76.アルゲンとの決闘を終えたんだが・・・
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耳が馬鹿になりそうなほどの喝采の中、フラッドはつい直前に知ることとなったある事実に身を固めていた。
(こいつ、今、なんて言った?)
その表情はありえないものを目撃したかのような驚愕に塗りつぶされていたが、俯き立ち尽くしているせいもあり観衆はその事に気づかない。
むしろ、その姿を見て勝利を噛み締めているのだと勘違いされているほどである。
観衆の思いを他所に、今知ることとなった事実が間違いでないかと、フラッドは思考をめぐらせ始める。
(こいつ、チート野郎って言ったよな?
この世界での横文字は、俺が知る限りでは魔法言語か魔物の名前ぐらいでしかない。
仮に魔法言語としての意味を理解してたとしてもだ、俺と同い年で読み解けてたとしたらBクラスじゃなく、確実にAクラスになってたはずだ。
そう出ないにしても、せっかく読み溶いた魔法言語をいきなり罵倒に使うことはまず無いはずだ。
それ以外で意味を理解してた使う例と言ったら…)
幾数回も仮説を立てては否定してを繰り返すフラッド。
フラッドが、悪癖とも言えるそれに入ったのを好機と見たのか、審判を務めていた取り巻きは早々に終了の宣言をすると、もう一人と共に魔力が枯渇し気絶したアルゲンを運び出していく。
その姿に観戦席からは非難が飛ぶが、アルゲンを運び出す取り巻きも、思考の海に沈んでいるフラッドも意に介さない。
そして、アルゲンたち一行の姿が演習場から消えて幾ばくか、フラッドも何度目だか解らない仮説の否定を経て、最初に、真っ先に考え出たものが一番真実に近いものだと結論付ける。
(・・・つまりあいつは、俺と同じ転生者って訳か)
そう結論付け、ふとフラッドが周りの様子を窺うと、既に対戦相手で会ったアルゲンたちの姿はなく、代わりにポーラ達級友が近づいてくる姿が目に映る。
既に決闘が終わっていることは理解していたフラッドだったが、少しの間考え事をしている間に、状況が大きく動いている事実に脳の処理が追い付かず困惑してしまう。
そんなフラッドに追い打ちを掛けるように、いの一番に駆け寄ってきていたポーラのダイビングハグがフラッドを襲う。
「ぐほっ!?」
「流石フラッド!
凄くかっこよかったよ!
あの・・・なんだっけ?え~と・・・とにかく、あの感じの悪い貴族に買ったんだもん!
これでフラッドの事を悪く言う人は少なくなるね!
・・・でもフラッドがこれ以上モテちゃったらどうしよう…」
抱き着くや否や捲し立てるようにそう言うポーラ。
一方フラッドはと言えば、柔らかくとも人一人がぶつかる衝撃に苦悶の表情を浮かべる。
そんなフラッドもオーラの最後に言ったことが聞こえず、聞き返そうかと一瞬考えるも、前半の様子から恐らく少し恥ずかしい誉め言葉を行ったのだろうと自己完結する。
そんな風に、いつも通りと言えばいつも通りなイチャつきを披露していると、遅れてルーク達がやってくる。
「二人は本当に仲がいいね」
「ルーク、これは仲がいいと言うのではなくて、イチャついていると言うのですわ」
「ポーラはフラッドの事が、好き?」
「まぁいいんじゃねぇか?
どっちかが嫌がってるならまだしも、そう言うわけじゃねぇしな。」
目の前で展開されていることに思い思いの言葉を残す四人。
レギーナの言葉に本人を除く全員が驚きの顔を浮かべる中、代表として付き合いの長いイワンが確認を入れる。
「レギーナ、お前今更それを聴くってことは、もしかして気付いてなかったのか?」
やや呆れの含まれたイワンの言葉とその表情に、レギーナとしては納得が行かないのか無表情をそのままに、風船のように頬を膨らませ抗議する。
「むぅ。
イワンがそういうことに気付いてるのが釈然としない!
本当ならイワンが一番鈍感なのに」
「なんだよ?
お前の言い方だと、まるで俺が鈍感みたいに聞こえるじゃねぇか。
俺はこれでもこういう事には敏い方だぞ?」
「・・・フラウとかタニアの気持ちには全く気付いてないくせに…」
「ん?
