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真・失恋王  作者: ランプライト
第一章 「失恋王 vs キューティトラップ」
1/24

001

昭和の趣を漂わせる落ち着いた雰囲気のエントランス、風通しの良い長い廊下、薄暗い無機質な校舎には生徒達の甘酸っぱい感情が彩りその歴史の長さ分だけ重ね塗りされている、


神奈川県立北辰高校

湘南に所在する比較的お上品な生徒が集まる一般的な進学校である、

 

その北辰高校の新学年始業式の朝、新入生クラス分けの掲示板の前には騒めく人集りが出来ていた、何故ならそこにはまるで2次元から抜け出してきた様なトレランスゼロな美少女が一人、


落ち着いた雰囲気の佇まいに凛と美しい立ち居振る舞い、かつて傷一つ付けられたことのない透き通る様な白い肌、シンメトリーに整った顔立ちには大きく澄んだ瞳とそれを縁取る艶かしい睫毛、高く通った鼻筋に控えめな口元、肩よりも長いストレートな黒髪には濡鴉な艶が朧げなオーラを纏って見える、


初めて見たその美少女はじっと掲示板を見つめて、ぎゅっと口を真一文字に結んでいた、




ーーー

「よう!失恋王、また同じクラスだな、」

 

と、いきなり肩を組んできたのは如何にもチャラく制服を着崩した長身の男子、同中の大して仲が良かった訳でもない知り合いの鎌塚有人が馴れ馴れしく声をかけてきた、それよりも、

 

「何だ、その失恋王ってのは?」

「ピッタリな二つ名だろ、なんせ今やお前は南中の伝説だからな、」

 

確かに、俺は中学の卒業式の卒業生代表挨拶で当時片想いしていた西野敦子に公開告白して見事に振られたのであった、西野とは修学旅行で同じ班になり、何かと世話を焼く内に懐かれて気が付いたら俺の方が堪らなく好きになっていた、その後高校受験で学校が別々になり次第に気不味くなって距離を置かれる様になって、挙げ句の果てに一縷の望みを託した公開告白で大泣きさせて、それ以来彼女に近付こうものなら哀れストーカー扱いされてしまう始末、

 

「それにしてもすげぇ美人だな、今度はあの子狙ってんのか?」

「まさか、恋愛は人生の無駄遣いだ、もう二度とするものか、」

 

そうだ、俺は後悔し、猛省し、確信したのだ、

だからもう二度と、俺は恋愛など信じない、

 

全ての恋愛は、独り善がりな好意の押し付けにすぎないからだ、

貴方の事が好き、いつも貴方と一緒にいたい、貴方の為なら何でもしてあげたい、

その強い思いの中に「貴方」が入り込む余地などまるでない、

 

「おい、待てよ、一緒に行こうぜ、」

 

俺の黒歴史を知る男とは出来れば連みたくないものだが勝手に付いて来るものは仕方ない、と、人垣を掻き分けて出ようとした途端に、俺は一人の可愛らしい眼鏡男子とぶつかってしまう、

 

「あ、すみません、」

「悪い、こっちこそ前を見ていなかった、」


背丈は小学生の甥っ子と同じ位だろうか、華奢な作り身体に細い手脚、一瞬幼女と見間違えてしまいそうになるあどけない顔立ち、差し伸べた手に捕まる指は少しヒンヤリと冷たくて、


「今日コンタクト忘れちゃって眼鏡の度が合ってなくてよく見えなくって、」

 

何だかオドオドして目を逸らして、まるで俺が虐めてるみたいで気がひける、

 

「もしかして掲示板が見えてないのか?」

「うん、もう少し人が減ってから近くに行こうと思ってたんだけど、」

 

「見てやるよ、名前、何て言うんだ?」

「え、そんないいですよ、悪いです、」

 

どうにもこうウジウジしてる奴を見てられないと言うか放って置けないのが俺の小学生の頃からの悪い性分だった、

 

「これ位の事で一々気にすんな、名前何てんだ?」

「高野、早美都、です、」

 

「1年2組、おんなじクラスみたいだぜ、」

 

早速有人が掲示板から名前を見つけ出す、

 

「そうか、俺は京本宗次朗、これから一年宜しくな、」

「はい、」

 

極度の恥ずかしがり屋なのだろうか? 男の娘は俯いたまま小さな声で耳まで真っ赤になってる、……ん? 男の娘?

