Another One "white lily"
「花はどうして美しいと思いますか?」
窓際で庭園の草木を整える彼女が唐突に私に問を投げる。
従者としての仕事という側面もあるが、庭園の管理は彼女が好きでやっているような節がある。直接そう聞いたことは無かったが、明らかにこの仕事の時だけ鼻歌を歌いながら楽しげにやるのだから分かりきっている。
「美しいという概念を理詰めて解き明かせるのならば美術は常に一定の流行を保つのではなくって?」
「いいえ、お嬢様。私が申しているのは"花"がどうして美しいのかということでございます。花が美しいのには一つの確固たる理由があるのですよ。」
花に水をあげながら、微笑んで彼女はそう言い返す。彼女がここまで強く言うのは珍しい。従者なのだから当たり前なのだが、いつも腰が低くて滅多に私や父上、母上に何かを言い返すことはしない。やっぱり花に対しては強いこだわりがあるのだろう。
「言ってみなさい。」
「花は散るからこそ、美しいのです。いつか必ず消え去ってしまうもの、その一瞬、一時にしか見ることの出来ないもの、生まれる命が必ず亡くなるように、花はその一瞬に輝きを放つからこそ美しいのです。」
「…そうかしら。」
花は不完全だ。美しさを保てず、いつか枯れて消えてしまう。最も永遠から程遠い存在だ。私は永遠を求めていたい。だってそうでしょう、ずっと見ていられる美しさの方が幸せに決まっている。
「けれど、私たちの一族はその一時しか見れない花の美しさすらも永遠にする、なんてことも目指す極致の一つよ。散ることを悲しまず、永遠に幸せを噛みしめることが出来る。」
「それは本当に幸せなのでしょうか?」
「当たり前じゃない。」
私の一族はかつての栄華よりは遥かに没落した貴族ではあったけれど、錬金術を扱う一族としてはそれなりの名声と技術を持つ一族だった。最も、錬金術自体が科学の進歩によって魔術から分岐・発展して生まれた技術体系であるから「錬金術は魔術でも科学でもない中途半端な学問だ」と馬鹿にされることが多く、そもそもこの分野を扱う一族の扱いが良くなかった。父上や母上はこの分野に限界を感じていたことや産業革命による既存の魔術の優位性が破壊されたことで研究に本腰を入れることはやめてしまったけれども、私は双方を併せ持つこの学問だからこそたどり着くものがあると思って、日々鍛錬を続けている。
錬金術や、魔術の勉強、鍛錬で幼い頃から外に出ることが非常に少なかった私にとって唯一、気をおいて話すことが出来る人は従者、メイドのソフィーだった。私が幼い頃、先代の従者が早くに亡くなり、娘のソフィーが七歳でここに従者としてやって来た。同年代の女の子と触れ合う機会がなかった私にとって初めて話した子だったと思う。
ソフィーは本当に、本当に可愛らしい子だった。吸い込まれてしまいそうな瑠璃色の大きな瞳に長い睫毛、透き通った白い肌にブロンドの美しいストレートヘア。まるで天使の彫刻や絵画のような美しさはこんなところで没落貴族の従者をやっているだなんてもったいないと思うほどだったけれど、本人はいつも謙遜していた。
性格もとても素直で良い子で、従者としての仕事ぶりは今でも正直優れているとは言い難いのだが、何事も諦めずに頑張り、苦手なことも練習して克服しようとする真面目な姿はそんなことはどうでもよくなるほどだった。真夜中に裁縫の練習をする彼女の姿を忘れることはないだろう。
幼い頃から唯一の話し相手であったから私と彼女の関係性はただの従者以上のものだったと思っている。私は父上や母上に話せない悩みなども彼女には気兼ねなく話すことが出来たし、彼女も時に分からないことや悩んでいることを私に対して聞いてくることもあった。花の話は特に好きなようでよく庭園を整えながら様々な花言葉や知識を教えてくれた。
彼女の美しさは名を上げようと必死な画家や彫刻家にモデルにさせてほしいと頼まれていたほどであったが、その度に私は追い返した。父上はそれくらい良いだろうといつも口にしていたが私はどうしてだかそれを許すことは出来なかった。誰かに彼女の美しさが知れてしまえば誰かが彼女を奪ってしまうかも知れない、私以外の別の誰かを魅了してほしくなんか無い、私だけの彼女であって欲しかったから。
十四歳の頃だっただろうか、ソフィーが私の部屋に訪ねてきた。父上は不在だったか、取り込み中だったのだろう。どうしたのかと聞けばとてもとても申し訳無さそうにしながら、「大変申し上げにくいのですが、支給された制服が小さくなってきてしまったのです。少しばかり、胸のあたりが苦しくて。」と。
なんだそんなことかと私は「父上に新しい制服をご用意していただくよう私から伝えておくわ。あまり動きにくいようだったら私の私服を貸すけれど大丈夫かしら?」と返せば滅相もないと断られてしまった。どうしてだか、少し悲しい気持ちになった。別に私の服が着たくなかったと分かっていてもなんだか感情に来るものがある。
ソフィーは昔から小柄で来た時は私と同い年であったのにとても身長が離れていた。けれど今では私の背を越してしまうのは時間の問題だろう。私の成長が早く止まってしまったということもあるが。
彼女の体も大人に近づいている。まるで天使のように可愛らしかった彼女はいずれ背も胸も立派に育ち、聖母のような美しい女性へと変わっていくのだろう。そうやって、変わっていくのだ。変わっていく…美しい女性…女性へと…
どうしてだろう、嫌だ。
では今の彼女はいずれ失われてしまうのか?天使のように可愛らしい彼女は消えてしまうのか?今ある美しさは花が散るように消え果て、"女性"としての美しさへと書き換えられていってしまうのか?
