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第11話 悲しむ者の気持ち

前話のあらすじ!!


・ライオット奮闘

・剣斗覚醒ならず

・春樹落ちる

 ドーーーン



 という何かが落下した音。その音がした周りには大量の煙が渦巻いている。



「ケホッケホッケホッ……生きてる……ほんと妄想再現様様だな」



 落下の衝撃を耐えるために《土魔法》《魔法威力増加》を解除し、《身体強化》と《衝撃吸収》を再現。



 《硬質化》のスキル《硬化》を使い防御力を上げ、《身体強化》で体を強化し着地。着地の衝撃は《衝撃吸収》で吸収するというスキル三つをフルに使って何とか着地した。



「くっそ!もうMPもないな……」



 魔法もスキルも大量に使ってるからMPがさすがに切れてきた。



 ここはどこだ?黒竜は?



 周りを見渡してみるとそこは10階層のような造りの部屋だった。だとするとダンジョンにいくつかあるセーフティーゾーンの一つだろう。



「グギyAAAAAAAA!!!!!!!!」



 その時、頭上から絶望の咆哮が響いた。上を見ると黒竜が俺のところに向かってきていた。



「やっぱり来るよな!」



 ズドーーーン!!



 目の前に黒竜が降りて、砂埃が巻き散る。それが黒竜の咆哮により霧散する。




 やばい……やばい……やばい……




 どうする?戦う?逃げる?どのスキルを再現する?



 そんなことを考える隙を黒竜が与えてくれるはずもなく、灼熱の炎が黒竜から放たれた。



「……っ!!」



 《疾走》を使い回避。しようとするが、途中で《疾走》の効果が切れてしまい左肩に炎が少しだけ当たる。



「ぐっ!!」



 少し当たっただけで左肩のプロテクトが溶けて肌が露出する。




 かすっただけでこの威力かよ!!




 《疾走》が途中で切れたのはMP不足が原因だ。だったら……



 《衝撃吸収》を解除し《MP自動回復・超》を再現する。HPとMPは休んでいれば自動で回復していくが戦闘中に回復させるのは困難だし、その回復も微々たるもの。だから《妄想再現》で回復系のスキルを再現することにより回復を早める。




 でも、それでも時間が少しだけかかる。だから……




 《重力操作》を解除し《隠密》を再現する。隠密はMPを使わずに使用できる単一スキルで、その効果は自分の存在を隠し、敵から見えなくすることが出来るという効果だ。ただし、場所が明るければ効果が薄れ、暗ければ高くなるという特徴がある。また《看破》なんかのスキルがあれば見破られてしまうが、黒竜はおそらく《看破》のスキルは持ってないし、ここは地下のダンジョン内。



 この状態なら《隠密》の効果を最大限発揮できる。時間が稼げる。



 俺は後ろにスッと下がり《隠密》を発動。さらに左側に全力で走り、黒竜の視線から逃れる。



 黒竜は俺を見失い、辺りを見回しているが見つけれてないようだ。



 よし!!いける!!!



 そう思ったのもつかの間。





 ―――ゴゥゥーーーーーーー!!!!




「なっ!!」



 黒竜が俺の向かっていた方向にある出口の部分に向けてブレスを放った。さらにその逆側にある出口も。灼熱の炎によりダンジョンの壁が溶け、出入り口を塞いでしまった。



「くっっそ!!こいつ……」



 逃がさないつもりだ……竜種は知能が高く、頭がよく回るっていう風に描かれている作品もあるけど、こいつも知能が高い系かよ!!



 こうなったらもう選択肢は一つだけしかない。




 ―――黒竜と戦う




 勝てるのか?ライオットさんでさえ注意を引くのがやっとだったような化け物と?





 無理だ……





 《妄想再現》の力を使ってもステータスが違いすぎる……



















 ここで……死ぬのか……


















 その時、脳裏に浮かんだのは大介や佐々木、西山に剣斗たち。そして、背中までかかる黒い綺麗な髪をした小学生の女の子。













 ふざけんな……









 死んでいいわけないだろ!








 自分はいいよ!!死んだらそれで終わりだから……






 でも残された人はどうだ?どう思う?






