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第28話 語られる叫び

前話のあらすじ!!


・モブキャラさん即退場

・Sランク冒険者登場

・ティアナさんつえーー!

「ようやく彼女が遺跡に向かったね」



 イクシオンの街の大きな建物の屋根に銀髪の少年がベンチに座るように気軽に腰かけていた。



「Sランク冒険者である彼女がいなくなってくれれば僕もやりやすい……あれも戦力として使いたかったけど、しょうがないかな。まぁ、一応簡単には出られないようにしてるから、問題ないか」



 その少年は楽しそうに、愉快そうに言った。



「あとは……あのギルドマスター、かな」



 その目に映るのはイクシオン冒険者ギルドだった。




















 ティアナさんと俺たちは順調に遺跡内にいるモンスターを倒しながら奥へと進んでいった。



 奥に行くにつれて徐々にモンスターの強さも強くなる。だが、それを苦戦することもなく進めているのはやっぱりティアナさんのおかげだな。



 前からくるモンスターに的確に魔法を当てて弱らせている。そのおかげで俺も《妄想再現》を使わなくてもモンスターを倒せているし、唯香もルナも簡単に倒せてしまっている。



 にしても……



 このモンスターの数も凄いけど、それ以上にティアナさんが凄すぎる。魔法をさっきからバンバン使っているのに全く疲れていない。



 一体レベルいくつなんだ?



 純粋に気になってモンスターがいなくなったタイミングで《鑑定》を再現。そして、ティアナさんに視線を合わせ鑑定する。




【スキル《鑑定》はスキル《隠蔽》により無効化されました】




 ……はい?



 え?鑑定って隠蔽で無効化できるの!?



「うん?」



 その時、ティアナさんが俺の方に振り向いた。



 やっっべ!!



 直ぐに視線を外し、鑑定するのをやめる。



「どうしたんですか?ティアナさん」



「いえ、何でもないわ。先に進みましょ」



 なんだ!?この人!?さっきの俺が鑑定して隠蔽が発動したのを感じ取ったのか!?



 さすがSランク冒険者だな。今まで出会ったどんな人よりも凄い。あのライオットさんよりも……





 俺たちはどんどんモンスターを倒しながら奥へと進む。今回の依頼はモンスターの殲滅もそうだけど、こうなってしまった原因を突き止めるのも依頼内容の一つだ。



 なので怪しいと思ったところは調べる。けど、原因は分からない。



 そしてついに遺跡の最奥までやってきた。



 そこには大きな扉があった。



「この先が最後の部屋。今までこの遺跡には怪しい部分がなかった。つまりこの部屋に何かがある、ということ。三人とも気を引き締めて」



「はい!」



 そう気を引き締め、扉を開く。



 その先は大きな部屋だった。横幅もそうだけど、天井は見上げるほどに高い。



 なんだ?この部屋。



 そして、正面には大きな石像があった。10mを軽く超えるほどの大きさで、こちらに歩み寄ろうとしているかのように右手、左足を前に出している格好だ。



 ティアナさんと唯香、ルナがこの部屋を調べるために中に入る。









 …………




 …………いやいやいや!!待て待て待て!!




 あの石像絶対動くだろ!!侵入者を排除するためにとか主以外は通さないとか。そんな感じで動くだろ!あれ!!



「まっt」



 みんなを止めようとしたけど遅かった。



 ―――ゴゴゴゴゴゴゴ!!!



 という地響き。辺りの壁にひびが入り、石像が動き出す。



 やっぱりなぁ!!想像した通りだよ!!



 石像の石っぽい部分が徐々に色味を帯びてくる。足が、体が、腕が灰色から茶色へと変化し、胸の中心には魔石と思われる光り輝く石。そして、顔からはギョロリと俺たちを覗く一つ目。



「これは……ゴーレム……?」



 そう、これまたRPGでは定番のモンスターである「ゴーレム」だ。



「¥%$#=-¥*@#!!」



 なんて言っているのか……そもそも言葉なのか。良く分からない叫びが部屋中に響く。



「……っ!?三人とも避けて!!」



 ゴーレムがその巨体からパンチを繰り出した。その体に合わない速度。それを見たティアナさんが指示を出す。



 やっべ!!



