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握った右手に強い衝撃が走るとともに風圧を顔に受けた。ぐるんと空が回転してどこかへ背中を打った。同じ衝撃がまた来ると思ってなんとか安全を確保しようとした。両手を使って砂の上を這って進み、どこかに引っかかった足を取り戻した。それからようやく体を起こした。
男も同じようにして体を起こしていた。男は口をぽけっと開けたまま、青年の手のあたりを指差していた。青年はそれを見た。銃身の上半分のパーツが吹き飛び、グリップに板がくっついただけの、水を注ぐ容器のようなものだけがそこにあった。青年は男を見た。男は説明しようとしていたが、うまくいかないみたいだった。
「改造したのか」と青年は聞いた。
男はうなずいて答えた。
それなら最初にそう言えよ、と言おうとしてやめた。それは誤りだった。男は最初にそう説明していたのだ。ただ単に、彼が信じなかっただけだ。
「装填したのはBB弾か?」
そうてん、という言葉の意味がわからなくて、男は答えに窮した。
店長の喚き声が聞こえた。彼は電話を耳に当てた。
「何があったって聞いてるんだよ」と店長は聞いていた。
「なんでもありませんよ」と彼は答えた。
「今どこにいるんだよ?そいつはどこへ行った」
「東公園のあたりです」そして電話を切った。
青年はしばらくそのまま床に座り込んで、考えていた。これなら強盗が成功していた方が良かったんじゃないか、と思った。あの店長から店ごと奪えたらどんなにいいだろうなと思った。本社から辞令が来るような、だがそんなことは不可能だった。
青年は男に話しかけた。「友達はいるか?あんたを逃がしてくれるような、便利な友達だ」
男は首を横に振った。
パスポートは、逃亡資金は、車は、それもないらしかった。無計画もいいとこだった。だがそれならどうする、と青年は考えた。
「おもちゃとはいえ、ガスガンを改造すると銃刀法違反だ。知ってたか?」
男は宙の一点を見ていたが、やがてうなずいた。
青年はマガジンを引っ張り出して、それが空であることを確認すると、銃を放り投げて男にパスした。男はきょとんとして青年の方を見た。
「引き金を引いたのはあんただ」と青年は言った。「強盗未遂と強盗罪、さらに銃刀法違反」青年は携帯電話を地面に置き、自らそれを踏みつけて画面を割った。そしてそれも男の方へ投げてよこした。「ついでに器物損壊罪も加わった。残念だったな。何一つ得られなかったのに、これで死ぬまでムショの中だ」
男は何か訴えようとしていたが、それを言葉にする術を持たなかった。
「全てはオレ次第だ。わかったか?どうとでもあんたを料理できるんだぜ」と青年は言った。それから口をあんぐりと開けた男のそばにしゃがみ込み、その肩を軽く叩いた。「だが今日のオレは機嫌がいい。だからあんたを助けてやる。決しては損はさせないから、ついてこい」
だが男はついてこなかった。そのままそこに正座していた。嫌か、と青年は聞いた。それとも俺が嫌いなのか。男はニタニタ笑ってうなずいた。なにしろプライドというものがあるのだ。こんなガキに命令されたくはない。
青年はパーツを拾い集めて男に放った。「いくらでもあんたを料理できる、そう言ったろ?なあ、よく考えてみろ。オレの言葉とあんたの言葉、警察はどっちを信用するか。いくらでも話をでっち上げて、あんたを一生ムショの中に入れておけるんだぜ」青年は立ち上がって、歩き出した。「一年半であんたを娑婆に出してやる。四の五の言ってないで、黙ってついてこい」
男はしばらくそうしていたものの、やがて立ち上がった。