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真・失恋王  作者: ランプライト
第一章 「失恋王 vs キューティトラップ」
9/24

009

カツカツと黒板の上を走らせるチョークの音が心地良く眠りを誘う午前最後の授業、数学の小テストの後1問ずつ指名された生徒が前に出て解答、それを添削解説すると言うのが野田の授業スタイルだった、


相田美咲が一番最後の難問を模範解答する、


シャンと背筋を伸ばして立った後ろ姿でさえ見目麗しい、肩よりも長いストレートの黒髪はさらさらの艶艶で、制服の上からでも分かる腰の細さと膝丈スカートの下から覗くスラリとした脹脛のカーブが可憐すぎて恐らく男子生徒の八割以上は釘付けにされているに違いなかった、


昨日あんな事があったばかりだと言うのに、鉄壁の優等生強化外骨格には微塵のヒビも入っていない様である、


「流石ですね、相田さんなら今でも大学受験受かるんじゃない?」

「先生、幾ら何でもそれは無理です、」


小テストの一番最後に普通なら解けるはずのない難関大学の入試問題を打ち込んでくると言うのが野田のスタイルだった、て言うか野田の野郎女子生徒相手に絶対エロい妄想してるな、目をみれば一発で分かる、


確かに改めて見てみれば、完璧お嬢様相田美咲はいつ何時何処にいても好奇の目に晒されていると言うのはどうやら間違いないらしい、クラス中の男子は確信を持って複数回は相田美咲をオカズにしている筈だったし、教師や用務員にも礼儀正しく接する相田美咲を見る大人達の目は、明らかに娘や孫を見る目とは違って血走って見える、


かく言う俺は、どうなのだろうか?


事ある毎何かにつけて託けて学級委員特権で直ぐに二人きりになろうとする上野や、あからさまに何様のつもりなのか頼まれた訳でもないのに点数稼ぎな味方アピールする溝端ほどギラギラしていないにしても、隣の席にいて気が付くとつい目で追ってしまっている俺の視線は、相田美咲には一体どんな風に映っているのだろうか、


と、模範解答から席に戻って椅子に腰掛けながら、俺にニッコリと笑い掛ける相田美咲、




ーーー

昼休みの鐘がなって、神崎グループの微ギャル達が相田を誘いに来る、


「相田さん、ご飯食べよ、」

「はい、あ、でも少しだけ待って下さい、」


相田は予め作っておいた席替えのクジ引きの箱を教室の後ろの小物容れから取ってきて教壇の上に置く、


「皆さん、すみません、少しだけ宜しいでしょうか? 先日のホームルームで決まった通り、今日の放課後に席替えを行いますので、お昼休みの間にくじを引いておいて下さい、宜しくお願いします、」


張りがあって高音まで伸びる美しいソプラノの発声にクラス中が聞き入って一瞬シンとなる、


立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花とはまさに相田美咲の為にある言葉である、と言っても過言では無かった、その一挙手一投足にクラス中が注目し迎合する、野次を飛ばしたり異議を唱える者など一人もいない、相田美咲がクラスカースト一軍である事は誰の目にも明らかだった、


だからそんな相田美咲が教室窓際後ろに陣取ったクラスカースト一軍の神崎達のグループと混じって弁当を食っていたとしても誰一人として異議を唱える者などいない、


神崎は何処かの会社の役員の息子で所謂御坊ちゃまらしいが、本人はしっかり者の優等生で明るくて人付き合いが良くてついでに成績も良い、その上サッカー部で唯一の一年生レギュラーで、何とかとか言う重要なポジションを任されているらしい、天は二物を与えずとは負け組が心の安定を望む為の呪文であって、現実には神崎俊哉は細マッチョなイケメンだった、まあ、俺に言わせてみればギリだけれども、


楽しそうに高尚な会話に興じつつ既成事実を積み上げて外堀を埋めて行く神崎を見て、学級委員長上野とやんちゃグループ溝端は明らかに不服そうだった、


と、何時の間にか相田美咲を視界の隅に捉えている俺に気付いて相田美咲が苦笑いする、


「お前達何かあったのか?」


いきなり有人が話しかけて来た、


「何も、ある訳ないだろ、」

「そうか? 前は休み時間ごとにお前んとこに来てたのに、連休明けてからコッチあんまり絡んでねえからさ、もしかして喧嘩でもしたのかと思って、」


あ、もしかして早美都の事か、


確かに早美都の様子がおかしいのには俺も気付いていた、あれ程チビで痩せの大食漢だった早美都が昼飯に手をつけないままぼーっと机に突っ伏している、


それでチラリと様子を伺う様にこっちを見たかと思うと、目があった途端に席を立つ、


俺は何だか嫌な胸騒ぎがして、早美都の後を追いかけた、




ーーー

「何処か具合でもわるいのか?」

「別に、」


なんだか反抗的な態度で、ちっとも早美都らしく無い、


「もしかして、誰かに虐められてるとかじゃないだろうな、」

「違うよ、大丈夫だから、」


「そうは見えないから心配してんだろ、」

「宗次朗が僕の何を知ってるって言うのさ、いいからほっといてよ、」


「なんだよ、その言い方、何が気に入らないんだよ、」


と、掴んだの腕は思いの外に華奢で細くて、振り解こうとした早美都の顔は、今にも泣き出しそうに真っ赤になっていた、


「馬鹿!」


なんで?


意味も分からないまま、早美都は俺の手を振り払って、廊下を走りだしてしまった、


「何かあったんですか?」

「分からん、」


相田が近づいて声を掛けてくる、一応気にしてくれているんだ、


「また余計な事をしたんじゃないですか?」

「身に覚えは無い、」


何だか激しくデジャヴ、もしかして俺は早美都になんか悪い事しちまったのか?


