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真・失恋王  作者: ランプライト
第一章 「失恋王 vs キューティトラップ」
3/24

003

ある晴れた日の放課後、机の中から持ち帰る教科書副読本を引っ張り出していると、一枚の紙切れが床に零れ落ちた、


そう言えば、先日後ろの席の不良から回ってきた相田宛ての伝言メモを預かったままだった、どうせ大した事は書いていないだろうが、と拾い上げると『京本様へ』と書いてある? ……それで相田宛のメモはと言うと机の引き出しに入ったままで、どうやら誰かが俺宛に書いた別のメモらしい、


「誰だ?」


小さく可愛らしく畳まれた俺宛のメモ、差出人は不明、十中八九、不良グループの悪戯だろうが、それなら何故元の相田宛てのメモを回収していかなかったのだろうか?


開けてみると結構綺麗な女子っぽい字で『放課後、旧校舎の空教室迄来てほしい』と書いてある、いや、俺は決して勘違いなどしない、何処にも一言も俺の事が好きだと言う意味合いの言葉は書かれていないし、もしかしたら新手のカツアゲか不幸か呪いの手紙の類いかも知れない、


とは言っても万が一という事もある、


そもそも俺はとっくに恋愛脳なる器官を切り捨てたのだから今更誰かに告白された所で俺が正気を失う事など無いのだが、失恋がキツくてしんどいのは知っているし、告白には生半可でない勇気とエネルギーが必要な事も知っている、つまりコレが万が一本当に俺に好意を寄せる女子からの呼び出しだったとしたら、俺はそんな女子の決死の覚悟を既読スルー出来る様な人非人では無いし、キチンと話だけは聞いてその上でキチンと返事をする位の常識的な責任感は持ち合わせている、




ーーー

俺は「一緒に帰ろう」と声を掛けて来た早美都を先に帰らせて指定された教室へと向かう、が、約束の時刻には未だ暫く猶予がある様だった、


教室の中を一通りぐるりとチェックして、身嗜みにおかしな所が無いか今なって気になって来て、何だか次第にソワソワしてきて一旦落ち着こうと隅っこに重ねられた机を一つ引っ張り出してきて腰掛ける、


それにしても俺に気があるとかどんな変わった女子なんだ? 未だ入学して来て二週間、それ程目立った活躍もしていないし、元々中肉中背で大したイケメンでもない、強いて言えば中学の卒業式で公開告白して振られた失恋王とか訳の分からない二つ名を持つチョット変な男子である、


神崎グループの微ギャルコンビ? いや、あいつらがグループの男子狙いなのは見え見えである、それとも上野率いる優等生グループのコガネムシトリオ?理由が分からん、可能性が高いとしたらオタク女子グループの誰かか、……いや、そもそもこの俺がラブレターを貰える妥当性のある論理的な説明がつかない、これは矢張り誰かの悪戯と考えるのが妥当かと思われ、


チラリと見た腕時計の文字盤は、未だ指定時刻の6分前だ、


後、もう少しだけ待ってみて、時間になっても誰も来なければそのまま帰る事にしよう、……と、言う訳で隅っこの椅子に腰掛けて持ってきた自己啓発の新書をぼーっと読んでる内に、


何時の間にか俺は眠ってしまったらしい、




ーーー

「もう、帰ってしまわれたみたいですね、」

「あの堺屋とか言う奴がシツコいから時間かかっちゃったんだもん、美咲は悪くないよ、」


「あ〜あ、疲れちゃった、」

「まあ、お行儀悪いですよ、」


話し声? に気が付くと、どんだけ寝相が悪いんだか俺は積み重ねた机の陰に隠れる形で床の上に寝っ転がっていた、どうやら話し声の主達は俺が此処にいる事には気付いていないらしいが、


「それにしてもヤンなっちゃう! 毎日毎日告白告白、もう面倒クチャい!」

「好意を持って頂けるのは有難い事ですよ、」


上品なお嬢様口調はどうやら学園のアイドル相田美咲で間違い無い様だが、もう一人の幼児言葉は一体誰だ? どっちにしても二人きりじゃ無いとすると、告白とかそう言う類の話では無さそうだ、


俺は制服の汚れを払って立ち上がり、


「悪い、眠っちまってた、」


そこに信じられない物を見る、俺に気付いた相田美咲も又、真っ青な顔で俺を凝視していた、


そこには相田美咲一人きりしか居なかったのだ、


「あれ? 今もう一人誰か居なかったっけ?」

「何の事かにゃ?」……ネコ?