 俺はこういう展開になった主人公が仲間に何も知らせずに「ちょうどいいから自由に行動するか!」っていう小説が大嫌いだ。






 何も連絡せずにどっか行くとか、自己中もいいとこすぎる。別行動するのはいいよ!でも別行動するならちゃんと友達にくらい連絡してから行動しろ!!読んでいてずっとそう思ってたし、そんな小説は途中で読むのやめてたし。







 残された人がどれだけ不安になるか……どれだけ悲しむか……







 俺はよく知っている。だから……







「絶対に、生きて帰る!」





 そのためにまずは黒竜を倒す!




 大丈夫だ!冷静になれ!




 俺は元中二病だろ!妄想の中で何度も強敵と戦ったろ!!




 それこそ黒竜なんて生易しいモンスターじゃなく、伝説に出てくるようなモンスターや怪物、それに、魔王とだって。




 何百?何千?何万?




 そのレベルで戦っただろ!






 今だけでいい、中二病の頃に戻れ!思い出せ!妄想での戦いを……





 立ち止まって冷静に考える。




 竜を倒すには?火力を上げるには?攻撃スキルと防御スキルの比率は?どんな耐性が必要?




 ゆっくりと確実に妄想し、スキルを再現する。




 全部で五つ。それを無駄なく使うには?





【スキル《身体強化》を解除します】


【妄想再現の条件が達成しました】


【スキル《剣王術》を再現します】


【スキル《硬質化》を解除します】


【妄想再現の条件が達成しました】


【スキル《鉄壁》を再現します】



 MPが回復するのを待ってから、隠密の効果を解除。黒竜の前に姿を現す。そして、


【スキル《隠密》を解除します】


【妄想再現の条件が達成しました】


【スキル《竜特化》を再現します】



 やっぱりあった。竜種に対して絶対的な攻撃力を叩き出せるスキル。桐生が《悪魔特化》っていうスキルを持ってたからあると思ってたよ。




 今、俺の《妄想再現》で再現しているスキルは、


 《剣王術》《竜特化》《俊足》《鉄壁》《MP自動回復・超》


 この五つだ。




 攻撃1。サポート2。防御1。回復1。



 バランスとしては悪くない。これで……



「黒竜を倒す!!!」




 俺の決意が分かったのか黒竜も咆哮を上げる。




 そして俺は剣を構え、黒竜に向かって走っていった。黒竜はそんな俺に狙いを定め、ブレスを吐く。



 《疾走》を使い、冷静に回避。今度はうまく回避でき、そのまま黒竜の足元に。



「《断絶斬(だんぜつざん)》!!!」



 《剣王術》スキルの中の《断絶斬》を使用。剣が黒々しく光り、それを黒竜の顎の下目掛けて振り、当てる。



 ―――ガーーーン



 という硬いもの同士が当たった音がし、黒竜が後ろに一歩、二歩と退く。さすがに、剣術系の中でも最上位の《剣王術》のスキルと《竜特化》を合わせた攻撃力は相当なもので、少しは効いたはずだ。



「グギyAAAAAAAA!!!!」



 黒竜が怒りのこもった叫びをあげる。




 ―――やっぱり




 そのまま追撃しようとしたが嫌な予感がし、《鉄壁》スキルの《防域(ぼういき)》を発動。俺を中心に円型に透明なシールドが形成される。



 その直後、



 ―――ゴウッーー!!



 という音と共に爆風が辺りを支配した。黒竜がその漆黒の大きな翼を使って爆風を起こしたのだ。



「くっ!!」



 《防域》を発動していたからよかったものの、あのまま突っ込んでいたらこの爆風に煽られて体勢を完全に崩していた。



 やばかった……



 爆風が収まったところで《防域》を解除し、再び黒竜に突っ込む。剣を振りかざし、攻撃をする動作に移る。それを見て黒竜も右腕を振り上げる。俺の攻撃に合わせてカウンターを入れる気だ。だけど、そんなことはさせない。



 すぐに《鉄壁》スキルの中の《空域(くういき)》を使用する。これは真空の盾で攻撃を防ぐというスキル。それを黒竜の攻撃の軌道線上に設置。真空、つまりは風で出来た盾なため目視することは不可能。その盾に黒竜の腕が当たった直後、ボウッという音と共に黒竜の腕が弾かれ、体勢を崩した。




 ―――こういう使い方も出来るんだよ!!




