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どうせ俺はNPCだから  作者: 枕崎 純之助
第一章 見習い天使と下級悪魔
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第13話 暴君ケルの異変

 玉座の間で頭上から不意を突いて俺にのしかかってきたケルは、全体重を俺に預けて言いやがった。


「バレットォ。てめえは地の底で眠っているはずだろうが。どんな手品を使いやがった」


 手品だと?

 そりゃこっちのセリフだ。

 頭上からいきなり現れるまで、俺はこいつの気配を感じ取れなかった。

 こんな馬鹿デカい図体ずうたいを持つ野郎が降って来たってのに。

 今までそんなことはなかったんだが、俺の感覚が鈍ってやがるのか?


 とにかく俺は怒声を上げてケルの奴を振り落とそうとした。

 いくら俺の腕力が落ちていようと、いくらケルの奴が豚みてえにえていようと、悪魔1人を持ち上げられねえほどおとろえちゃいねえぞ!

 

「息がクセーんだよ。いつまで人の上に乗って……うおっ?」


 だがケルは俺が持ち上げようとするより先に俺の首根っこをつかみ、力任せに持ち上げると地面に叩き付けた。

 

「ぐあっ!」


 背中から叩きつけられて強烈な痛みが俺の全身を襲う。

 くそっ!

 ふざけやがって!

 ケルはもう一度、俺を叩きつけようと持ち上げた。

 二度も食らうかよっ!


灼熱鴉バーン・クロウ!」


 俺は一瞬のすきを突いて密着状態から灼熱鴉バーン・クロウをケルの顔面に浴びせてやった。

 顔を燃やされてケルは悲鳴を上げ、たまらずに俺を投げ飛ばす。


「ごあああああっ!」

「うおっと!」


 俺は空中で態勢を立て直して着地した。

 ケルの馬鹿力で地面に叩きつけられたダメージは残るが、そんなもんはでもねえ。

 俺は顔を燃やされてもだえ狂うケルをにらみつけて声を上げた。


「いいザマだな! ケル! 俺の炎のしつこさはよく知ってんだろ? その汚ねえツラを高温殺菌してやるから感謝しやがれ!」

「バレットォォォ! てめぇぇぇぇぇ!」


 ケルは怨嗟えんさの声を上げて暴れるが、俺の炎は簡単には消えやしない。

 するとケルの奴は地面にひざをつき、いきなり自分の頭を地面に叩きつけやがった。

 何だ?

 トチ狂いやがったのか……ん?


 俺はそこで思わず我が目を疑った。

 地面に叩きつけられたケルの頭がズボッと首まで地面の中にめり込んだんだ。

 いや、ありゃ違う。

 めり込んだんじゃなくて地面を突き抜けて首が消えたんだ。


 どうなってやがる?

 まさか……ティナの言っていた例の見えざるあなか?