 ルナは《俊足》のスキルがあるから大丈夫。俺は《俊足》を即座に再現し、唯香を抱きかかえて《疾走》で攻撃から逃れる。



「大丈夫?」



「う、うん。ありがとう。春樹くん」



 ゴーレムがパンチした後には地面がへこんで辺りがひび割れていた。



 ただのパンチでこの威力かよ!?



「くっ!……ハル!ユイ!ルナ!このゴーレムが遺跡の異常に関わっているか分からないけどここで止めないとこのあたり一帯に被害が出る。何としてでもここで止めるわよ!」



「了解!」



 その返事と共に俺とルナが飛び出した。《疾走》を使いゴーレムを翻弄。唯香も俺たちがゴーレムに向かった直後に《移動速度上昇》を付与してくれたから俺たちの速度にゴーレムがついてこれていない。



 ゴーレムが俺とルナどちらに攻撃していいか狙いを定め切れていない。その一瞬の隙をつき、俺が《破壊斬》で攻撃。



 足元に斬撃が直撃する。が、少しだけゴーレムを後退させることは出来ても大したダメージは通ってないように思える。



 くっそ!こういうゴーレムは作られた素材にもよるけど斬撃系の攻撃が利きにくかったりするものが大半なんだよな!!




 今度はゴーレムの攻撃。巨大な右腕を頭の腕まで振り上げる。



(なっ!?さっきのでさえ地面がえぐられるほどの威力だったのに、それ以上ってなると下手したら崩落するんじゃないか)



 そう危惧したけど、その攻撃は防がれた。



「《フリージングサインズ》!!」



 ティアナさんが《氷魔法》の上位魔法である《フリージングサインズ》を発動。ゴーレムの右肩から腕にかけての部分を完全に凍らして攻撃を止めた。



「《ウォーターショット》!!」



 その隙を逃さず、唯香が《水魔法》の中位魔法である《ウォーターショット》を発動。ゴーレムに命中させる。



 よし!良いぞ!



 このゴーレムの素材が何で出来ているかは分からないけど、「岩人形」って表されるくらいだから水が苦手のはず。



 その証拠にゴーレムがまた後退。そのチャンスを逃さないように俺とルナが距離を詰め、攻撃。ティアナさんと唯香も魔法で攻撃を行う。



 いける!勝てる!!



 戦いが始まってから終始、俺たちが押しっぱなしだ。この調子でいけば……





 そう思ったとき、






 ゴーレムから黒いオーラが現れ、それがゴーレムを包み込むように渦巻く。



「「え?」」



 その現象に声を上げたのは俺とティアナさん。



(あれって黒竜のときと同じ……)



「な、なん、で……あれが……」



 ティアナさんはその現象に驚き、戸惑い、唖然としている。



「ティアナさん!!」



「……っ!?」



 ゴーレムから現れた黒いオーラが地面に伝わり、地面が波打ちながらティアナさんに迫る。反応の遅れたティアナさんは地面に取り込まれそうになった。



「くっ!!」



 《妄想再現》で《瞬身》スキルを再現し《神速》を使用。一瞬でティアナさんのところまで行き、間一髪のところで地面に取り込まれるのを防ぐことができた。



 あっぶね!!