 体勢を崩した黒竜の顎の少し下目掛けて《連撃神剣》を発動。一瞬にして30もの斬撃がその部分目掛けて飛んでいく。




 攻撃が当たった直後、その部分の鱗にひびが入った。その事実に黒竜は先ほどよりも強い怒りの咆哮を上げる。




 ―――思った通りだ




 俺が狙っている部分は竜の弱点としても有名な場所。



 ―――逆鱗




 竜は強固な鱗に覆われ、守られているが顎の下の一か所のみ普通の鱗とは違い、逆さに生えている鱗が存在する。



 それが逆鱗だ。



 竜種はこの逆鱗に触れられることを極端に嫌い、触れられた場合にはその者を殺すまで怒りが収まらないと言われている。



 そこから転じて「逆鱗に触れる」なんていう言葉が生まれるくらいだ。



 それと同時にそんなに触れられてほしくないのなら、最強の竜の弱点なのでは?という話もあり、物語でも弱点として描かれることも多い。



 怒れば冷静さを失わせれる。弱点なら倒せる。



 そう見込んで攻撃をしていた。正直弱点かどうかは分からなかったけど、それでも効果がある可能性がある。



 それに黒竜の鱗は硬く、ダメージを与えるのが難しい。なら少しでも可能性のある所に攻撃を与える方が勝ち目がある。



 このままいけば!!



 俺はさらに黒竜に攻撃を仕掛ける。《疾走》を使い、左右に移動しながら黒竜を翻弄。黒竜はブレスを吐こうとするが《空域》を目の前に発動させ、相殺させる。ブレスが終わった直後に黒竜の真下に行き、《断絶斬》を発動。黒竜の逆鱗らしき場所に当てる。



「グギyAAAAAAAA!!!!」



 フロア全体に響く咆哮。




 よし!いける!





 このままいけば……そう思ったが……





 そう簡単にはいかなかった。





「グギyAAAAAAAA!!!!!」



「……っ!?」



 黒竜からの咆哮。その後、黒竜から黒いオーラのようなものが現れた。そのオーラは黒竜を包み込むように渦巻いている。



「なんだ……?あれは?」



 そのオーラが地面へと移動し、そして、



 ズドーーン!!!



 俺の足元の地面が盛り上がり、俺を取り込もうとする。



「なっ!?」



 《疾走》を使って逃れるが、その地面が俺の後を追ってくる。




 ……土魔法?地形操作?




「くっ!!」



 地面が迫ってくるのが速すぎる。《疾走》でも追いつかれそうだ。よく見ると迫ってくる地面には黒竜と同じ黒いオーラが漂っている。



(まさか、あの黒いオーラで操ってるのか)



 だとしたら水魔法を使っても相殺できない。



 くっそ!!追いつかれる!!



 仕方なく《俊足》スキルを解除し、上位互換の《瞬身》スキルを再現。そして《神速》を使用する。



 すると一瞬で黒竜の背後に移動する。《神速》はその名の通り神のごとき速さを得られるスキルだがその分MP消費も激しいから使いたくなかったけど使うしかない。



 背後に移動した俺は黒竜の足元を《破壊斬》で攻撃し、黒竜の態勢を崩させる。そして横に移動し、逆鱗を攻撃。



 しようとするが黒竜のオーラを含ませた地面に足元をとられる。そしてお腹に攻撃され吹っ飛ぶ。




「ぐっっ!!!」



 二回、三回とバウンドし、地面を転がる。転がっている時に黒竜が追撃しようとしているのが見えたから、すぐに立ち上がって《神速》を使い距離をとる。




 くっっそ!!!きつすぎる……




 《妄想再現》の力をフルに使っても勝てない……圧倒的な戦力差……

















 でも……それでも……











 生き残る!!









 死ぬために戦うんじゃない!生きるために戦うんだ!









 絶対に……勝つ!!!










 それにライオットさんとの戦いでも使ってこなかった黒いオーラを使ってきたってことは、それだけ黒竜も余裕がないってことだ。








 いける!絶対に!