 そうか。

 さっきケルの玉座を蹴飛ばした直後に俺が足を取られそうになったのは、恐らくあのあなだ。


 疑念を抱く俺の目の前で、ケルの奴は勢いよく地面から頭を引き抜いた。

 その顔から炎が消え去っている。

 チッ。

 これまで幾度となく俺は自慢の灼熱鴉バーン・クロウでケルの奴を燃やしてやったが、あんなふうに火を消すのは見たことがねえ。


「ふぅぅぅぅ。消火完了ぉ。やってくれやがったな。バレットォ」


 顔中をすすで黒く汚したケルの奴が怒りで顔をゆがめていやがる。

 フンッ。

 上等だ。


「ブサイクなツラが少しはマシになるかと思ったが、てめえはこの手で直接ぶん殴ってやらねえとダメなようだな。ケル。俺をコケにしたむくいを受けさせてやるよ」

「馬鹿め。返り討ちにされて泣きながら命()いをすることになるぜ」

「ハッ! そいつは楽しみだ!」


 俺は地面を鋭く蹴ってケルに詰め寄ると、奴を惑わすように左右にステップを踏んだ。

 こいつは俺のスピードについてこられない。

 それが今までケルの奴が俺に勝てていない大きな要因だった。

 こいつは筋力ばかりに頼って、それ以外の技術やスピードを磨こうとしなかった。

 だから俺が本気で動けば、それを目で追うことも出来ない。


「こっちだオラッ!」


 俺はそのままケルの右側に回り込み、奴のふくらはぎを蹴り上げ、その膝頭ひざがしらを拳でガツンと打った。


「反応がオセーんだよノロマ野郎が!」

「ぐうっ!」


 ケルはグラリと揺れて態勢を崩す。

 こいつは足元が弱いんだ。

 上半身に肉がたっぷりついているから、下を崩せば容易に転ぶ。

 ケルが地面に片手をついて踏みとどまったところ、俺は奴の顔面を足の甲で思い切り蹴りつけた。


「オラァッ!」

「ぶあっ!」


 ケルは盛大に鼻血をまき散らしながらのける。

 そのすきに俺はもう一度、奴の顔面に向けて灼熱鴉バーン・クロウを放った。


「燃え尽きろっ!」

「ナメるなぁっ!」


 ケルは思い切り空気を吸い込むとそれを一気に吐き出した。

 圧縮された超高密度の空気がケルの口から吐き出され、灼熱鴉バーン・クロウがかき消されちまった。

 チッ。

 ケルのスキル・圧縮爆殺風キリング・エアダスターだ。


 あれをまともに浴びると吹っ飛ばされるだけじゃ済まねえ。

 骨や内臓に大きなダメージを受けるし、弱い奴は腕や足がもぎ取られちまう。

 だが、奴があの技を放つには空気を吸い込む一瞬のタメが必要で、それを見逃さなければ回避は容易な技だ。

 何度も見慣れた俺は間違っても食らわねえ。


 そしてこのスキルを発動した後は、ケルの奴に一瞬のすきが出来る。

 今までの戦いでは俺はそのすきを突いてケルの奴を幾度もほうむり去った。

 今回もこのまま一気に押し切ってやるぜ。

 いつものようにな。


「馬鹿のひとつ覚えだぜ! ケル!」


 ケルが逆上してもう一度あのスキルを使うのは目に見えていた。

 そこがチャンスだ。

 そのすきを見て一気にケリをつけてやる。


灼熱鴉バーン・クロウ!」


 俺は再度、燃え盛るからすをケルに向けて撃ち放つべく両手に炎を宿す。

 ケルはそんな俺の思惑に気付かず声を上げた。


「バレット! 馬鹿のひとつ覚えはおまえのほうだぜ! 粉々になりやがれ!」


 大きく息を吸い込んだケルは圧縮爆殺風キリング・エアダスターを吐き出した。

 ここだ!

 俺は灼熱鴉バーン・クロウを瞬時にキャンセルすると、ケルの顔の角度から圧縮空気の射線を読んで身をかがめ、地面スレスレの超低空飛行で飛んだ。

 そんな俺の頭上を圧縮された空気が通り抜けるのが音で分かった。


 そして前方のケルに大きなすきが出来る。

 俺は瞬時に頭の中で10連撃の連続技コンボのイメージを組み立てた。

 これで押し切る!

 だが……。


「イレギュラー・システム・コード0803。フィールドエラー」

「がっ!」


 ケルの奴が何やら奇妙な言葉をつぶやいたような気がした。

 すると俺はケルのわずか3メートルほど手前で突然、見えない何かに激突して弾き返された。

 な、何だ?