「唯香!ルナ!あの黒いオーラはオーラの所持者、つまりゴーレムの意志で操作できる。オーラに取り込まれればただの石でも強力な武器になるから気を付けろ!!」



「うん!」「はい!」



 ここは以前あの黒いオーラを纏ったモンスターと戦ったことのある俺が前に出ないといけない。だから《妄想再現》で《予見眼》を再現。




 そしてゴーレムに《神速》で突っ込んだ。ゴーレムから放たれたパンチを躱し、その直後にやってきた黒いオーラを《予見眼》で躱す。



 そして、ゴーレムに《乱舞剣撃(らんぶけんげき)》を使用。無数の剣撃が迫り、命中する。



「&%**」



 ゴーレムが後ろに大きく後退する。



「なっ!?なんで()()状態のモンスターにあれだけのダメージを与えられるの!?」



 ティアナにとっては異常な光景。普通はあのゴーレムにあんなダメージは与えられないからだ。



「よし!いける!!」



 ゴーレムの弱点はどんなファンタジー作でも共通していることが多くわかりやすい。



 弱点。それは中心にある物。つまり魔石である可能性が高い。



 だから……



 《神速》を走るのではなくジャンプするタイミングで発動。一瞬でゴーレムの頭上をとった。



 いけ!!!



 そして俺は魔石を狙い攻撃しようとするが……



「春樹くんっ!!!上っ!!!!」



 唯香から発せられた悲鳴に遅れて気づく。それは俺のさらに頭上に大きな岩石が形成されていた。



 まさか魔法!?こいつ魔法も使えるのか!?



 そしてその岩石が黒いオーラを纏って俺に襲い掛かる。



「やっばい!!」



 即座に《鑑定》を解除し《盾術》を再現。そして《クリアシールド》を使用。



 ―――ゴーーン!!



 という硬いもの同士が当たった音。その衝撃が伝わる。



 一瞬の硬直。しかし、



 ―――ピキッ



 《クリアシールド》にひびが入った。



 やばい!下には唯香たちもいるのに!



 これじゃみんな巻き添えを食らう。その時、



「《マジックリーンフォース》!!!」



「っ!!」



 唯香が魔法強化のバフをくれた。これでいける!!



「くっ!!」



 何とか持ちこたえ、岩石を人がいない場所に弾き飛ばす。



 やばかった!!



「大丈夫!?春樹くん!?」



 地面に着地すると同時に唯香が心配そうに言ってきた。



「大丈夫。ありがとう、唯香。助かったよ」



 ほっとしたけどまだ戦いは終わってない。ゴーレムの方に意識を集中しながら指示を出す。



「唯香。俺とルナ、ティアナさんにもバフをかけ直して……ティアナさん?」



 さっきから黙っているティアナさんを不思議に思いチラッと見る。するとこちらをじっと見ていた。



 なんだ?こんな戦いの真っ最中なのに……



 唯香がバフをかけ直した、その時、




 ――――ドーーーーーーーン




 という爆発音が辺りに響き、俺たちが立っている地面がひび割れ崩落した。



「なっ!?」


「きゃあぁあ!!」



 崩落により地下に落ちていく時、俺はこれによく似た光景を思い出していた。




 ―――既視感?




 俺はこの光景を見たことがある。




 この光景は「嘆きの洞窟」で崩落に巻き込まれたときと似ていた……





















「いてて……」



 落下からみんなを守るために《瞬身》を解除し《風魔法》を再現。地面から俺たちに向かって《ストームウォール》を発動させた。といってもかなりの突風だし、これは攻撃魔法。そのままじゃダメージを負ってしまう。そこで《盾術》を解除し《補助魔法》を再現し《プロテクト》を全員にかけた。これは魔法の効果から人を保護する魔法。つまりダメージからは保護されるが風の突風からは保護されない。




 魔法を完全には防げない下位の魔法だけど今回はその効果が役に立った。突風により落下の速度を低下させ、無事に地面に降りることが出来た。




 だけど、その後に上から降り注いだ落石を防ぐことが出来ずに腕と足を怪我してしまった。




「みんな大丈夫?」



「うん。なんとか……」



「はい……」



 唯香は肩をルナは太ももを怪我しているけど大丈夫そうだ。



 あれ?ティアナさんは?



