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世界の終わりのための序奏  作者: 彩宮菜夏
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3. 可能性を見失った少年の独白

 ポンコツバスの曇った窓から、灰色に曇った空と灰色に塗りつぶされた街並みを見る。

 懸命に鮮やかそうに見せかけた店や看板が立ち並んでいた。

 でも、今のぼくには世界の全てが灰色だった。


 ほんの少し前まではそうじゃなかった。世界は夢と可能性に満ちていた。

 明日にでも貿易船に無断で飛び乗り、自由の女神に見送られてどこへとも知れない国へ旅立つことも出来た。

 天才水泳選手としてオリンピック強化チームに史上最年少で入ることも不可能ではなかった。

 間違ってクラスの女の子とエッチして妊娠させちゃったりすることも、ないことはなかったかも知れない。

 

 そして人生は無限大に変化する。そんなこと起きたって嬉しくも何ともないだろう、と思われるかも知れないが、実現するかどうかが問題ではないのだ。

 大切なのは、可能性が残されている、ということ。

 今もしそんなことをしようとすれば、たちまちとっつかまえられて今以上に不自由などこかへ押し込められた挙げ句、そこで一生を終えることになるだろう。

 まあ、現状だってそう違いはないんだけれど。


 とにかく、ぼくにありえた無数の可能性は、善意ある教授たちによってきれいに閉ざされた。

 ピンク色の妄想のヴァリエーションを中学生から奪った罪は重い。


 雲は億劫そうに海の方角へと流れていく。その向こうに何があるか、ぼくは知らない。

 この世界に何があるのか、ぼくは何も知らない。

 メキシコ系移民の子どもなのにメキシコにも行ったことがないのだ。

 かといって、全力で自由の国アメリカにコミットできるほど素直な性質でもない。

 ぼくらは自由だ!って年中言ってる連中が自由なわけないじゃないか。


 それにぼくは、少なくとも今、不自由だ。それが重要だった。

 子どもだから仕方ない、なんて理由はいらない。今、自由じゃなきゃ意味がない。

 ビルの高層階でオジサンに囲まれて君は天才だ、なんて言われても、全然嬉しくない。

 幼稚なわがままだってことは充分分かってる。

 でも今のぼくに必要なのは、こんな周囲の誰にも望まれていないのにやたらくるくるとよく廻る脳ミソなんかその辺に捨てて、どこへともなく旅立つことだった。


 二百年後の四月一日が何曜日なのか瞬時に分かる計算力も、少数の文例から外国語の文法構造を導き出す能力も、過去に読んだ本のページを一言一句残らず暗記している記憶力も、いらない。

 そんなものを褒める人がいない、どこか知らない遠い場所へ行きたかった。

 そんな場所、あるのかどうか知らないけど。


 いつもこんな時思い浮かべるのは、物語の主人公たちだった。

 彼らはいつも、鳥よりも自由だった。

 ぼくみたいなしみったれた才能なんかなくても、誰からも褒められなくても、彼らはどこへだって行くことが出来た。自分のやりたいことを、望むやり方で出来た。

 といっても、かわいそうな子に見せかけて血筋と才能に恵まれたハリー・ポッターなんか大嫌いだった。


 ぼくが一番好きなのは、そう、ちょうど四年前、友だちの家で開かれたバースディ・パーティでみんなと一緒に見た、ハヤオ・ミヤザキの『キャッスル・イン・ザ・スカイ』だった。

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