そして可愛らしくピンと立てた相田の人差し指には、縫いぐるみの猫の指人形、……もしかしてお人形さんとお話ししてたの?




ーーー

「お見苦しいものをお見せして申し訳ございませんでした、」

「面白いものを見せてもらってとてもラッキーでした、」


真っ赤になってひたすら頭を下げる相田美咲さん高校一年生、


「出来ればこの事は秘密にしておいて頂けると有難いのですが、」

「うーん、どうしようかな、」


いや、悪い事だとは分かっているのだが、あの完璧お嬢様優等生、相田美咲が猫の指人形でにゃーん、とか、面白すぎてついつい揶揄いたくなってしまうのはどうしようもなくしょうがない、


「そうだな、もう一回やって見せてくれたら秘密にしておいてやっても良いぞ、」


今にも泣き出しそうな顔で耳まで真っ赤にして恥ずかしがる相田美咲さん高校一年生、


「京本さんは意地悪です、」


一瞬スピリチュアルか中二病かと心配したが、この一人遊びは相田美咲のストレス解消法なのだと言う事らしい、良い所のお嬢様は家族にも泣き言我儘言えなくて代わりに自分で自分に愚痴を零す内にこの一人遊びが癖になっちゃったと言う事らしい、それでとてつもなくどうでも良い事なのだが幼児言葉混じりの甘えん坊の猫の名前はみーちゃと言うらしい、みーちゃ、みーちゃき、みさき、……成る程、


「それ、もしかして何時も持ち歩いてるのか?」

「はい、」


相田は渋々ポケットから縫いぐるみの指人形を取り出して見せる、


「よく見ると結構年季が入ってるな、」

「私が4歳の頃からの御守りなんです、」


所々破けたところを継ぎ接ぎに縫い直してあるし、ケモ耳も片方ペロンペロンに草臥れている、


「どうしてもやらないと駄目ですか?」

「みたいな〜、」


「こほん、」……と、相田は一つ咳払いして、指人形を装着、


男の加虐心を唆らずにはいられない絶妙の上目遣いで俺を見る、


「初めまして宗次朗くん、アタイみーちゃ、宜しくね、」


学園のアイドルにいきなり下の名前で呼ばれて、フワフワする様な甘酸っぱい胸の感動が鳴り止まない、


「でも、一人称がアタイとか、どう言うキャラ設定なんだ?」


「みーちゃは世界中を旅して回るロシアのサーカス団の曲芸猫なんです、それで怖い団長から逃げ出して迷子になっていた時にウチに来てお友達になりました、と言う設定です、」


恥ずかしそうにしながらも真剣に役作りして声色を変えて一生懸命に指をピョコピョコさせる相田美咲は反則級に可愛らしくて、ついつい同時多発的に虐めたくなってしまう、


「しかしよく見るとお前絶妙に間抜けと言うか変な顔してるな、」

「酷いよひどいよ、これでもアタイ女の子なんだよ、」


「そうか、みーちゃはメス猫なんだ、」

「うん、めす、……」


真っ赤になり過ぎて冷や汗かき過ぎて今にも死にそうになっている相田美咲をこれ以上虐めるのは流石に可愛そうになって来た、


「それで俺に用って何なんだ?」




ーーー

「誠に申し訳ないのですが、携帯電話を貸して頂けないでしょうか、」

「携帯、忘れたのか?」


そしてそれを何故、大して親しくもない俺をこんな所に呼び出してまで頼む?


