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8.魔句について教えてもらっているんだが・・・

 今話は一つ一つの会話文が長くなってしまいました。読みにくいかとは思いますがご容赦ください。


 やわらかい春の日差しの差す昼時、居間には和気あいあいとした、母子の声が響いていた。

 食事も終えて満腹となり本来ならうたた寝してしまいそうな状況の中、フラッドは嬉々とした表情でフラーナから教えを受けていた。



「いい?

 この間も言ったように魔句っていうのは何個かの魔法言語で構成されているの。

 何をしたいかを指す動句と、何を対象にしているかの指定句が基本の構成になるのよ。

 例えば、水を出したい時はクリエイトウォーター。

 この場合、クリエイトが動句で、ウォーターが指定句になるの。

 そこまではいい?」


「うん」



 その教えとは、以前から時々行われている、魔句についての授業だった。

 今日はポーラ達が王都に住む祖父母の家に行くとのことで、日中フラッドはやることもなく暇を持て余していた。

 家にある子供向けの本は、文字の修得のために読み漁ったため、内容をほとんど暗記しているに等しい。

 だからと言って、ガラッドやフラーナが読んでいる本を手に取っても、読めない箇所が多すぎる。

 そのため、彼は忙しなく家事をこなすフラーナに、無理を承知でお願いをした。

 結果として、昼食までには手が空くからと言われ、現状に至るのだった。

 


「いい子ね。

 それじゃ続けるわよ?

 じゃあ、魔句を唱えるだけで使えるようになるかって言うとそうではないの。

 魔句を使うには魔法言語に魔力を乗せながら唱えないと発現しないの。

 それと想像力も重要よ。頭の中でどういう風にしたいかをできるだけ鮮明に想像すると、魔力がそれに適応した形で乗るから発現後の出来がより理想に近づくの。」


「でも母さん、魔力を乗せるって・・・ 」


「そこよっ!魔力自体は人間や亜人、魔物から植物まで生命(いのち)を持つありとあらゆる存在が持っているものなの。

 まぁ、個体や種族によって持っている魔力の量は違うけどね?

 だから、あなたも魔力を持っているのよフラッド。

 ただ、魔句を使うにはそれなりに量がいるから、もともと持っている量が少ないと使えなかったりするの。

 でも、あなたはお母さんとお父さんの間に生まれたから魔力保有ry…魔句が使えるのは確かよ!」


(普通に魔力保有量って言えばいいのに・・・

 よくよく考えたら、俺、三歳児だったな。

 それでも十分難しいこと言ってるけど。

 それと、口振り的に魔力量は遺伝するみたいだな)

「それは解ってるんだよ?

 僕が知りたいのは、どうやって魔力を乗せるの?ってことなんだけど」


「ごめんね!お母さんまた脱線しちゃった。

 話を戻すわね?

 で、魔力を乗せるには、まずは魔力を使えるようにしなきゃいけないの。

 だから最初の内は、自分の中の魔力の動きを感じるところから始めるのよ!」


「母さん、そこまでは今までので解るんだ。

 でも、魔力の感覚がわからないんだ。

 母さんは、私たちの子だから出来るっていうけど、どれが魔力の感覚なのか判らないから聴いてるんだよ!」


「そうだったのね。

 そしたら、お母さんが魔力を流してみるからそれを感じ取って覚えるのよ?

 ――私もあの人も何となくこれだって判ったから…」



 そう言うと、フラーナはフラッドの手を取り、何かを念じ始めた。

 すると、いつも感じていたものの内、とても穏やかでどこか冷たさのある感覚が、激しく主張し始めた。

 それはまるで、長距離走をした後の、今にも破裂しそうな心臓の鼓動のようである。

 今まで激しく動くことがなかったためか、急な運動をした時のような不快感を感じフラッドはふらついてしまう。



「少し強く動かし過ぎたみたいね。

 今は魔力酔いって状態だから少し休みましょうか」


「う゛ぅ゛・・・きぼぢわるい゛ぃ゛」

(吐きそう…)


「少しすればよくなるから、ね?

 でも、魔力の感覚はわかったでしょ?