 辺りを見回すと少し離れた所にいた。



「ティアナさん大丈夫ですか?」



「ええ……」



 頭を怪我してるけど大丈夫そうだな。



 でも、様子がおかしい。ゴーレムと戦っている途中、黒いオーラが出たあたりからだ。



 とりあえず回復しないとな。



「唯香。ルナの怪我を回復してあげて。俺はティアナさんを回復するから」



「うん。分かった」



 《風魔法》を解除し《回復魔法》を再現。ティアナさんを回復する。



「他どこか怪我した場所ないです……」

「ねぇ……」



 俺の言葉を遮ってティアナさんがこちらに振り向き、言葉を発した。



「あなたたちは、何者なの……」



「な、何者って……」



「あのゴーレムから出てきた黒いオーラ。あれを発動している相手にあなたはあれほどのダメージを与えられていた。普通の人じゃあんなダメージを与えられない。私でも……」



 え?ティアナさんでもって……どういうことだ?



「ど、どういうことですか?」



 あの黒いオーラは何か特殊なものなのか?



「あれは……あの黒いオーラは……魔王の力だから」











 …………はい?



 え?あの黒いオーラが……




「魔王の力……?」



「そう……あの力を発動させるとモンスターは魔王の力の加護を受けて、各能力が上昇し、通常の攻撃ではほとんどダメージを与えられなくなってしまう。そんな魔王の力を持つ存在にダメージを与えられるなんて……そんな人……ううん。もうとっくに気付いてた。気付いてしまった」



 ティアナさんは俺たちを真っすぐに見据えて、



「ハルとユイ。いえ、春樹と唯香。あなたたち二人は……勇者。よね」



 沈黙が場を支配する。ゴーレムとの戦いで咄嗟にお互いの名前を呼んでしまったから、偽名であることもばれてしまった。



 これは……まずいのかな?



 俺たちが勇者であると知られれば王国や貴族たちの企みを暴くことが困難になってしまう。



 でも、相手はSランク冒険者。



 ちゃんと話をすれば大丈夫なはず。



「はい。俺たちは勇者です。今まで黙っててすいません」



 ティアナさんは俺の返事を聞いた瞬間、体を震わせ、涙を流した。




 ……え?なんで!?




「なんで……なんで!なんで!なんで、もっと早くに現れてくれなかったの!?勇者は魔王を倒す存在なんでしょ!!!」



 その叫びは声を震わせ、泣くのを堪え、今までの思いを吐き出す心からの叫びのようだった。



「なら!なんで……なんで五年前に現れてくれなかったの!?もしあなたたちがいてくれたらみんなは……」



「み、みんなって?」



「現在Sランク冒険者は私を入れて二人しかいない。でも、五年前は10人いた」



 いた……それが示すことは、つまり……



「そう。10人いたSランク冒険者のうち8人は死んでしまった。魔王との戦いで……」



 五年前。魔王が復活した時に戦ったんだ。人々のために、この世界の為に。最強の冒険者であるSランク冒険者たちが。




 命がけで戦い、そして死んでしまった。




「その戦いで私の憧れの人も、友人も、そして師匠も!!みんなみんな!!」



「そ、そんな……」



 それを聞いていた唯香がそう呟く。




 ――――身近な人の死




 日本でその経験をするのは長い人生の中でも限られた数だろう。でも、この世界では日本よりも死が身近にある。



 言葉をかけれない俺たちを見てティアナさんは昔を懐かしむように語る。



「私の種族はハーフエルフ。ハーフエルフは純血のエルフよりも珍しく、昔から悪意ある人達に狙われていた。そして、私が14の時、村が襲撃された。家が焼け、村の人達がどんどん捕まっていく中、私は両親のおかげで何とか逃げることができた。けど、行く当てなんてなく、森を彷徨っていたらモンスターに遭遇し襲われた。もうだめかと思ったその時、私はある冒険者パーティーに助けられた」