嫌だ、嫌だ。彼女は私よりも小柄で、でも頑張りやで、素直で、純粋ないい子なのだ。可愛い可愛い"女の子"なのだ。女性に変わってしまえばそれはもう異なるものになる、いずれ恋をして、誰かと繋がり、子供を授かる、そんなの考えたくもない!信じたくない!今の時が永遠に止まってしまえばいいのに、彼女は永遠に私の、私だけのソフィー。私の可愛いソフィー。ソフィーは今のままで居てほしいのに。どうしてだろう。どうしてなのだろう。
「お嬢様、お出かけですか?」
いつも家の中で勉強と鍛錬を続けてばかりの私が珍しく外へ出向くものだからソフィーは少し驚きながら私に話しかけた。良ければ付き添おうとでも言おうとしたのだろうけれど、今日行く場所は彼女には少し危ないかもしなかったし、彼女をあまり他の誰かに見て欲しくなかった。
「付き添いなら大丈夫よ。ソフィーはまだお掃除や父上の書類の整理が残っているでしょう?そっちを優先しなさい。」
鍛錬を続けていて、どうしても家には無かった素材があり外へ出向く必要があった。父上に頼もうとも思ったがこのご時世、魔術や錬金術の素材なんて出回っているのが闇市のような場所ばかりで仮にも貴族がそんなところと公に取引するのは良くないと言われてしまった。本当は自分で行くのも知られてしまえば怒られるのだろうが、知ったことじゃない。錬金術士としての矜持を捨てた家督にどうのこうの言われてたくなんてない。
そんな危ない場所だからソフィーは連れて行かなかった。私一人でも危ないと言われればそうかも知れないがこれでも魔術と錬金術を扱っているからそこらの悪党くらいなら返り討ちにしてやれる。
「貴方がマグヌスね。」
「嬢ちゃんがこんなとこになんの用だい?」
ああ、馬鹿にされているなと一言でわかる。どうせ遊び半分でここに来たと思いこんでいるのだろう。あるいはエセ魔術と笑いに来たか。
「人の血液サンプル三種類、それから水銀。」
「ああ、"そっち"の人かな?歳から考えて…『アルケミリア』のお嬢様かな?」
「あまり深堀りはしないで頂戴。金ならあるわ、あるんでしょう?」
「勿論。こりゃ太い客たまたま捕まえちゃったよ。」
これからもそう滅多にこんなところには来ないでしょう。好きで来るなら変人か金に困った犯罪者くらいでしょうに。あまり通って一族の悪い噂が立つのも良くない。嫌々来てるだけ。
「…『アルケミリア』は"永遠"を追求する魔術師の一族だって?」
「だからどうしたと言うの?」
「いやあねえ、丁度いいものがあってね。君らにはぴったりなシロモノだと思うのよ。」
「…。」
言い口からして怪しかったけれど、好奇心も少しある。ハッタリならそれはそれで諦めるし、なにか罠に嵌めようっていうならこんな奴くらいどうにも出来る技量がある自信が私には十分にある。これでも獣を捕らえるくらいは造作じゃない腕はある。
「いいわ、つまらないものだったら帰るわよ。」
「さあさあ奥に…」
「…何よこれ。」
自慢気に箱を開けて見せてきたのは干からびた腕?のようなものだった。少々気味が悪いし、匂いも強い。人のものだろうか?