「そうでは無いのですが、……」


何だか訳ありなのは一目瞭然だが、言葉を詰まらせて顔を真っ赤にする学園のアイドルを見ていると、どうにかしてやりたくなるのはどうしようもなくしょうがない、


「変な事に使うなよ、」


俺はスマホのパスコードをロック解除して相田に手渡した、


「ありがとうございます、」

「でも、どうして俺なんだ? 上野とかの方が仲が良いんじゃ無いのか?」

「上野さんはとても優しくして下さいますが、少しお願いしにくいと申しますか、」


オドオド困り眉の潤んだ瞳で怯えた様に上目遣いする相田美咲を見ていると、ついつい意地悪したくなって来るのはどうしようもなくしょうがない


「ふーん、でも、俺なら良いんだ、」

「京本さんは信頼できると言いますか、」


「同じクラスになって未だ一ヶ月も経ってないのに?」


可愛らしい唇を真一文字に噤んで、暫し考え込む学園のアイドル、


「そうですね、最初からキチンと理由を説明すべきでした、」


それから一つ深呼吸して、


「実は、」


相田美咲には中学の頃に付き合っていた彼氏がいたらしい、本当ならこの北辰高校に一緒に通う筈だったのだけれど、実際にはそいつの名前はクラス分け掲示板の何処にも無くて、それ以来連絡も付かなくて、恐らくこのハプニングにはソイツとの交際をよく思わない相田の父親が絡んでるに違いなくて、漸く手に入れた新しい連絡先に電話してみようとするも、相田の携帯からの履歴が残るのは不味かろうと言う事で、新しい学校で知り合いも無くどうやら人畜無害そうと言うか恋愛沙汰に興味が無さそうな俺に白羽の矢を立てて協力を仰いで来た、……と言うのが事の顛末らしい、


「此処で少しの間待ってて頂けますか?」


相田はそう言うと顔を赤らめたまま教室を出て行ったっきり、俺は再び眠くなりそうなビジネスマン向け自己啓発のページを捲る、




ーーー

「どうも、ご迷惑をお掛けしてすみませんでした、」


20分後、ガラッと教室の扉が開いて元通り清楚可憐な相田美咲が戻ってきた、


「もう、済んだのか?」

「携帯には出て貰えませんでしたけど、一応、メッセージは残しておきました、」


相田はハンカチで綺麗に拭いたスマホを俺に返すと、


「この御礼は何時か必ず、」

「良いよ、これ位の事で気にすんな、」


「それで厚かましいお願いなんですけど、今日の事は秘密にして頂けませんでしょうか?」

「心配すんな、誰にも言わないよ、」


女子と同じ秘密を共有する事に何の意味が有るのかと言うと、そんなモノには特段なんの意味が有る訳でもない、男同士だって似た様な事はするだろう、


「後もう一つだけ、お願いしても宜しいでしょうか?」

「内容によりけりだけど、何?」


申し訳なさそうにハンカチで顔の下半分を隠して困り眉で俺の眼を覗き込む相田美咲は成る程可愛らしくて、これじゃみんな好きになっちゃう訳だ、


「実は彼、写真が趣味なんです、それで私も影響を受けて始めたんですけど、……それで中学の時に、何時か一緒にコンテストに出ようって約束していたんです、でもうちの高校の写真部は今年部員が一人だけしか居なくて廃部寸前なんです、だから一緒に入ってくれる「お友達」を探してるんですけれど、……京本さん、お願いできないでしょうか?」


了承すれば「友達」で、断れば一生「友達」にはなれないのだろうか?

しかし俺は別に高校で「友達」が居なくても困らない、


「うーん、どうしようかな、」


いや、別に入りたい部が有った訳でもないし、体育会系でもなさそうだし、部員少ないって、つまり五月蠅い先輩も少ないなら別に構わないのだが、どうにも加虐心を擽ぐる相田美咲の困った顔を見ていると悪い事だとは分かっていても、ついつい、


「そうだな、みーちゃにお願いされたら考えてやっても良いかな、」


そして頬っぺた膨らまして可愛らしく俺の事を睨みつける相田美咲さん高校一年生、


「京本さんはすっごく意地悪です、」


こういう経緯で、俺は渋々、仕方なく写真部に入部する事になった、

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