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真・失恋王  作者: ランプライト
第一章 「失恋王 vs キューティトラップ」
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006

各駅停車の東海道線下り、

電車は連休後半の何処と無く遣る瀬無く倦怠感に包まれた静かな駅に一時停車、人気の疎らなホームの向こう側にはディーゼルエンジンの騒音を引きずりながら走って行く路線バスが見える、


「宗次朗、あったかいお茶飲む?」

「ん? 貰う、」


やがて出発の音楽が鳴ってアナウンスと共にドアが閉まり、電車は再びレールの上を走り出す、


と言う訳で今日がGWの撮影旅行、


早美都は大きな魔法瓶式の水筒から焙じ茶をコップに注いで、


「熱いから気をつけて、」

「ん、」


今頃相田は彼氏とお泊りデートに向かった頃だろう、一応博美先輩には「急な体調不良でお休み」と言う連絡が入っていた、


そのアリバイ作りが発端だったとは言え、こうして先輩や友達や綺麗な先生と泊りがけの旅行が出来るのは楽しくないかと聞かれたらそんなの楽しいに決まっている、有人が聞いたら発狂して羨ましがるレベル、


実際の所写真撮影なんて初めてで珍紛漢紛なのだが、ウチの部は基本デジカメ前提で銀塩とか暗室とか難しい現像の事はパソコン任せの適当さ加減なのでまあ、何とかやっていけそうな気がする、


博美先輩はと言うと今から気合入りまくりで、東海道線の車内だと言うのにジュラルミンケースごと持ってきた撮影機材一式を広げて楽しそうに点検している、早美都はと言うと何故だか気合の入ったお弁当を楽しそうに抱きしめていた、


「前から気になってたんだけど、それってもしかして手作りなのか? お前、料理とかスンの?」


「うん、好きなんだ、お弁当作るの、良かったら今度宗次朗のお弁当も作って来てあげようか?」


何だか照れ臭そうに笑う早美都が一瞬女の子の様に思えてしまうのは、もしかして俺の頭の中で何だか取り返しのつかないイケナイコトでも始まっていたりするのだろうか?




ーーー

俺達は今朝の9時にJR平塚駅に集合、東海道線と伊豆急を乗り継いで昼前には伊豆急下田駅に到着、そこでアカリ先生と合流する、赤道儀と三脚を運んで来てもらったのだけれどその車は凡そアカリ先生には似付かわしくないイカツイ白のワンボックスバン・ハイルーフワイドボディ、


「凄い車ですね、」

「レンタカー借りて来たの、シート倒せば中で色んな事出来るから便利でしょ、」


あくまでも仮眠用である事は重々承知している、


俺達はそこから車でスーパーまで行って諸々買い出し、それから暫く走って太平洋を一望できる公園へ、駐車場に車を停めて、早速クーラーボックスからカップ酒を取り出して蓋を開けてるアカリ先生、


「イキナリっすか?」

「宗次朗も飲む?」


俺達は博美先輩の講義でカメラと赤道儀の使い方を教えてもらい、カメラの基本操作と三脚と赤道儀設置とコントローラとパソコンを接続して操作の練習、


ふと見ると、辺りには超高価そうな撮影機材を抱えたグループがチラホラ、


「俺達の他にも天体撮影しにて来る人いるんですね、」

「此処、結構メジャーな撮影スポットだからねぇ、暗くなるともっと増えると思うよぉ、」


「あ、あの人が持ってる機械、こないだテレビで見たよ、現在地と日時を設定したら自動的に見たい星を探し出してくれるんだって、」


「おお、自動導入装置付きだねぇ、」


そろそろ相田は彼氏と会えた頃だろうか? それともまさか明るい内からホテルの部屋に篭ってしっぽりと、……とか考えたら無性に腹が立ってきた、


「先輩、飯食いましょう、」




ーーー

アカリ先生はと言うと、何時の間に何処で着替えたのか白のノースリーブシャツにカーキにボタニカル柄のロングスカートというリゾートな出で立ち、そんな格好でソロキャン用の焚き火コンロを引っ張り出してきてバンのリアドアの陰でスルメを焼き始めてる、芳ばしい匂いに釣られたのか他の撮影グループの大人達も寄ってきて、何時の間にか缶ビールで宴会?が始まっていたりして、


「あの人本当に自由だな、」


聞こえてくる話の内容から察するにどうやらどっかの大学の研究室とか、どっかの町の偉い人達らしくて比較的普段は堅苦しそうで真面目な大人の人達の様に見えるのだけど、


「わぁお、あのおじさん本気で先生口説いてるよぉ、」

「まるでお預けを食らった犬っころみたいにあしらわれてるな、」


男は哀れ何歳になっても恋愛欲、もとい性欲の呪縛からは逃れられないものだと言う事か、


それで早美都はと言うと、カセットコンロの上で、さっきスーパーで買ってきた春キャベツを使った真っ赤なピリ辛っぽいスープを作ってる、


「高野くんはきっと良いお嫁さんになれるねぇ、」

「え? そんな事ないですよ、」


何でそこで満更でもなさそうに照れる?


