ラムネ色の花火
【花火】をお題に書いた650文字の短編です。
熱帯夜に、轟音が響く。
三階の角部屋、窓の向こうの夜空には、花火が見えた。
「そうか、今日は花火大会か」
俺はレポート作成の手を止め、よっこらせと立ち上がる。
冷蔵庫から冷えたラムネを出してきて、部屋の灯りを消した。
そういえば、地元も花火大会の筈だ。
きっとあいつも、何処かの誰かと地元で花火を見ている頃だろう。
次々に上がるスターマインを眺めつつ、冷えたラムネを流し込む。
「あの夜も二人でラムネ、飲んだな」
ピリッと喉に痛みが走った時、スマホが鳴った。
画面を見て、固まる。
二年前に別れたあいつ、美希だ。
着信音が止まった瞬間。
ひと際大きな花火が夜空を染めた。
遅れてくる轟音と、散っていく赤や青、緑の光。
それら光の粒は煌めいて、濃紺の空へ消えていく。
「──ねえ、もしもし」
気がつけば、俺はスマホを耳に当てていた。
空には、あの夜と同じようにスターマインが乱れ咲いていて。
「もしかして今、花火みてる?」
「ああ、見てる」
そっけなく応えると、電話の向こうからも花火の音が聞こえ……え?
「スターマイン、綺麗だねー」
「え、あ、ああ……」
なぜ。電話口から同じ音が聞こえるんだ。
「ねえ、降りておいでよ」
窓から身を乗り出す。
街灯の下、あの日よりも大人になった美希が、光るスマホを左右に振っていた。
「あ、ビールお願いね」
ビールなんてやらん。
冷蔵庫からもう一本ラムネを出し、美希の元へ走る。
あの時止まった時計を動かすには、やっぱりラムネだろ。