 ティアナさんから語られる過去。それに俺も唯香もルナも真剣に耳を傾ける。



「その冒険者パーティーが当時Sランク最強と言われていたウルのパーティーだった。ウルは一瞬で私を追っていたモンスターを倒した。そして私はウルに助けを求めた。どうか捕まったハーフエルフを、両親を助けてくださいって。ウルはその願いを聞き入れてくれて一度村に戻ったけど、遅かった。みんな連れ去られた後だった。でも、ウルはその約束は果たすって……そう言ってくれた。それから私はある人のもとに預けられることになった。それが私の師匠であり、Sランク冒険者のシアリーだった」



 Sランク最強のウル。そしてティアナさんの師匠であるシアリー。でも、その人たちは……もう……



「私はウルに助けられたとき強い憧れを彼に抱いた。この人みたいに困っている人を助けられるようになりたい。自分で仲間たちを助けられるくらい強くなりたいと。そして、私はシアリー師匠に弟子入りした。私は師匠から色々なことを教わった。魔法の使い方や戦い方。冒険者としての心構えまで。そして、弟子入りしてから二年後、私は冒険者になり依頼をこなし、その一年後、Sランクになった」



 冒険者を始めてたった一年でSランク。それがどれだけ凄いことか……弟子入りしてからの二年間、どれだけ努力したのか。冒険者になってからどれだけ頑張ったのか。それが分かる。



 Sランクにたどり着くのに十年かかった人もいるくらいその門は狭いはずなのに……



「同じSランクの人達はみんな優しく、私の思いを聞き入れてくれた。私の目標を応援してくれた。気に食わない人もいたけど……でも、最高の仲間だった……そんな時、魔王が復活した」



 ―――っ!!魔王……



「魔王はその力でモンスターを大量発生させ、凶暴化させた。たくさんの人達が死に、たくさんの街が壊滅した。人々が絶望したその時、立ち上がったのがウルだった。ウルは言った。希望を掴み取ろう……と。そして、私たち10人のSランク冒険者はモンスターと戦った……戦って戦って戦った……このままいけばモンスターを殲滅できる。そこまでいったのに、そこにまた絶望が押し寄せた。その存在が『魔王六魔族(まおうろくまぞく)』」



「魔王六魔族……」



「魔王より直々に力を与えられた六体の悪魔。それが六魔族。六魔族はあの黒いオーラを自在に操ることができ、他のモンスターにもその力を分け与えることができる。そんな六魔族にSランク冒険者たちは次々にやられていった」



 ティアナさんの声が、体が徐々に震えていった。




「一人目は体を切断された……二人目は頭をもぎ取られた……」




 心の奥底から想いを……気持ちを吐き出すように声を強めながら……




「三人目は体を爆散させられた!四人目は両手足をもがれ、拷問され殺された!!五人目は意識を乗っ取られ、人を殺して回る傀儡にされ、最終的に自滅した!!!六人目は人々を守るために敵の攻撃を受けて跡形もなく消滅した!!!!」




 ティアナさんは俺の胸ぐらを掴み、涙を流しながら叫ぶ。そこに居たのは凛としたSランク冒険者ティアナではなく一人の女の子だった。




「七人目……師匠は私を逃がすために、たくさんの人達を守るために、モンスターの大群にたった一人で立ち向かい、そしてモンスターに囲まれ嬲り殺された!!!!!私の前で!!!!!!!……そして八人目!ウルはこの世界を守るためにたった一人で魔王に戦いを挑み、帰ってこなかった……私たちは戦った!命を懸けて!!……でも勝てなかった。負けた……私たちじゃダメ。だけど、勇者なら……魔王を倒すことの出来る存在なら!!この絶望を希望に変えれる!!!」