「帰るわ。」
「まあそう早まるなよ、コイツは人の腕じゃあない。真祖の腕さ。」
「真祖?」
「そうだね…お嬢さん、『旧支配者』の学説は知っているかな?」
旧支配者、この星はかつて人が統治する前にさらなる上位の存在が有り、それらの家畜として人類を意図的に増やした結果、何らかの要因で旧支配者が滅んだ。という学説だ。昔本で読んだことがある学説だけれどあまりに内容が胡散臭くて信じていなかった。書いてあった魔術や錬金術も嘘や適当な記述ばかりだったしお粗末な本だった。創作神話としてはよく出来ていたと評価しよう。
彼はこの腕のようなものがその『旧支配者』である真祖の腕であると語るのだ。彼はその学説を信じ、またその存在が伝説上の真祖であるとしている。突拍子もない学説だ。
「どうしてその真祖の腕と断定出来ますの?そこいらの物乞いの死体から腕を切って干からびさせればこんなもの簡単に作れるでしょうに。」
「…お嬢さん、『解体新書』は読んだことあるかい?」
「少々。」
「この腕を見て何か違和感を感じることは?」
解剖学は専門じゃない。加えてドイツ語の原本しか無かったから読み込むのも大変でざっくりとしか読まなかった。けれど本の内容を薄っすら思い出して、よく見るとこの腕の違和感に気づいた。
「人の腕の筋肉の付き方にしてはおかしくないかい?」
「…どうしてこれ、足に手が付いてますの?」
縫った後は無い。貼り付けた後も…無い。種も仕掛けもなくこんなキメラ腕が作れるのならば相当な技術だと感心したいところであるが。
「それだけじゃない、血管の巡らせ方も明らかに異形。」
「それが真祖と何の関係がありまして?」
「細胞説をご存知かな?」
「ええ、聞いたことはありますわ。なんでも、生物は細胞から構成されているという学説でしたわね。」
「伝説上の真祖はどんな姿にも変異し、また永遠に若さを保つことが出来た。それがもしも『全身の細胞がどんな細胞としても機能させることが出来る』ということならば納得がいかないかい?」
「臓器も肌も、何もかもが取り替え放題…、その細胞を生み出すのに血液を要したということですの?」
「分かってるじゃないの。どうよ、これ。安くするよ。」
生物系に関しては専門外の一族だ。確かに生命の永遠という点では追求していることに親しいかもしれないが、微妙にやり口がことなるような気は否めない。
もし仮にこの腕を調べ尽くすことが出来れば、人間を真祖と同等の存在へと昇華させ、永遠の若さと命を手に入れることが不可能ではないだろう。最もそれまでにどれだけの年月を要するかは分からないが。
いや、永遠の若さと永遠の命。それはつまり永遠の美しさを保つことに等しいのではないか。女性に至る前の女子をそのままにさせることだって可能にしてしまうだろう。もし上手く行けばソフィーは私の可愛いソフィーのままに私と永遠を過ごすことが出来るのかもしれない。私と一緒に何十年も何百年も、何千年も何万年も!あの可愛いソフィーのままに愛し続けることが出来る。
答えは当然だ。
それからはあの腕、解剖学の本、吸血鬼や真祖の伝記と睨み合いながら地下へと籠もる生活が続いた。
調べていけば、やはりあの商人の言うことは正しかった。その上、この細胞は今でも生きた状態にあることに気づいた。人の体は勿論のこと動物などの細胞にもなることが出来るこの細胞を私は『V細胞』と呼称することにした。そして、細胞を増殖させるには人間の血液を補填する方法からでしか出来ないこと、太陽光を浴びることで細胞が死滅することにも気づいた。あまりにも伝説と合致しすぎていて少し恐ろしかったけれど、自分が思っていたよりも遥かに研究が進むことがとても嬉しかった。もうすぐソフィーとの永遠が手に入る。ソフィーもきっと不老不死の肉体で私と一緒に過ごすことが出来るのならば嬉しくて嬉しくて仕方がないのだろう。
ずっと籠もって研究するソフィーは心配して「お嬢様、たまには日の下へと出られた方がよろしいのではないでしょうか。」と言ってきたがその度に「大丈夫よ。もうすぐ全て終わるわ。」と伝えた。父上は地下で研究に没頭する私に部屋の外から怒鳴り散らしていたが錬金術でもなんでもなくなった父上にどう言われようと何とも思わない。ソフィーはそんな私にも毎日地下に食事を届けてくれるのだから本当にいい子なのだ。
