80.色々と起き過ぎだと思うんだが・・・
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「はぁぁ」
話し合いとも言えぬ集まりを解散してから幾ばくか、フラッドは深い吐息を吐きながら、ここ数日の出来事を振り返っていた。
(まだ入学してから一週間も経ってないのに色々起き過ぎじゃないか?
どんな主人公でも、こう間もなくポンポンイベントがあると手が回らんはずなのに・・・
え?何?やっぱり俺って俺TUEEEな主人公だったりするのか?
…いやいややっぱりそれはないな。
仮にそうだとしたら、イワンの決闘とかアルゲンとの決闘で気持ちいい程にあっさり勝って、今頃クラスの女子たちにキャーキャー言われてるはず。
それがないってことは、そうでないってことだから、安心しろ俺。
正直女子からの黄色い歓声には惹かれるものがあるが、後が怖いからなぁ…
いかんいかん天使に対して怖いなんて、俺は何を考えてんだか。
とりあえず今の流れからすれば、アイツかアイツに協力した誰かがアクションを起こしてくるはずだし、それに備えておけばいいか。
アイツには聴きたいこともあるしな)
そう思い至り、幾通りかのパターンを予想するフラッド。
決闘の疲れもあったのか、いつしかその瞼は重くなり微睡みの中へと落ちていった。
◇
「・・・・・。」
アルゲンとの決闘から一週間。
当時予想していたアルゲン等からの接触もなく、フラッドは平穏な学院生活を送れていた。
そんな平穏な学院生活の内、魔句についての座学の中、フラッドはまるで何も無かったかのように進んでいく現実に驚きともつかない気持ちを感じていた。
(ここ一週間まるで何もなかった。
いや、ポーラが決闘の件で話しかけてきた4年の先輩(女)をおっかない目で睨みつけて追い返したり、ファーミにゲテモノブッフェに連れていかれたりとかはあったけども、アルゲン達からの接触は全くなし。
むしろ肝心のアルゲンが見当たらない始末だぞ?
え?俺はどうすればいいんだ?
このまま普通に学生生活エンジョイしちゃっていいの?)
無駄な思考に偏った為か、いつからか軽く頭を抱えブツブツと呟き始めていたフラッド。
当の本人は考えに集中している為もちろん自覚はない。
しかし、隣前後に座る者はそうもいかない。
その中でまず最初に声を掛けてきたのは、現状でフラッドに対する行動力で右に出る者は居ないだろうポーラであった。
ポーラはブツブツと呟くフラッドの姿を確認すると、スッとその身を寄せ心配そうに耳元で囁く。
「フラッド、大丈夫?
さっきから何か変だよ?
あっ、もしかしてこの前来てた先輩のこと考えてたりする?」
「うぉあ!」
自分で言いながら少し苛立つポーラ。
その瞳はまるで、夫の浮気を問い詰める妻のそれと言っても過言でない程に不穏なものを孕んでいた。
対するフラッドは、意識の埒外から、それも至近距離で声を掛けられた事。
そしてそれと同時に左腕を襲った、子供特有のフニフニとした感触に声を挙げてしまう。
もちろん今は授業中である。
前世の学校とは違い、この世界では勉強を受けるにはそれ相応の対価が必要なため、皆が教師の一言一句、一挙手一投足を逃すまいと集中する中で突如として響く声。
これで教室に居る者の注目を集めない方が難しい。
案の定教室に居る者ほぼすべての視線を一手に浴びたフラッドは、羞恥により首から上を赤く染め上げる。
「フラッド君、どうしたの?