 まるて全力で壁に突っ込んだような衝撃を受けて俺は目の前が真っ暗になる。

 頭部を強打して俺は自分が昏倒こんとうしたことを悟った。


 くっ……とにかくケルを前にして寝ていられるか。

 俺は歯をくいしばり即座に立ち上がったが、足元がふらついてまっすぐ立つのも難しい状態だった。

 攻撃に全神経を集中させて最高速度で飛び込んだ状態での激突だったため、その衝撃は相当なものだ。


「くそっ……何なんだ一体」


 そう悪態をついた俺は徐々に視界を取り戻す。

 するとぼやけた視界の中、俺の前方にはいつの間にか透明の水晶で出来た太い柱が建っていた。

 な、何だこりゃ。

 こんなものはさっきまでなかったはず……。


「ハッハッハ。おいバレット。自分から柱に突っ込むなんて、いよいよ頭がおかしくなったのかと思ったぜぇ?」


 ケルのムカつく声にハッとした俺は、ふらつく体を支えるべく踏ん張っていた両足が、ふいにり所を失って宙に浮くのを感じた。


「イレギュラー・システム・コード0803。フィールドエラー」

「うおっ!」


 まただ。

 またケルが奇妙な言葉をつぶやいた途端とたんに、ほんの数秒前まで地面だったそこが大きなへこみとなり、俺はその中に落下してしりをしこたま打った。


「ぐうっ!」


 ど、どうなってやがる。

 反射的に立ち上がった俺はいつの間にかそのへこみの中にケルの奴が降り立っているのを見て身構えた。

 俺とケルはせま苦しいへこみの中でわずか2メートルほどの距離をはさんで対峙たいじする。


「バレット。これだけせまけりゃ、てめえもチョロチョロ動けねえだろ」

「ケル。てめえ一体何をしやがった」


 俺がそう言ってにらみ付けると、ケルの奴はニヤリと笑った。


「新しい、そしてすばらしい力を手に入れたんだよ。こんな感じのな」

「なにっ?」


 ケルの奴は手を頭上に掲げて、また奇妙な言葉を唱えやがった。


「イレギュラー・システム・コード0803。フィールドエラー」


 その途端とたんに頭上が暗くなる。

 見ると俺のいるへこみの上にふたかぶさるようにして天井が現れ、俺とケルを中へ閉じ込めやがった。

 こ、このケルの力は……もしやこいつ。

 そこで俺はケルのとなえた言葉が何であるのかをようやく思い出した。

 それは昨日、上級悪魔のディエゴがとなえたそれと同じ言葉だった。


「ケル。てめえ。あのディエゴとかいう上級種が持つのと同じ力に手を染めやがったな」


 俺がそう言うとケルは心底愉快そうに笑いやがる。


「ヒャッヒャッヒャ。ご名答。ディエゴの旦那だんなにちょいとお願いしてな。力を分けてもらったのよ。旦那だんなは気前のいい人でな。こころよく俺に力を与えてくれたぜ」


 俺は怒りと不愉快さが腹の底でグルグルと回るような感覚を覚えた。


「ケル。てめえ。ひとかけらのプライドすら失っちまったか」


 卑怯ひきょう狡猾こうかつな下級悪魔。

 それがケルだ。

 卑怯ひきょうなのも狡猾こうかつなのも大いに結構。

 それこそが悪魔だからな。


 だが……たましいまで売り渡せば、そりゃただの負け犬だ。

 それでもケルの奴はまるで引け目を感じた様子もなくヘラヘラと笑って言う。


「バレット。俺もおまえも下級種だ。馬鹿みてえに鍛錬たんれんしても手に入れられる強さなんてたかが知れている。てめえが一番そのことを分かってるはずだぜ。上級種の連中を相手に何も出来なかったじゃねえか」

「だからそんなクソッたれな力に手を出したってのか? 情けねえ野郎だ。俺は下級種だが上級種の連中に心までくっしたことは一度としてねえぞ。そんな力を手にしなきゃならん弱虫が、子分どもをたばねる頭領ボスの座に恥ずかしげもなく座っていられるとは、お笑いだぜ。ケル」

 

 俺の言葉にもケルは薄笑みを浮かべるばかりだ。


「何とでも言え。バレット。勝つために手段を選んでいるうちは甘ちゃんなんだよ。俺は外道に染まる覚悟と根性がある。根性なしのおまえとは違う!」

「ほざけ! そりゃ負け犬根性って言うんだよ!」


 ケルのくだらねえ話に俺はもう我慢ならずに、せま苦しい空間の中で奴に飛びかかった。

お読みいただきまして、ありがとうございます。


次回 第一章 第14話 『偽りの力』は


7月14日(日)0時過ぎに掲載予定です。


次回もよろしくお願いいたします。

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