「いけーーーーーー!!!」



 俺は《神速》で突っ込んだ。黒竜もそれに反応し、地面を操作し俺を捕えようとする。





 その瞬間、俺は防御を捨てた。





 《鉄壁》スキルを解除し《予見眼》を再現する。《予見眼》は《見切り》スキルの上位互換のスキルで攻撃の方向やタイミングを予測し、把握することが出来る。



 《予見眼》で黒竜の攻撃を予測し、避ける。





 ―――避ける―――避ける―――避ける





 攻撃を避け、黒竜の足元に入り《断絶斬》を放つ。続けて《連撃神剣》を発動させ、全弾ヒットさせる。



 しかしその直後、黒いオーラが俺を取り込もうとしたため後ろに下がる。俺が下がったのを見て、黒竜は口の前で炎を出した。




 ブレス……いや、違う……




 その炎は顔の前で大きな球体になり、それに黒いオーラが纏わりつく。




 やばい……あれはやばい……





 そう本能的に感じる。




 黒竜はその炎の玉を真上に放つ。その直後、それが爆発。数百、数千にも及ぶ小さな炎の弾丸が俺に向かってきた。




「やっっばい!!!!」



 《神速》と《予見眼》をフルに使い回避する。しかし、その炎の弾丸は俺の動きが分かっているかのように迫ってくる。



 そして、回避がしきれなくなり右の脇腹を炎の弾丸がかすめる。



「ぐっ!!」



 焼けるような熱さ、刺されたような痛さが俺を襲い、動きを鈍くさせる。鈍ったところに炎の弾丸が迫り、左の脇腹、左太もも、右太もも、左肩、右の頬をかすめる。




 やばい……




 咄嗟に《剣王術》スキルを解除し《水魔法》を再現。《水魔法》の最上位魔法である《海王》を発動させる。




 俺を中心にこのフロアを覆いつくすほどの水が発生。そんな量の水をこの《海王》は自在に操作することが出来る。




 俺は水を操作し、炎の弾丸を食い止め、打消し、相殺していく。




 ボウッ―――ジュゥッ――――



 と言う音と共に水蒸気が発生し辺りを白い世界に変える。全てを相殺した俺は膝をついてしまった。



「はぁ、はぁ、はぁ……くっそ……MPをほとんど使っちまった」



 《MP自然回復・超》があるから相当無茶な使い方をしなければMPの回復が間に合うが、《海王》を使ってしまったがためMPが枯渇してしまった。




 やばい……今攻撃されたら避けられない




 《予見眼》だけでギリギリ回避できるか?







 しかし、一向に攻撃がやってこない。




 ―――どうした?




 水蒸気で出来た霧が晴れ、黒竜を見てみると……




「グゥッ……グゥッ……」



「……っ!?」




 今まで黒竜は二本足で立っていたのに今は四つん這いになり息を切らしている。




 疲れてる……?




 それはそうだ。あれほどの技を出したんだ。疲れていないはずがない。




 いける!!いける!!!いけ!!!!




 俺は再び剣を構える。そして、



【スキル《水魔法》を解除します】



【妄想再現の条件が達成しました】



【スキル《竜滅(りゅうめつ)》を再現します】



 竜を倒すためだけの専用スキル《竜滅》を再現。このスキルを今まで使ってこなかったのは今の俺にはMP消費が大きく、このスキルを使えるのはおそらく一回のみだからだ。




 もうこの勝負を終わらせる。




 一度大きく深呼吸し、集中する。黒竜もそんな俺を見て立ち上がり、態勢を整える。




 そして、《神速》のスキルを使って一気に距離を詰める。黒竜からの攻撃を《予見眼》で躱し、逆鱗に攻撃を当てる。



 《剣術》スキルのでの攻撃だけど《竜特化》があるからそれなりの威力は出てる。



 しかし、黒竜もこれでは終わらない。最後の力を振り絞り、黒いオーラで地面を操り攻撃。俺はそれを回避しようとするが、攻撃を食らってしまう。



「……っ!?……くっそ、頭が追いつかない」



 さすがに疲れてきて《予見眼》の力に頭が追いついていかない。




 なら……




【スキル《予見眼》を解除します】



【妄想再現の条件が達成しました】



【スキル《思考加速》を再現します】



 これで攻撃を避ける。そして、黒竜への攻撃。俺の攻撃は当たるが、その隙を狙い今度は黒竜が攻撃。それを俺は食らい壁に叩きつけられる。



「ぐっ!!」



 黒竜が追撃を加えようと地形を操作する。それが俺へと迫る。



「っ!?」


【スキル《思考加速》を解除します】



【妄想再現の条件が達成しました】



【スキル《盾術》を再現します】



「《クリアシールド》!!!」



 咄嗟に《盾術》を再現。《クリアシールド》を使用し、攻撃を弾く。



 あっぶね!



