81.ポーラだと思ったんだが・・・
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ローチ騒動から数日経った休日、フラッドは時間の許す限り惰眠を貪っていた。
それと言うのも、三匹の尊い犠牲のもと一時は治まりを見せた教室であったが、今度は本当にローチが現れた、それも仕返しと言わんばかりにポーラの顔面へダイブを決めた為に、先の作戦を優に超える苛烈さでもって掃討がなされたのである。
もちろんフラッドに拒否権はなく、二日に渡る掃討作戦に従事した疲労により今日と言う結果を迎えていたのである。
ダリウスのしごきを受けていた時でさえ、こうはならなかったことから、如何に苛烈で激しいものであったかが解ると言うものである。
そんなフラッドが疲弊した精神と肉体を回復させる為にも寝具独自の引力のまま眠りについていると、突然何かが顔を叩くような感覚を覚える。
「んん~~」
その感覚はとても小さなだったため、一瞬浮上しかけたフラッドの意識も、ベッドの放つ重力により再度眠りへと沈んでいく。
フラッドを叩いたソレは、このままフラッドが眠り続けるのを良しとしなかったのだろう。
今度は何事かを発しながらもう一度同じことをする。
「―――。」
ここでフラッドの意識は半分夢から浮上し始めた。
(ん~?
誰か居るのか?
つってもポーラなんだろうけど)
「んんん~…後五分だけ…」
フラッドが反応したことで効果があることを理解したソレは、本格的にフラッドを起こしにかかる。
「―――、起き―。
――に―――があるか―――くよ」
未だ意識の半分を夢の世界に置いてきているフラッドは、ソレが発している言葉を上手く聞き取ることが出来ない。
しかし、声の高さからソレが女子であることは解るフラッドは、自分を起こしに来ているソレをポーラだと断定した。
(やっぱりポーラだな。
起こしに来てくれるは良いんだけど、こうなってんのもお前のせいなんだぞ?
だからもう少し寝させてくれ)
「頼むからもう少しだけ…」
尚も眠りに就こうと抗うフラッドに焦れたのか、それはフラッドに馬乗りになったかと思えばその肩を激しく揺すり始めた。
「もう起きたからやめてくれポーラ」
あまりに激しい揺さぶりに苛立ち気味に覚醒するフラッド。
そして目を開けた先にあったのは、いつも見慣れたポーラの顔ではなく、食堂で奇怪な出会いをはたしたファーミの顔があったのだ。
「同志、やっと起きた。
同志の休日はいつもこうなの?」
「エッ!?」
目の前の状況に思わず声を挙げるフラッド。
そんなフラッドの反応など蚊帳の外に、ファーミはいそいそとフラッドの上から降りる。
(は?え?なんでファーミが居んの?
え?何?え?
どっから入ったんだ?
窓?天井?まさか床か?
素直に状況がわからんのだが!)
「え?ファーミがなんで俺の部屋に居るんだ?」
「ドアをノックしたら反応がなかったから、試しに開けてみたら開いた。
だから入って起こしただけだけど?」
(鍵、閉め忘れてたのか?
って、いやいやいや。
開いてたから入ったって、そういう問題じゃないだろ!
仮にも男子の部屋だぞ?
それだけでもアレなのに・・・ハァ)
「ファーミ、部屋の鍵が開いてたからって勝手に入らないでくれよ。
ファーミは貴族令嬢なんだろ?
それなのに男子の部屋に入るなんて、色々とマズイだろ」
フラッドが驚きと呆れがない交ぜになった様子で苦言を呈するも、ファーミには微塵も響いていないようで、彼女は反省した素振りもなく反論を口にする。
「同志が不用心にも部屋に鍵を掛けないのが悪い。
学院だからと言って油断するのは良くない。
それと、外聞については私と同志の仲だから問題ない」
(鍵の事を言われたらぐうの音も出ないだが…
俺とお前の仲って…あってから大して時間たってないだろ)
「それに同志ポーラがいつも来ているようだから問題ないでしょ?」
(ポーラもいつの間にか同志になって認定喰らってたんだな)
「いや、それは、何というか」
「そんなことより同志フラッド、早く外出の準備をして!
連れていきたい店を見つけたの」
「いや、その前にだな」
「いいから早く!」
「はい!」
殺気を込められた催促に思わず返事をしてしまうフラッド。
返事をしてしまった以上準備をせざるを得ず、渋々と着替え始める
「ファーミ、この前みたいなところじゃないよな?
あそこは割と答えたから」
「その点は安心して。
同志も思わず驚きの声を挙げてしまうようなところを見つけたから」
(不安でしかないんだが…)
少ししてフラッドが着替え終わると、よっぽど早くフラッドを案内したかったのか、ファーミはフラッドの腕を掴み部屋を飛び出す。
「さあ同志フラッド!
まだ見ぬ食事を堪能しに行くわよ!」
「ちょっ、待て!
せめて鍵を!」
フラッドの叫びも空しく、二人は街へと駆け出していく。
そうして駆け出していく二人の姿を目撃した者が居た。
彼女はそれを見てしばし呆然としていたのだが、その方は怪しく揺れていた。
たまたますれ違った男子生徒が少女の表情を見て、腰を抜かしてしまったただが、彼女は気にも留めず二人の駆け出していった方へと進み始めた。