 

 

 

ーーー

教室に入ると教壇の上に四角い箱が置いてあって黒板に大きな文字で、『席順を決めるくじを一枚引いてください、』……と、書かれてあった、

 

俺は指示された通りに箱の中から折りたたまれた紙切れを一枚抜き取って、開くと中には数字の『5』、黒板に張り出された席順を見ると廊下側の前から数えて5番目、一番後ろの席か、


早速鞄を掛けて腰掛けようとすると、目付きの悪い頭の残念そうな男子が近づいてきて机に手をついてもたれ掛かる、何故だか使い古された野球部のジャンパーを制服の代わりに引っ掛けている、


「あのさ、良かったら席交換してくんないかな? 俺らダチ同士後ろに固まってんだよね、それに俺の方が先に来てた訳だし、文句ないよね、」


見ると、似た様な今時絶滅した筈のチンピラっぽい男子生徒達が三、四人、隣の隣の席の周りに屯っている、


「別に構わないよ、」

 

俺は野球部ジャンパーのナントカ君とクジを交換して13番の席に着く、

 

「お人好しだな、」

 

結果俺の後ろの席になった有人がニヤケながら俺の背中を指で突く、はっきり言ってウザいから無視、……早美都はと見ると一番窓際の前から二番目で何だかこっちを見て苦笑いしている、

 

と、突然教室内が騒然となる、

 

さっきクラス分けの掲示板の前で見かけたあの美少女が登場、同じクラスだったのか、

 

「あ、席決めのクジを一枚引くんだそうです、」

「あ、そうなんですね、」

 

早速優等生っぽい男子が世話を焼いている、それにしても見れば見る程に良い所のお嬢様っぽい雰囲気で、凡そこんな一般家庭の子女が通う様な学校の教室が場違いに見える、

 

「18番ですね、窓際から三番目の列の、前から三つ目の席です、」

「ご親切にどうも有難うございます、」

 

クラス中の男子が一斉に彼女の一挙手一投足を目で追い掛ける中、優等生のエスコートで美少女は俺の左隣の席に着く、なんだかさっきのジャンパー君が舌打ちしている、

 

「初めまして相田と申します、宜しくお願いします、」

「ああ、宜しく、」

 

相田は俺と有人に丁寧なお辞儀をして挨拶、それでしゃんと背筋を伸ばして椅子に腰掛ける、背凭れにもたれ掛からない奴なんて初めて見たかも知れない、二人が手を伸ばせば指先が触れ合う様なパーソナルスペースにこれまでに経験した事のない様な心地好い匂いが漂っている、

 

 

 

ーーー

「ほい、席に着け、みんな自分の席は有るか?」

 

見た目如何にも温厚誠実そうな中肉中背の中年教師が登場、騒ついていた生徒達は仕方無しに銘々の席に散らばる、……中年教師は黒板を乱暴に消すと、白いチョークでカツカツと結構綺麗な字で縦書きに名前を書きだす、

 

「国分陽太です、このクラスの担任です、受け持ちは現国、一年間宜しくお願いします、」

 

シンと静まり返ったまま呆気にとられている生徒達を置き去りにして結構マイペースで強引らしいこの教師は更に無茶振りを続ける、

 

「それではクラス委員を決めたいと思います、誰か立候補したい人?」

 

まさか隣の奴が誰かも分からない新入学登校初日の朝一で自ら学級委員に立候補する奴なんているのか? と思っていたら、

 

「はい、」

 

と、元気良く手を挙げたのはさっきの優等生、教室の此処そこからヒソヒソ笑い声が漏れる、

 

「おう、積極的で良いな、君の名は?」

「上野です、」

 

「趣味は?」

「特にありません、強いて言えば、映画鑑賞かな、」

 

「最近どんな映画見た?」

「フィールドオブドリームスです、」

 

「渋いな、他に立候補する奴はいるか?」

 

再びシンと沈黙する教室、

 

「じゃあ決まり、上野、宜しくな、後一人上野が誰か副委員長を指名しておいてくれ、」

「わかりました、」

 

 

 

ーーー

始業式の為に講堂へ移動を開始、

 

「流石、上野、」

「宜しくね、」

「おう、」

 

数人の男女が擦れ違いざまに優等生に声を掛ける、どうやら上野はそれなりに人望が有る男らしい、

 

その人望ある上野君が俺の席の前にやって来て、

 

「あの、良かったら、副委員長を引き受けて貰えないかな?」

 

俺の隣の席の美少女に声を掛けた、いやはや確かに何とも積極的な奴、

 

「はい、私でお役に立てるなら、」

 

そしてこっちも驚きの二つ返事、

 

「宜しく、上野太郎です、」

 

と、上野が颯爽と差し出した握手の手に、

 

多少困った風に苦笑いしながら、キチンと立ち上がってお辞儀で返す美少女、

 

「相田美咲です、こちらこそ、宜しくお願いします、」

 

まさに完璧清楚可憐な良い所のお嬢様、それが相田美咲の第一印象だった、

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