 後はその感覚を意識していけば、自然と動かし方もわかるようになるから、一緒に頑張りましょ!」


「…う゛ん」

(あの呟きからして、多少失望されたかも知れんから何とか巻き返さないとな)



 フラーナの呟きで決意を新たにしてから少し経ち、フラッドを襲っていた不快感はまともに思考できるほどには回復した。

 そして、あの感覚を忘れないうちにと、フラッドは身体の内をめぐるソレへ意識を向けた。

 初めの頃は、冷たくも妙に穏やかな感覚であったため、他の雑多な感覚の中に埋没しかけていた。

 しかし、フラーナに刺激された今となっては、冷たさはそのままに、ドクッドクッと耳朶に響くかのような力強い鼓動を感じさせる。

 その感覚を前世の血流などの知識を基に動かそうと意識してからどれほどの時間が経ったのか、休憩の合間に食材を買いにでたフラーナが帰宅した。



「ただいま。

 フラッド、調子のほうは・・・!」



 帰宅してフラーナが真っ先に感じたものは、春にも関わらずひんやりとした室温と、その中に混じる少量の魔力だった。



(何?この魔力。

 魔道具の故障にしては魔力の量が少ないし、もしかして・・・)



 そう思い、魔力の発生元と思われる場所へ視線を向けると、そこには目を瞑り瞑想をするフラッドの姿があった。

 まだ当分先だと考え伝えていなかったことの中に、魔力の質が高い者には得意属性というものが生じ、その者が初めて体内の魔力を循環させたとき、周囲へその属性に応じた小さな影響与えるといったものがあった。

 今、自分の居る空間全体に広がるこの現象が、知識にある息子のソレだと思い至ったフラーナは、未だに瞑想を続けるフラッドへ声をかけた。



「フラッド?フラッド!

 帰ったわよ!」



 フラーナの呼びかけに、ようやく彼女が帰宅したことに気づいたフラッドは気の抜けた返事と共に部屋の寒さに驚いた。



「ん?母さんおかえり…って寒っ!?

 なにこれ?母さん何かしたの?」



 部屋の異変の原因が自分にあると知らないフラッドに、ほんわかしながらフラーナは説明する。

 フラーナの説明を受け、自分の保有する魔力の質が良いこと、それに付随して魔句の才能があることを知り、控えめなガッツポーズをとるフラッド。

 フラーナはそんな息子の様子に自然と笑みが零れる。



(あとは魔句を使えるように魔力操作の練習ね)

「そしたら、後は魔力をより正確に動かせるようにするの。

 十分にできるようになったら初歩の魔句を使ってみましょうか」


「え~

 母さん、もう十分に動かせるから魔句教えてよ!」


「ダメよ?

 魔力をちゃんと動かせるようにならないと暴発するんだから」



 子供らしく我が儘を言う息子(中身は大人だが)を窘めるフラーナ。

 しかし、そんなフラーナの言を無視し、フラッドは赤子の時にフラーナが唱えていた魔句を行使するのだった。



「いいもん。

 ええと、確か・・・」


「ちょっ、待ちなさいっ!」


「クリエイトファイア」



 身体から何かがすぅっと抜けるような感覚と共に、フラッドの指先に青い小さな炎が灯る。

 通常、魔力操作を覚えたばかりの時に魔句を行使すると、必ずと言って良いほど暴発し、その魔句の規模や難度によって小爆発や、身体の一部が消失するなど、異常が起こる。

 そのため年齢に関わりなく、魔力操作を覚えたばかりの者は、最初はその習熟に専念させられる。

 しかし、フラッドは魔句を初めて行使したはずなのに、暴発することなく発動させた。

 その事実にフラーナはただただ驚愕し、自分たちの子供の才能と将来に、心の内で歓喜した。

 前世の記憶があったため、習熟が早かったと言うのが大きな理由だが、それに隠れてフラッド自身の血筋による影響も少なからずあった。

 フラッドの両親たるガラッドとフラーナ。

 二人はプロデンス学園という、国の名を冠す王立学校、魔句師科を上位の成績で卒業した所謂エリートであった。

 魔力は遺伝する。

 そんな二人の間に生まれたフラッドには、必然的に魔句の才能という下地が備わっていた。



「母さんできたよ!

 だから魔句、教えてくれるよね?」


「え、ええ。

 でも心配なのは変わりないから、魔句を覚えるのと一緒に魔力を動かす練習もしてね?」


「うん!」



 本格的な魔句の講義の確約に、快活な返事を返すフラッド。

 改めて息子の才能に驚きを感じるフラーナは、これからのことについて考えを巡らせる。



(暴発もなしに魔句を使うなんてね。

 私やあの人でも難しいわ。

 この子は得意属性が氷属性みたいだし、そっち方面をメインに教えようかしら?