今なんて言ったんだ?」
「イワンが敏いなんてありえないって言った」
「んだと!?」
二人の共通の知人であろう名前を挙げながらレギーナがぼそりと呟くも、イワンはそれを聴きとれずしまいには言い争いを始める二人。
(ふはッ!
リアルでこんなやり取りが見れるとはね。
でもイワンよ、女の好意に敏い男なんてそうそう居ないぞ?
大体が、勘違いしてるか、勘違いだと思って見落としてるのが大概なんだよなぁ。
その点で言えば俺もそうなんだが、まさかポーラのコレも勘違いだったり・・・?
いや、それはないはずだ!
少なくとも、好きって言われたことがあるから程度の違いはあれど好意は寄せられているはず!
俺的に少し怪しいと思ってるのはティアなんだが…これは勘違いの可能性が高いから要観察だな)
イワンとレギーナのやり取りに耳を傾けていたフラッドはまるで物語にあるような展開だと内心面白がりながらティアとルークへ視線を向ける。
その先には、何時ものように呆れた顔をするティアと苦笑いを浮かべるルークの姿があった。
「はぁ。
フラッドとポーラは言わずもがなですけど、イワンとレギーナもこうだったことを忘れていましたわ。
まったく見せつけられるこちらの身にもなって欲しいものですわ」
「ハハハ。
イワンもレギーナも、お互いに自分の気持ちに気付いていないからね。」
「自分の事は気づき辛いとは言いますけど、見ている者としては焦れったいと感じてしまいますわ」
「だからと言って、あの二人みたいに堂々とされ過ぎてもどうかと思うけどね」
「それもそうですわね」
(んん~やっぱり勘違い説が濃厚だな。
てか堂々とってなんだよ!
俺だってやりたくてやってるわけじゃねぇんだぞ!
むしろ公衆の面前でとか恥ずかし過ぎて、毎度毎度死ねるぐらいだ!
…だ、だからと言って、二人きりの時にこんなんされたら、それはそれで…
んなことより、そういうお前等だって傍から見たらそれっぽい感じだからな?)
込められた感情が原因か、はたまた露骨に過ぎるものだったのか、フラッドの視線に気が付いたティアは話題をそのままにフラッドへ話を振る。
「フラッド?
まさか、私とルークがお似合いとでも思ってますの?
もしそうだとしたら、少しばかしお話が必要ですわね?」
「んなッ!
そんなことは考えてないんだけどなぁ?」
「フフフ。
私だって何年も貴方の事を見てますのよ?
ポーラ程では無いにしても、多少の嘘なら見抜けますことよ?」
「ッ!?」
「まぁまぁ、落ち着いて。
僕達だってさっきまであんなことを言っていたんだ、それを聴いたらフラッドだってそう言うことを考えてしまうだろう?
それとフラッド、もし君がそう考えていたとしたらそれは間違っていると伝えておくよ。
基本ここではこの手の話をしたくはないんだけど、僕とティアでは爵位に差があり過ぎてね、仮にそうだったとしても結婚とかはできないんだよ。」
「特にそう言うことを考えてたわけじゃないけど、仮にそうだとしても第二、第三夫人としてなら問題ないと思うんだけど」
「まぁ、確かにフラッドの言う通り第二、第三としてなら問題はないんだけどね。
これはティアに失礼かもしれないけど、僕は彼女をそう言う目で見てないんだ。
どちらかと言うと、気軽に相談ができるような友人として見てる。
それに、彼女は僕なんかより君n――」
ルークが話している途中、横合いから殺気とも取れる圧と共に、何処となく怖気の走る声がかかる。
「ルーク様?」
「――これ以上は僕の命が危ないから言えないね」
光の消えた半眼でルークを見据えるティアに、ルークは身の危険を感じ言葉を止める。
途中で切られたことにより続きが気になったフラッドであったが、同様に有無を言わさぬティアの視線と、心なしか強くなったポーラの抱き着きにソレを断念する。
「…やっぱりティアも…」
耳元で何か聞こえたような気がしたフラッドだったが、それはあまりに小さく上手く聞き取れないのだった。
お読みいただきありがとうございます。
前回に引き続き一週間も投稿が遅れてしまい申し訳ありません。
また、内容に関しても中途半端になってしまったこと重ねてお詫び申し上げます。
次回投稿については7/26を予定させていただきます。