「お二人でよく話し合うのが良いと思います、」

「そうは言っても、向こうが話を聴いてくれないことにはな、」


「高野さんには私から声を掛けますから、今日の放課後部室に集合して下さい、」

「ん? まあ、分かった、」


どうやら俺と相田美咲の組み合わせは激しく違和感らしい、何事か事件発生かと人が集まって来る、


「相田さん、どうかしたの?」

「いえ、ちょっとした世間話です、」


「世間話とか、相田さんって結構面白い、」

「有難うございます、京本さんには先日ご迷惑をお掛けしてしまいましたので、そのお詫びを、」


「ああ、アレね、」


数日前、俺は相田美咲を泣かせた男として学校中から敵視されていたのだった、


「京本さん、それではまた、」

「おう、」


そう言うと相田美咲は女子達と一緒にトイレの方へ、


どうやら相田は写真部に入っている事を他の皆んなには内緒にしておきたいらしい、まあ、何かの拍子にあんな黒歴史を拡散されるのは何があっても避けたいと言う気持ちは理解できなくは無い、




ーーー

放課後、写真部の部室を訪れると、久し振りに博美先輩が来ていた、


「ちーす、先輩昨日一昨日って、何かあったんですか?」

「いやぁ、実は風邪をこじらせちゃってねぇ、39度の熱でやすんでたんだぁ、」


相変わらずのラルゴな口調が俺を一時ホッとさせてくれる、


「風邪? 合宿の後ですか?」

「うん、合宿で撮影した写真のRAWデータの現像やってたら止まんなくなっちゃてねぇ、結局丸2日徹夜になっちゃってぇ、気が付いたら倒れてたみたいなの、」


この人見かけによらず体育会系、そして小ちゃい身体が根性について行ってないタイプ、


「結構良い写真撮れてたよぉ、」


そして立ち上げた部室のパソコンに、SDカードを挿し込んで、開いてみせる画面いっぱいの色あざやかな星雲の写真、


「え、こんなの撮ってたんですか? いつの間に?」

「まあねぇ、天体写真は現場半分パソコン半分だからぁ、実際にこうして見てみる迄は分からないものなんだよぉ、」


「こんにちわ、」


そして相田美咲が部室を訪れる、


「あぁ、美咲ちゃん、おひさぁ、」

「お久しぶりです、菅原先輩、これ、お土産です、」


そして取り出す北海道産レーズンバターサンドクッキー、改めて律儀な奴、


「わあ、北海道行ったんだねぇ、美味しそう、みんなで食べよう、」

「宗次朗くんはダメです、」


「なんで?」

「昨日チョコレートクッキーを独り占めしちゃったでしょ、」


「へえ、もしかして二人は付き合う事にしたのぉ?」


と、いきなりの博美先輩のツッコミ、


「どうしてでしょうか?」


そしてキョトン顔の相田美咲、


「そりゃいきなり名前呼びすりゃ何かあったのかって思うだろ、なんでいきなり名前呼びなんだよ、」


「親愛の印です、菅原先輩も私達の事をファーストネームで呼んでくださいますし、部活の時だけの特別です、駄目ですか?」


そう言って物欲しそうな上目遣いでお願い顔されたら、


「別に、構わんが、」

「有難う御座います、ちょっと新鮮でとっても楽しい気分です、」


「良かったねぇ、宗ちゃん、」

「先輩、宗ちゃんはやめて下さい、」


そして興味津々にパソコンのディスプレイを覗き込む相田美咲、


「もしかして、この間の合宿の写真ですかぁ?」

「うん、そうだよぉ、他にもいっぱいあるよぉ、」


博美先輩はいくつかカテゴリ分けされたフォルダの一つを開いて、中から星の付いたアイコンをクリック、


画面に映し出されたのはまるで本で見た事がある様な天の川の写真、


「実際に撮ってた時よりも何だか凄くカラフルなんですが、」

「RAWで撮ったでしょ、現像する時にホワイトバランスを寒色系に調整したのぉ、」


「こっちはブレてますね、」

「中望遠でシャッタースピード20秒だとどうしても地球が動いちゃうから仕方ないよぉ、」


「わあ、これ、凄く綺麗ですね、」

「これは赤道儀と望遠で撮った星雲写真だねぇ、コンポジットでノイズを減らして画像調整で背景黒くして、白飛び減らして、カラー調整したんだよぉ、」


「コンポジットって?」

「ISOを出来るだけ小さくしてノイズを減らした写真を何枚も撮ってぇ、後からパソコンで合成する撮影方法だよぉ、」


「これ、凄く、」


八面玲瓏な相田美咲が、思わずプッと吹き出す、


そこに映し出されたのは、仮眠中の俺を盗み撮りした写真、何時の間にか顔に悪戯されてる、


「楽しそう、」


本当に、相田美咲が実はこんなに風に笑う普通の女の子なんだって知ったら、クラスの連中は一体何て思うだろうか、


「これ、辛そう、」

「ああ、早美都の作ったスープ、美味かったな、」


「いいなぁ、私も行きたかったな、」

「美咲ちゃんも今度は一緒に行けると良いねぇ、」


「そう言えば早美ちゃんはどうしたのぉ?」

「今日も来る時に誘ったんですけど、どうしても外せない用事があるからって、」


相田が誘っても駄目だとすると、いよいよ手の打ちようが無くなってきたな、


「合宿の後から早美都の様子が何か変なんですけど、先輩何か知りませんか?」

「さあ、特に心当たりないなぁ、」

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