 あの人帰ってきたら驚くでしょうね)

「ふふっ」



 最愛の人のリアクションを想像して、思わず笑みが零れるフラーナ。

 早速なにか新しいものを教えてほしそうにソワソワするフラッドを優しくなでながら講義を再開する。



「それじゃ、これからお母さんがこの桶に水を張るから、

 その水に対して フリーズウォーターって唱えて?

 上手くできれば凍るはずだから。」


「わかった!フリーズウォーターだねっ?」


「ええ。いくわよ?クリエイトウォーター」



 彼女がそう唱えると、桶の中に水が生成される。

 矢継ぎ早にフラッドが唱える。



「フリーズウォーター!」



 桶一杯の水を凍らせるようとしたためか、先ほどよりも多く抜けていく感覚と共に、桶を満たしていた水が一秒にも満たない時間で凍りついた。

 出来上がった氷は、一切の曇りなく磨かれた水晶のように透き通っていた。



「すごいわ!初めてでこんなに綺麗に凍らせるなんて、才能がある証拠ね!」


「う、うん」



 魔句が成功して嬉しい気持ちはあれど、不快感に襲われ曖昧な返事をしてしまう。

 フラーナに魔力を動かされた時ほどではない、然ども無視できない不快感があった。

 息子の様子に合点がいったフラーナは再度休憩を提案する。



「さすがに桶一杯は早かったわね。

 落ち着くまで休憩しましょうか。

 そのあとに、魔力を動かす練習ね?」


「うん」



 その後、魔力操作の練習と休憩を交互に行い、気が付いた頃には夜になっていた。

 そろそろガラッドが帰ってくるころだということで、フラーナは台所で夕飯の支度をしている。

 午後の間、絶え間なく続けていた魔力操作の練習に飽きてきたフラッドは、気晴らしにコップの水を宙に放つと、魔句を唱える。



「フリーズウォーター」



 宙に放たれた水は、魔句により氷に変わると、その勢いをそのままに飛んでいく。

 すると、タイミングを見計らったかのようにドアが開き、帰宅の挨拶と共に野太い悲鳴が上がった。



「ただいm――ぐほぉっ!?」



 フラッドの放った氷は放物線を描きながら帰宅したばかりのガラッドの下腹部に当たり、突然の出来事と少なくない痛みにガラッドは膝をつく。



(あ~やべぇー

 クリーンヒットしたぞ。

 予想に反してこぶし大ぐらいの大きさになっちまったし、不意打ちであれは結構くるよなぁ)


「うぐぅ・・・

 これは氷?もしかしてフラッド、お前がやったのか?」



 下腹部からくる痛みからか、弱弱しく尋ねるガラッドに、フラッドは申し訳なさそうに謝る。



「・・・父さんごめん。

 母さんに教えてもらって魔句が使えるようになったから試したくて・・・」 シュン


「そうか・・魔句を使えるようになったのか・・・

 さすが私とフラーナの息子だ。

 それに、的確に相手の弱点を狙うあたり・・・・

 いい・・センスだ・・・。」


「別に狙ってないよ!たまたま使ったら父さんが帰ってき

 て・・・」


「どうしたの?そんなに騒いで・・・ってガラッド!?

 どうしたの?何があったの?」



 倒れるガラッドを開放しながら事情を聴いたフラーナは、何となくで魔句を使ったフラッドを魔物も裸足で逃げ出すほどの様相で叱った。

 そのあまりの様相に、被害者であるガラッドまで一緒に縮こまっていた。

 説教も終わり食事となり、三人は繊維が崩れるまで煮込まれたイノシシ肉のシチューと程よい硬さの黒パンをつつきながら今日一日の出来事を語らった。


お読みいただきありがとうございます。

前書きでも触れております通り、今話は会話文一つ一つが長くなっており、人によっては非常に読みにくいものになってしまったかと思います。

なるべく読みやすくなるよう努力しますので今後ともよろしくお願いします。

改めまして誤字・脱字等、ご指摘いただいたものに関しては極力修正していく予定ですのでよろしくお願いします。


次話は2/17を予定しています。

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