 黒いオーラを持つモンスターには魔王の加護がかかり普通ならそれほどダメージを与えられない。でも、勇者は与えられる。おそらく……




 スキル《勇者》




 このスキルは勇者専用のスキルで、武器に魔族に有効な聖属性を付与することが出来るというもの。




 恐らくこれが発動し、黒いオーラを持つモンスターにダメージを与えられるんだろう。




「そんな、この世界にとっての希望……なのに!勇者たちは黒竜に怯え、王城に引きこもっているそうじゃない!!!」



「……っ!?」



 そのことをティアナさんは知っているのか……というかみんなが引きこもっているなんて俺も初めて知った。そこはてっきり桐生や望月たちが上手くやっているものだと思ったけど。



「たかが黒竜ごときに怯えるなんて、何が勇者よ!!私たちはそれ以上の恐怖、絶望を味わった。でも、怯えた者なんて一人としていなかった。みんな命がけで戦った。それなのに……」



 みんなが求めた希望。勇者。それが怯えて安全な王城に引きこもっている状態。なのに、街の人達から英雄だの言われているのがティアナには我慢できなかった。そんな勇者ならウルたちの方がよっぽど英雄だから……



「なんで今なの!?なんで五年前に現れてくれなかったの!?なんで勇者としての特別な力があるのに引きこもっているの!?なんで……どうして」



 泣き崩れるティアナさんにどう声をかけていいか分からなかった。



 俺だって言いたいことはある。



 そもそも五年前に現れなかったのではなく、勇者を召喚することができなかった。召喚には召喚するためのスキルと準備が必要だからだ。



 そして、俺たちは無理やり勇者として召喚された。自分たちの意志とは関係なく武器を取らされ、生まれ故郷でもないこの世界のために戦うことを強制させられた。



 だからいろいろ言いたいことはある。だけど……こんな顔をしている女の子を前にそれが言えるのか。



 大切な人たちを亡くし、絶望した顔を浮かべ泣き崩れている女の子に。



「あなたたちが別の世界から来たことも知ってる。理不尽なのは分かってる。でも……それでも!!」



 言えない。言えるわけない。それに、大切な人を失う悲しみはよく分かる。



「ティアナさんの思いは……よく分かります。大切な人たちを失う悲しみが……」



「……っ!?勝手なこと言わないで!!あなたに私の気持ちが!!!!」



「分かるよ!!」



「っ!!」



「分かる。その想いが。辛くて、苦しくて、悲しくてやりきれない、そんな想い。その人のことを考えると、今までその人と過ごしたことが思い浮かんで余計に苦しくて、何度忘れようとしても、何度前を向こうとしてもダメで、いつまで経っても悲しい想いは消えなくて……分かるよ……」



 この人は自分と同じだ。中一の頃の自分と……



「確かに俺たちは頼りなくて情けない勇者かもしれない。でも、みんな必死に戦ってる。恐怖に飲まれても前に進もうと努力している。そんな勇者たちを見て欲しい。信じてとか頼ってとかティアナさんには言えない。でも……」



 何をどう伝えるべきなのか……自分でも分からなくなってくる。



 くっそ!!なんでこんなに苦しくて辛くて難しいんだよ!!



 妄想みたいに全てが上手くいってくれたらいいのに!!



 でも、そんなに上手くはいかない。それが現実だ。



「なら……あなたがそれを証明して。あのゴーレムを倒して……あなたが言ったことを証明して見せて」



 ティアナさんは俺を真っすぐに見つめて言った。その目にはもう涙は浮かんでいない。俺はその想いに応えたい。だから……



「分かりました。証明して見せます」



「私も……勇者としてティアナさんに見せます」



 そこにずっとティアナさんの話を聞いていた唯香が近づいてきてそう言った。その目は覚悟のこもった目をしていた。さっきのティアナさんの話を聞いて唯香もティアナさんを救いたいんだろう。ずっと絶望に囚われている彼女を。



「私も……お二人ほど強くはないですけど……でも……」



 ルナも覚悟を決める。ルナは勇者じゃない。でも自分で覚悟を決めてそう言った。



 俺たちは誓う。一人の女の子を救う。と。


累計10000PV達成!!日頃からこの作品を読んでくださっている方々に感謝を!!

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