チョット早めの夕食は新ジャガのジャケットポテトに春きゃべつのチリソース煮、実際滅茶苦茶美味かった、




ーーー

夕食後は暫し休憩、スーパーで買ってきた花火でシャッター速度の設定についての演習と言うかガッツリ遊んで、その後、辺りが完全に暗くなるまで順番交代に車内で仮眠を取る事に、


「先生は寝ないんですか?」

「撮影が始まったら休ませて貰うわ、」


シートの上で胡座をかいて自己啓発本を読みながら機材の見張り番をしている俺の隣に来て腰を下ろすアカリ先生、その手にはウィスキーの入ったグラス、本当に良く飲むなこの人、そして酔っ払って一寸トロンと緩くなったアカリ先生の表情が堪らなくエロいと言う事は絶対に誰にも言わない俺だけの秘密にしておこう、


「相田さん、残念だったわね、」

「さあ、どうですかね、今頃は宜しくやってるんじゃ無いですかね、」


時計の針は21時を回って、今頃はきっと彼氏と二人きりで、……


「宗次朗の方よ、相田さんの事、気になってるんでしょ、」

「別に、俺は、恋愛とか興味ないんで、」


恋愛云々は兎も角、相田の事が気にならないかと聞かれたらめっちゃ気になるが、


「先生は付き合ってる人とか居るんですか?」


その白魚の様な指に指輪は嵌めていない様だけれど、こんな綺麗な人が彼氏いないとか言うのも何だか信じ難い、


「今は居ない、宗次朗が付き合ってくれる?」

「冗談でも怒りますよ、」


アカリ先生近い!そしてなんか手が触れ合ってるし指が絡んでるし、そして近い!


「時々人肌が恋しくなるの、」

「先生は生徒を揶揄うの禁止です、」


先生、飲み過ぎです、酔ってるんですよね、そして近い!!


「ちょっとだけ、」


アカリ先生は俺の肩に凭れ掛かってそのまま、……


「先生!?」


寝息を立てる、


まるで俺の事など全然信用してないみたいに無防備に、一体俺の事を何だと思ってるんだろうか? このまま襲っちゃいますよ、キスくらいなら良いですよね、


「決定的瞬間発見!」


突如現れた博美先輩が高速連写でシンクロフラッシュ!




ーーー

「晴れてよかったねぇ、」

「星、綺麗ですね、」


やがて辺りもすっかり暗くなって撮影を開始、ここに来て俺は写真撮影が体育会系である事を思い知らされる、俺と早美都と博美先輩はそれぞれ一台づつの三脚とカメラを持って想い想いの構図にセット、先ずオートフォーカスなる便利機能は一切役に立たない、手ぶれ補正もOFF、マニュアルでインフィニティフォーカスに合わせて、それからISOを6400にセット、F値を最小にセット、シャッタースピードを20秒にセット、撮影、それから予め決めた6種類のISOと露光時間の組み合わせで同じ様に設定を変えて撮影、続いてF値を一つ絞って同じ工程を繰り返す、これで1セット、以上の工程を3セット繰り返す、その後別の構図を探して移動して同じ事を延々繰り返す、博美先輩はと言うとその上に灯台の風景を前景にしたフォーカススタッキングとか言う高等技術?に挑戦中、


一時間くらい繰り返した後、今度はレンズを変えて特定の星を狙った撮影に挑戦、そして合間合間に望遠レンズを付けた赤道儀付きカメラのセッティングと撮影、移動、セッティングと撮影、


重い機材の運搬設営は全部俺の仕事だから地味に腰にくる、


「ほい、出来ましたよ、」


ふと顔を上げると、早美都がじっと星空を見上げてボーっと立ち尽くしていた、


「ねえ、宗次朗、星って不思議だね、何だか何時迄も見ていたくならない?」


「大昔の人間はあの星の一つ一つを何処か遠くに居る人間のかがり火だと思ってたらしいな、宇宙人が居るかなんて知らないけど、あの光の下に誰かが居て、俺達と同じ様に色々悩みながら生活してるのかなって想像したら、ちょっと面白いな、」


「きっと、誰か大切な人の事を想っている、そんな優しい気持ちがあの星の何処かにはきっとあると思うんだ、」


俺にとってそれはもう振り返る事の出来ない過去の事で他人事で、いつの日か又、誰かを大切だと思える様な日が来るなんて事は想像も出来ない、特定の誰かに好意を抱くのはあくまでも脳内化学反応の結果でしか無くて、子孫繁栄の為に生物をマインドコントロールする謂わば脳内詐欺みたいなモノに違いないからだ、でも、


「そうだと良いな、」


そんな捻くれた俺の理論を押し付ける事が忍びなくなる位、うっとりと天空を見つめる早美都は純粋に健気に輝いて見えた、

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