことができない。



 数に限りがあるからこそ一人一人の力が必要になってくる。そのため《回復魔法》やポーションが絶対的に必要になってくるがこれも数が足りない。



 対してモンスターはどうだ?



 ここに集まった冒険者の数十倍、数百倍の数がこの街に迫ってきている。



 質ではなく数で圧倒的に負けている。これほどまでに人が足りないと感じたことがあっただろうか。



 徐々に徐々に押される冒険者たち。モンスターの数に、圧にその戦意を削がれそうになったその時、



「諦めんじゃねぇぇえーーー!!!!!」



 どでかい声が辺りに響いた。



「ギ、ギルドマスター!?」



 その声の主はイクシオン冒険者ギルドのギルドマスター、ガイゼクト・ルシルフだった。



「お前たちは何だ!答えてみろ!!」



 ガイゼクトの声にみんなが耳を傾ける。



「俺たちは冒険者だ。モンスターを倒すことを生業とする生粋の……バカだ!命がけで毎日戦っている大バカ野郎だ!!モンスターを倒せなきゃ稼げない。安定した職の方が稼げる奴も多いだろうし、何倍も安全だ。魔王が復活した近年ならなおさら街の中で商売した方が危険は少ない。でも、そんな中お前たちは冒険者になり、今こうして戦っている!!それはなぜだ?」



 なぜ?そう問われれば、ほとんどの冒険者にとって答は一つ。



 こんなモンスターが蔓延る世の中で、命を懸けて冒険者になろうなんてしているやつの答なんて……そんなもの。



「冒険者に憧れたからだろ!!!!」



 そう、命を懸けてモンスターを倒すその姿に。命を懸けて他者を守るその姿勢に。世界を旅し、お金を稼ぐその生きざまに。



 それに憧れを、夢を抱いたからこそ冒険者になったんだ。



「なら!!諦めんじゃねぇ!!!お前たちが憧れ、目指した冒険者はこの程度で諦めるのか!!こんな数にものを言わせた攻撃しか出来ないモンスターたちに跪くような冒険者なのか!!!そんなのがお前たちが憧れた冒険者なのか!!!??」



 戦意を削がれかけた冒険者たちの目に再び戦意が戻る。彼ら彼女らが憧れを抱き、いつの日か追いつきたいと夢見た冒険者はこの程度では諦めないからだ。



「俺たちは冒険者だ!!生粋の大バカだ!!!そんなバカの力を見せつけてやれ!!!冒険しろ!!!勝つぞ!!!冒険者ども!!!!」




『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!』



 大地を震わすほどの雄たけびが冒険者たちから上がる。



「いけぇーーー!!!」


「勝てぇぇえ!!!」


「俺たちは冒険者だぁああ!!!」


「モンスターどもに見せつけてやれ!!!」



 戦意を取り戻した冒険者たちの逆襲が始まる。それは今まで命がけで戦ってきた者のプライド、意地がぶつかったからこそ起こる現象。今まで押されていたのが徐々に押していき、形勢が逆転した。



「へっ!やりゃ出来るじゃねぇか」



「ギルドマスター、なぜここに?」



 近くにいたCランクの冒険者の女性がガイゼクトに問いただす。



「あぁ?見て分からねぇのか?」



 ガイゼクトは装備を身に着け、武器を手にしている。すなわち……



「戦いに来られたんですか!?」



「何驚いてんだよ。俺も冒険者だぜ」



「そうですけど……」



「それに……この街にいる冒険者たちが命がけで戦っている。この街のため、人々のために。それなのにギルドマスターは安全な場所で待機だ?笑わせんな……こういう時に前に出なきゃ……ギルドマスターじゃねぇだろ!!!行くぞ!!お前らぁ!!!」



 そう言いガイゼクトは他の冒険者たちと共にモンスターたちに突っ込んだ。























「ふふ、そう()()って分かっていたよ」



 銀髪の少年がイクシオン冒険者ギルドに向かう道を歩きながらそう呟く。



 高ランクの冒険者たちがいなくなり、この街に危機が迫ったならばあのギルドマスターならそう動くと()()()()()()



 少年がギルドに到着し、その扉を開く。本来ならこの扉は開けっぱなしだが、こんな事態になった今は扉を閉めている。そして、こんな状況だからこそ中には冒険者は一人としていない。いるのは受付の人達だけだ。



「ようこs……」



 受付の女性が人が入ってきたのに気が付き挨拶をする。が、その言葉は途中で止まってしまった。



 その少年の額にある目の力によって……



「ふふ、いや~、冒険者たちがいなくなるとここまで侵入するのが楽だなんてね」



 少年はどんどんギルドの奥へと進んでいく。当然奥には受付の女性が何人もいたが、不気味な光を放つ目を見た瞬間、まるで意識がないような状態となり、その場で立ち止まってしまう。



 そもそもなぜ高ランクの冒険者がここにいないのか?なぜモンスターたちが大量発生したのか?なぜSランク冒険者が出払っているのこのタイミングなのか?



 ここはこの大陸最大の冒険者ギルドだ。本来人が足りないなんて言うことはない。ではなぜこのような事態が起こったのか……



「さぁ、頂くとしようかな」



 かつてないほどに手薄になったイクシオン冒険者ギルドの地下に、その少年は降りて行った。



明日は12時、18時の2話投稿です!!第2章の完結をぜひ見届けて下さい!!

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