研究を続けるうちに一つの壁にぶつかった。V細胞は人間にも馴染ませることが出来ることが物乞いで試して分かったけれど、上手くいくかどうかは完全に運だった。人間にV細胞を浸食させた場合成功すればその肉体を構成する細胞を全てV細胞へと書き換え、真祖、或いは吸血鬼?へと変異することが出来るのだが体が馴染まなかった場合拒絶反応を起こして死亡することも実験を重ねて分かった。伝記の記述にも真祖が眷属を増やす際、首を噛むことで増やすとあるが恐らくその時に首から細胞を注入し、変異させてたのだろうが人によっては失敗して死亡するということが書かれていた。
この細胞を私、そしてソフィーに打ち込んで運が良ければ真祖になれるというのは簡単だが失敗するリスクが大きすぎた。
…細胞側が適合する条件を無理やり変質させることが出来れば上手くいくのだろうか。
「出来た…出来たわ!これで完璧…!」
三年もかかってしまった。ソフィーの背はすっかり私を越してしまったけれどもこれさえ上手く行けばいくらでも昔の姿に戻すことは出来る。あの時のまま、永遠を二人で過ごすことが出来る。
何度も研究をした果てにV細胞そのものを変質させ、不明だった適合する条件を無理やり『女性かつ、処女であれば100%適合する』というように変えることへと成功した。これならば私もソフィーも適合させることが出来る。奇跡の連続だった。普通の研究者ならば数百年もかかるような素晴らしい真理にたどり着いてしまったのだ。私が天才であった以前に、私は天運に恵まれていた。
「エリザベス!!!お前、貧民街で人を殺しまくってるというのは本当かッ!!!」
地下室のドアを勢いよく父上が開けた。隣には母上もいて、そんなことは信じられないと言わんばかりの目でこちらを見ている。
「父上、私は永遠にたどり着いたのです。錬金術、魔術の果て、私が夢見る世界へと歩みをこれで進められるのですわ!!!!!永遠の若さ!永遠の命!何も悲しむことのない永遠の世界がそこに…!」
「お前が実験と言って貧民街の人を何人も殺したと聞いている!夢から覚めろ!魔術や錬金術が真理を生み出す時代は終わった!これからは前を向いて、現実を直視するべきなんだエリザベス!過去の廃れた技術なんぞにいつまでもすがりつく事なく…」
「…どうして分かりませんの。」
父上、私はずっと貴方のこと。大嫌いでした。
貴方は美しくない。心も姿も、全てが醜い。錬金術を捨ててただの貴族に成り下がったバカ男。ソフィーの美しさに内面も外面もいつだって負けていた。ソフィーの輝きに何一つ感化できていない。ソフィーの素晴らしいを何一つ理解できていない。私の考えは崇高で美しいのに!
「永遠の世界を!私が!」
右手には細胞の入った注射器。父上がドアから駆けて止めるその数秒前に針は私の首へと深く刺さった。
「…あらソフィー。私の部屋にいたのね。いつぞやからずっと使っていないのに今でも整理してくれているだなんて、本当にいい子だわ。」
ああ、彼女は美しい。けれども、十七歳の彼女は確実に"女性"へと歩みを深めている。
それをもう憂いることはない。これから始まる幼い日々の永遠はもう目の前にある。三年間、私が地下に籠もってばかりだったせいでソフィーとあまり話せなかったのはとても辛くて、悲しいことだったけれども、これからは三年どころか何万年も彼女のそばで他愛の無い話をすることが出来ると思えばそんなことは小さな悲しみでしかない。
「お嬢様…!お嬢様!?どうされたのですかその真っ白な髪…!地下でとても大きな音がしましたが…、しかも血だらけに!急いで手当を致します!お嬢様はここで…」
「ソフィーは…本当に優しいのね。」
慌てふためく彼女を優しく抱きしめた。
「…お嬢様、なんだか体が冷たいような…」
三年間の懺悔と、これから始まる永遠に口づけを。
彼女の首筋を強く噛んだ。
「…!?お嬢様…!?」
「フフフフ…アハハハハハハ!!!貴方も永遠になるの!私とソフィーだけの永遠の日々!父上も、母上も何一つ理解してくれなかったけれどそんなのはこれからはどうだっていいんだわ!この国から出ても良いかもしれないわ!二人でどこか落ち着く場所でずっと…ずうっと…いつまでも仲良く暮らし続けるの!いつまでも少女のまま永遠に!」
