表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遊泳  作者: まつうらさん
4/5

4

 握った右手に強い衝撃が走るとともに風圧を顔に受けた。ぐるんと空が回転してどこかへ背中を打った。同じ衝撃がまた来ると思ってなんとか安全を確保しようとした。両手を使って砂の上を這って進み、どこかに引っかかった足を取り戻した。それからようやく体を起こした。

 男も同じようにして体を起こしていた。男は口をぽけっと開けたまま、青年の手のあたりを指差していた。青年はそれを見た。銃身の上半分のパーツが吹き飛び、グリップに板がくっついただけの、水を注ぐ容器のようなものだけがそこにあった。青年は男を見た。男は説明しようとしていたが、うまくいかないみたいだった。

「改造したのか」と青年は聞いた。

 男はうなずいて答えた。

 それなら最初にそう言えよ、と言おうとしてやめた。それは誤りだった。男は最初にそう説明していたのだ。ただ単に、彼が信じなかっただけだ。

「装填したのはBB弾か?」

 そうてん、という言葉の意味がわからなくて、男は答えに窮した。

 店長の喚き声が聞こえた。彼は電話を耳に当てた。

「何があったって聞いてるんだよ」と店長は聞いていた。 

「なんでもありませんよ」と彼は答えた。

「今どこにいるんだよ?そいつはどこへ行った」

「東公園のあたりです」そして電話を切った。

 青年はしばらくそのまま床に座り込んで、考えていた。これなら強盗が成功していた方が良かったんじゃないか、と思った。あの店長から店ごと奪えたらどんなにいいだろうなと思った。本社から辞令が来るような、だがそんなことは不可能だった。

 青年は男に話しかけた。「友達はいるか?あんたを逃がしてくれるような、便利な友達だ」

 男は首を横に振った。

 パスポートは、逃亡資金は、車は、それもないらしかった。無計画もいいとこだった。だがそれならどうする、と青年は考えた。

「おもちゃとはいえ、ガスガンを改造すると銃刀法違反だ。知ってたか?」

 男は宙の一点を見ていたが、やがてうなずいた。

 青年はマガジンを引っ張り出して、それが空であることを確認すると、銃を放り投げて男にパスした。男はきょとんとして青年の方を見た。

「引き金を引いたのはあんただ」と青年は言った。「強盗未遂と強盗罪、さらに銃刀法違反」青年は携帯電話を地面に置き、自らそれを踏みつけて画面を割った。そしてそれも男の方へ投げてよこした。「ついでに器物損壊罪も加わった。残念だったな。何一つ得られなかったのに、これで死ぬまでムショの中だ」

 男は何か訴えようとしていたが、それを言葉にする術を持たなかった。

「全てはオレ次第だ。わかったか?どうとでもあんたを料理できるんだぜ」と青年は言った。それから口をあんぐりと開けた男のそばにしゃがみ込み、その肩を軽く叩いた。「だが今日のオレは機嫌がいい。だからあんたを助けてやる。決しては損はさせないから、ついてこい」

 だが男はついてこなかった。そのままそこに正座していた。嫌か、と青年は聞いた。それとも俺が嫌いなのか。男はニタニタ笑ってうなずいた。なにしろプライドというものがあるのだ。こんなガキに命令されたくはない。

 青年はパーツを拾い集めて男に放った。「いくらでもあんたを料理できる、そう言ったろ?なあ、よく考えてみろ。オレの言葉とあんたの言葉、警察はどっちを信用するか。いくらでも話をでっち上げて、あんたを一生ムショの中に入れておけるんだぜ」青年は立ち上がって、歩き出した。「一年半であんたを娑婆に出してやる。四の五の言ってないで、黙ってついてこい」

 男はしばらくそうしていたものの、やがて立ち上がった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