まさかとは思うけど、居眠りをしていたということは無いわよね?」
そう教壇の上から声を掛けてきたのは授業の講師であり、このクラスの担任でもあるマーシーだった。
マーシー自身もフラッドの挙げた声に少なからず驚いていたのだろう、その表情には少しとは言え驚愕の跡が伺えた。
だが、それ以上に彼女は教師としての役目、つまり状況の確認と場合によっては生徒を窘める事、を優先していた。
教師の迫力をもって成された確認に、フラッドは思わずたじろいでしまう。
ここで素直に突然のポーラの声掛けに驚いたことを伝えればマーシーの説教の矛先はフラッドからポーラに移るのだが、ちらりとポーラへ視線を送れば、彼女は非常に申し訳なさそうに縮こまっていた。
ここで彼女が面白そうにニヤついていればフラッドも即座に話しただろうが、今の様子を見る限りそこに悪意はなく、この状況自体想定外だったことが解る。
教師に注意をされることは周囲からの評価が大きく下がることであるこの学院、否この世界の価値観の中で、フラッドは彼女を庇うように口を開く。
「すみません。
授業を聞き取るのに集中していたら手に違和感を感じ、それで手元を見たところその…ローチが居たのでつい驚いて声を挙げてしまいました」
最後以外は全くの嘘であるフラッドの弁明だが、ある部分において共感したのだろうマーシーは仕方がないと言う顔でそれを信じたのである。
「いきなり目の前にローチが出たなら仕方がないわね。
それも手に乗っていたなんて…。
でも次回からはもう少し気を付けるように。
では、授業を続けるわ」
これまた前世の学校であれば、ここで笑いの一つや二つ起きるものだが、そう言ったことは一切なく、クラスメイト達は授業へと意識を戻していく。
それは本来の正しい姿であるはずなのだが、フラッドとしてはどうしても変な感じを覚えてしまう。
(まさかこの教室にローチが居るなんて。
今も何処かに潜んでいるのよね?
彼にああいった手前、私が驚いてしまったらダメね。
細心の警戒をしないといけないわ。
でも、手にローチが居たのにあの程度で抑えるなんて流石だわ)
生徒たちが授業へと意識を戻す中、真っ先にそちらへ移行しなくてはならなマーシーはフラッドの言葉を受け、居もしないソレを警戒していたのであった。
そして、マーシーと同じく警戒している者がもう一人いた。
「フラッド、本当にごめんね」
「気にしなくていいよ。
俺も集中し過ぎてたから」
全員の意識が教壇へと向くや否や、ポーラは先ほどの事を申し訳なさそうん謝る。
それに対しフラッドは苦笑いを浮かべつつ慰めるように答える。
そして一拍の間を空けつつ声を掛けてきた理由を聞こうとフラッドが口を開くと、ソレに被せるようにポーラは深刻な顔をしてフラッドを問い詰めてきた。
「それで?ポーラは――」
「フラッド、ローチが居たのって本当?
何処に行ったかわかる?」
最初から見ていた彼女ならフラッドが嘘をついて難を逃れた事が解るはずなのだが、彼女はローチに対する強い思いからその事に気付けない。
フラッドはその事に気が付き、それが嘘であったことを告げようとするのだが、彼女の鬼気迫る表情と滲み出る殺気に怖気づき躊躇ってしまう。
「フラッド?
奴は何処に行ったの?
右?左?それとも正面?」
獲物を探す目で周囲を探りながら小声で聞いてくるポーラ。
結局フラッドは、その矛先が自分に向くのを恐れ嘘を重ねてしまう。
「え、え~と、はっきり見えたわけじゃないけど右側に逃げていったかな~て」
「わかった、右だね?
…絶対に殺してやる」
イオの一件もありフラッド自身ローチへは強い嫌悪感を抱いているが、ポーラの向けるソレはより強いものであった。
天使が悪魔に変わる瞬間を見てしまったフラッドは、珍しく心の内で神に祈りを捧げていた。
(神様!どうかポーラを落ち着かせてください。
あの娘の目、今凄く怖いんです!下手したら俺が殺られる!
だからお願いします!)
フラッドの懇願ともつかない祈りは、その後の休憩時間をもって聞き届けられるのだが、その間に起きたポーラ主導によるローチ殲滅作戦により疲労困憊となったフラッドは素直に感謝することが出来なかったのだった。
折しもその場に居た教師が一緒になって作戦に従事したことで、より苛烈なものになったのは敢えて言うまでもないだろう。
また教室の隅で、この作戦により逝かされたローチ三匹を弔うように合掌するファーミが目撃されたとかされないとか。
お読みいただきありがとうございます。
一週間投稿が遅れてすみません。
次話は8/30までには挙げます