「!?」
意識を失ったソフィーの髪はやがて白く染まり、元より白かった肌はまるでお人形のように生気を感じさせないほどの白さになった。細胞の調製は上手く行っていた。何も言わないでやってしまったけれど彼女ならば分かってくれる。これから始まる楽しいひと時を過ごしてくれる。
「目が冷めたのね!」
「…お嬢様?」
ソフィーは何が起きているのは全く理解できていなかったようだ。突然真っ白になった髪にまるで体温を失ってしまったかのように冷たい自分の体。鏡を覗くとそこには自分も、エリザベスの姿もない。そんな状況に混乱して固まっていた。
「私達、不老不死になったのよ!吸血鬼になったの!これからは老いも死も一切恐れることなんて無い!私達は一緒にずっと生きることが出来るの!」
出会った頃の姿、七歳の姿で私はソフィーに語りかける。またあの時のように、ぎごちなくて従者としてはダメだったけれども天使のように可愛らしくて仲良く遊びもしたあの頃に戻れる。
「ねえ!ソフィーも幼い頃の姿に戻りましょ!今よりももっと可愛かった頃に!みんなから天使だ天使だと持て囃されて、可愛がられていたあの頃に戻りましょ!きっと貴方も楽しくなれるわ!」
「…」
「ねえまずは何をして遊びましょう?そうだ!私達の体は人の血が要るのよ!ひとまず地下に二体ほどの食料があるの!まずは食事と行きましょう!」
「…」
「ソフィー?」
目が覚めたソフィーはなにを話しかけても反応をしない。おかしい、彼女の適合は上手く言っている。もし失敗しているなら即座に灰になってしまっているはずだ。聞こえているはずなのに彼女はずっと震えながら目を大きく開いてずっと同じ場所だけを見つめている。
「ねえ?ソフィー…どうしましたの…」
そっと手で彼女の肩を触れようとした時だった。
「ア゛ーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!」
私の体を強く弾き飛ばし、全速力で私の部屋を飛び出した。
「待って、待ってソフィー!」
発狂が響き渡る廊下、私も必死に彼女を追いかけた。彼女が向かう方向は…庭園?
不味い!今は日中!無防備に外に出ればソフィーの細胞は全て灰になって死んでしまう!
「ソフィー!ソフィー!!!」
「追いついた…!ソフィー!」
そこにはもうソフィーの姿は無い。
陽が強く差し込む明るい庭園。そこに並ぶのは彼女がにこやかに毎日整えていた草木や花の数々、私が傍らで紅茶を飲みながら、花に水を上げてその花のうんちくを楽しげに話す彼女を見ているのが好きだった。彼女の希望で様々な花を庭園に植えたが、特に白百合の花は大事に育てていた。それはこの種は最初に彼女が植えた種であり、私と一緒に決めた花だったからだ。
「百合の花言葉は『無垢』。白百合ですと『純潔』です。とてもきれいな見た目に相応しい花言葉ですよね!」
「ソフィーにぴったりな言葉じゃない!きれいなソフィーにぴったり!」
美しい白百合が咲いている。散ることも知らずに美しく咲き誇る。
その下には彼女の制服と、こんもりと積もった灰だけが落ちていた。
「『白百合の魔女』、異端評定甲級。おおよそ二百年前から活動し、世界中の少女を誘拐。吸血種かV細胞適合者のではないかと…ねえ…」
世界の異端を取り締まり、管理し、保護、隔離、状況による殲滅をする機関。『異端審問会』の会議では頻繁に話題が出るのが彼女だ。
「そりゃ突然現れては場をめちゃくちゃにする上に原理不明、意味不明、正体不明な『永久の魔女』異端評定特級一種に比べりゃあマシだが実害がエゲツないんですわ。」
「なあ万次郎さんよお、なーんで女の子ばっか攫うんですかねえ~?」
彼女はいつまでも、あの時の事に囚われながらも、一瞬の美しさをかき集め、永遠にしている。
あの時の拒絶をいつまでも信じ切ることが出来ぬまま。
「…小さい子が好きなんだろうさ。」
白百合の魔女、彼女がそう呼ばれるようになってからの事はまた別の物語である。
本当は長編に使おうとしてたネタなんですけど、この話だけ短編で出せそうだと思ったので書く気力が起きてるうちに書きました。色々設定とかありますけど書く予定は未定です。