78.話が広まるのが早いんだが・・・
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アルゲンとの決闘から半刻。
フラッド達の姿は教室へと移っていた。
「しっかし、ホントに耳が早えよなぁ」
イワンが周囲を舐めるように見渡した後、感心したような呆れたような様子でそう言うには訳があった。
◇
決闘を終え、フラッド達が教室へと移動する道中、すれ違う生徒から漏れ聞こえる会話の大半が先ほど終わりを迎えたばかりの決闘についてであったのだ。
それだけならば、廊下と言う場所もあり決闘の観戦を終えた生徒たちが道すがら話すことで広まったのだろうと予想が付くのだが、事実は少々違っていた。
フラッド達があと少しで教室に付くと言う頃、前方から大勢の人間が大挙している時特有の喧騒が聞えてきたのである。
嫌な予感がすると思いつつも、フラッド達が教室を視界に映したとき、そこにはいつもの教室だけでなくその入り口や窓にたむろする大勢の生徒たちの姿があったのだ。
その生徒たちは、演習場から最も近い1年生だけでなく2年、3年等の生徒たちの姿があった。
その誰しもが、先の決闘で奮戦せしめたフラッドに興味を示し大挙していたのである。
もはや群衆とも言っていいその数に面倒くさそうなものを見たというような顔をするフラッド。
しかし、フラッドを除く他の面々は特に気にした様子もなく、むしろこうなることは当たり前だといった様子で歩を進めていく。
かく言うポーラに関しては、他の面々同様このような状況に慣れているわけではないのだが、恋は盲目、好きな男子が大勢に評価される何とも言えない高揚感に、胸を張る始末である。
そんなわけで止まることなくフラッド達が教室へと近づいていくと、野次馬の外周に居た生徒たちがその存在に気付く。
『おい!例の一年首席が戻ってきたぞ!』
『マジか!てか、まだ戻ってなかったのかよ』
『フラッドさんよ!今のうちに仲良くならないと』
『…平民の癖に調子に乗りやがって。
アルゲンもあんな奴に負けるとはな』
『あの魔句、今度こそ話を――!』
『『『―――ッ!―――。――、―――!?』』』
一人の声をきっかけに大勢の生徒たちの視線をフラッド達を襲う。
性根は小市民であるフラッドは、その視線に一瞬とは言え身を硬め、この後大挙してこちらに迫ってくるであろう生徒たちの姿を想像し、それに備える。
一方フラッドを除く五人は変わらず堂々とした姿を維持したまま進んでいく。
そして数瞬。
生徒たちが動き、フラッドもある種の覚悟を決めたと思えば、生徒たちはフラッドの想定とは違い、押し寄せるのではなく大海に出来る道のように左右へと割れたのだ。
これに虚をつかれたフラッドは間の抜けた顔をしてしまうのだが、タイミングを見計らったかのように右腕に抱き着くポーラに引かれ、その歩みは止まることがなかった。
そうして漸く教室へとたどり着いたフラッド達一行を出迎えたのは、先ほどまでと変わらぬ決闘についての話と、クラスメイト達の視線であった。
◇
イワンの言葉を受け、数十分前の出来事を思い出すフラッド。
イワンの感想は他も同じだったのか、ルークにティア、レギーナも同じような表情をしていた。
「ハハハ、まさかこんなにも早く話が広まるとはね。
それだけフラッドが注目されているってことなんだろうけど…」
「それにしても早すぎると思いますわ。
決闘を終えて今に至るまで半刻ほど経っているにしても、この広まりようはおかしいですわ」
「人もまだ増えてる」
レギーナの言葉に教室外へと視線を向けると、たむろする生徒の数もそこから聞こえてくる喧騒も、当初に比べ着実に増えていることが窺える。
「俺が首席だからッとか、入学早々二回目の決闘をッだとかでそれなりに注目されるのは覚悟してたけどさ、流石に人が集まり過ぎッていうか、色々早いとは思ってる。
もしかしなくても、アイツが何かしたんだろうけど…もしかして報道とかか?」
フラッドが一つの可能性を口にすると同時に、声が掛かる。
「フ、フラッド君。
決闘おめでとう。フラッド君ってやっぱり凄いんだね」
そう気弱に声を掛けてきたのは、入学初日マーシーと共に入室し注目を集めたニックであった。
最初フラッドが声を掛けたきりで終わった二人である。
たったそれだけとは言え嫌われてしまったかと思っていたフラッドは、突然の、それも想定外の人物から声を掛けられたことで一瞬戸惑ってしまう。
「えと、ニック君だったよね?
ありがとう。
でも、急にどうして?」
フラッドに名前を憶えられていたのが嬉しかったのか、名を呼ばれ少し顔を綻ばせるニック。
その後に続く問いに、ニックはまたも遠慮がちにその口を開く。
「そ、その。
フラッド君がアルゲン?様と決闘を始めた時に先輩方に頼んで決闘の様子を教室でも見れるようにしてくれたでしょ?
そこで見たフラッド君の闘いが――」
「ちょっと待って。
今教室で見れるようにしてくれたって言ったけど、それって」
ニックの言葉にフラッドは待ったをかけると、その事について問いかける。
「え?
あれってフラッド君が用意してくれたんじゃないの?
ここに来た4年生の人がそう言ってたし、それに他のクラスも同じみたいだったし…」
(アイツの仕業で間違いないだろうけど、そこまでやるか?
アイツがそれを考え付くのはまだわかる。何せ転生者みたいだしな。
でも、アイツの力で全教室、それも学年の垣根を越えて用意するなんてことは絶対に不可能のはず。
仮にそこまで出来るんなら、決闘ももっとデタラメな感じになってたはず。
けど、アイツと同じ思想の奴が一定数が居るのは、観戦席を見た時から解っていた。
だから、その中にこれを実行できるだけの奴が居て、アルゲンはソイツとの繋がりがある。
むしろアルゲンはソイツに上手く使われてるんじゃないのか?
って、いきなりこんな陰謀じみたもんが起きるはずがないか。
そもそも、顔も名前も知らない奴にそこまでされるようなことをした覚えがないからな。
取り敢えず、どんな感じだったかだけ聞くとするか。)
「ニック君、それは俺が用意したわけじゃないんだ。
だから、覚えている範囲でどんなことをやってたか教えて欲しいな」
「そ、そうなんだね。
そういうことなら、最初から説明するね。
最初は――」
ニックの説明を聞き始めるフラッド。
この時フラッドが想像したことはあながち間違いではないのだが、その事に気付くのはまだ先の話であった。
お読みいただきありがとうございます。
投稿予定日を打ち間違えていたようで、遅れてしまい申し訳ありません。
次話の投稿については8/9を予定しています。
引き続きよろしくお願いいたします。