 《神速》を使ってその場から移動。攻撃の隙をうかがう。




 ―――落ち着け!冷静になれ!考えろ!見逃すな!





 ―――常に最善の手を打て!一瞬でも気を抜いたらやられる!





 ―――妄想しろ!想像しろ!




 黒竜を倒すため!生き残るため!帰るために!




 妄想しろ!!!!!




 《思考加速》のスキルを再現してないのにも関わらず思考が加速する。




 妄想の中で、黒竜に対峙する俺。現実でもそうだ。


 そして…………


 妄想上での俺と現実での俺が重なる。




【スキル《盾術》を解除します】



【妄想再現の条件が達成しました】



【スキル《地形操作》を再現します】



 攻撃をいなせ!



【スキル《瞬身》を解除します】



【妄想再現の条件が達成しました】



【スキル《氷魔法》を再現します】



 敵の動きを止めろ!



【スキル《氷魔法》を解除します】



【妄想再現の条件が達成しました】



【スキル《剣豪》を再現します】



 一瞬の隙をついて攻撃しろ!



【スキル《地形操作》を解除します】



【妄想再現の条件が達成しました】



【スキル《回復魔法》を再現します】



 体力が限界なら回復しろ!



【スキル《回復魔法》を解除します】



【妄想再現の条件が達成しました】



【スキル《身体強化》を再現します】



 倒すための手段を妄想しろ!勝つための未来を想像しろ!




 もはや妄想が現実なのか、現実が妄想なのか……





 それすらも分からなくなるほど、妄想と現実が一体になる。




 ―――中学時代、妄想の中での俺は勇者だった。英雄だった。そう……勇者になれ。英雄になれ……そして勝て!





 いけ!!




【……………………】




 いけ!!!




【……………………】




 いけ!!!!



【………………妄想再現の条件が達成しました………………】



【ユニークスキル《英雄昇華(えいゆうしょうか)》を再現します】



 途端に体が軽くなる。力が湧いてくる。






 いけ!!!!!!!







 そして、その瞬間が訪れた…………







 ―――――パリーーーーン







 という何かが割れた音。それにつられるように黒くて硬いものが地面に落ちる。



「グギyAAAAAAAA!!!!!!!!!!」



 黒竜から発せられた悲鳴にも聞こえるような咆哮。




 そう、戦闘を開始してからずっと攻め続けていた逆鱗がついに砕け散ったのだ。逆鱗が砕けるのと同時にその周囲の鱗も剥がれ落ちる。そして、鱗の無くなったそこには黒竜の柔らかな首の部分の皮膚があらわになっていた。




 いける!!!!!!




 そう確信し、そして黒竜に向かって一気に駆け出す。



 黒竜も最後の抵抗にブレスを吐くが、何度も妄想し何度も想像したからこそ、そのブレスを避けることに成功する。



 これで、終わりだ!!!



「《竜滅剣(りゅうめつけん)》!!!!!!!!」



 剣が赤と黒の光りを纏わせる。《竜滅》スキルの竜を滅するための剣技。



「いっっけぇぇぇぇぇええ!!!!!!!」



 その剣で黒竜の肌を狙い剣を振るい…………斬る。



 ゴウッ―――――という剣を振った轟音。ズシャ―――という切り裂く音が鳴り響いた。



「グギyAAAAAAAA!!!!!!!!!!」



 斬った瞬間にそこから大量の血が出てきて、それが俺にかかり、髪を、顔を、体を赤く染め上げる。







 そして…………






 黒竜が倒れた…………































「はぁ、はぁ、はぁ…………勝った?」



 倒れた黒竜を見るが動く気配はない。



 やった………



 その瞬間、



「うっ!!」



 ――ズキッ



 という刺さるような痛みが頭に来る。



「あれだけ妄想してたからな……」



 その痛みは徐々に増していき、立っていられなくなる。



 やばい……かも……



 俺はその場の倒れて意識を失った。

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