75.アルゲンとの決闘をしているんだが・・・④
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十分な気迫を纏い剣を振るう二人。
それまでの子供故のあどけなさは息を潜め、何時の間にか真剣そのものと言った表情へと変貌していた。
「フゥゥ!」
「ハァァ!」
鋭い呼気と共に互いの剣をぶつける二人。
刃と刃が触れたと思えばジュゥゥと高温に熱せられた鉄を水に付けたかのような音とともに、相応の蒸気が発生する。
それはアルゲンの炎とフラッドの氷が拮抗している音であった。
炎は、自身に立ち向かう氷を全て溶かしきらんと、対する氷は周囲も、目の前で轟轟と燃え盛る炎の熱をも奪い去らんと、それは二つを使う使い手も同様に互いを押し切らんと鍔迫り合いとなる。
「この私が!お前のような平民風情に負けるわけにはいかんのだ!」
「俺だって!ポーラが!皆が!見ている手前そう易々とやられるわけにはいかないだよ!」
そう叫びを挙げながら鍔迫り合いをする二人。
不幸にも二人の膂力は同等なのか、どれほど力を込めたところで状況が変わることは無い。
「調子に、乗るな!
私は真の貴族だ!あの負け犬と違い、真の帰属たる私が、平民如きに負けるなどあってはならんのだ!」
(クッ!?コイツただの悪役貴族のボンボンだと思ってたが、想像以上に力がありやがる!)
アルゲンの感情が高まった為か、ソレに応じ膂力も魔力もその力を強くする。
「お前が、イワンをバカにすることは許さない!」
(お前がイワンの何を知ってるって言うんだ!
俺もほとんど何も知らないが、それでも、少なくとも俺はアイツの実力を垣間見てるんだよ!
何も知らないくせに、人の事を下に見てんじゃねぇぞ!)
少なくとも前日の決闘で、一瞬とは言え互いの実力を垣間見、ソレを認めあったフラッドからすれば、アルゲンの発言はその時間すらも否定するに等しく感じたフラッドは、自覚のないままにその感情を昂らせていく。
そうして、再度互いの力が拮抗した瞬間。
互いに示し合わせたかのように交えた剣を離したかと思えば、また打ち付け合う。
「平民風情がぁ!」
「こんのぉ!」
一撃、二撃と刃を交える二人。
その度に周囲には炎による熱と、氷による冷気が舞い、魔力の奔流を生み出していく。
それは剣戟が積み重なるにつれ次第に観戦席にも伝わりその余波が伝わり始める。
「平民が!調子に乗るなぁ!お前等平民は卑しくわたしたち貴族に首を垂れていればいいんだよぉ!」
「うるせぇ!他人を下にしか見れないバカ貴族は黙ってろ!」
互いに感情が昂っている為か、普段なら口にしないような本音を口にしながら幾度となく剣を交える。
その姿は、剣が触れ合うたびに発生する蒸気により視認し辛いものであるが、その間も聞こえる鉄と鉄とが奏でる甲高い音と両者の怒号、そして蒸気の中から垣間見える激しい戦いに、観戦席に居る生徒たちは魅せられてしまう。
それはイワンの時とは違った泥臭さに満ちた闘い。
しかし、それは確かな熱を持った戦いでもあった。
「「ハァハァハァ」」
無限にも続くかと思えた剣の結びあい、否殴り合いと言った方が正しいだろう。
そんな二人の闘いは、突如として互いが距離を取ることで終わりを迎える。
「ぜぇ…ハァ、ハァ…」
(俺は何をムキになってんだ?
普通に魔句を使えばいいのに)
それまでの闘争で乱れた息を正しつつそう思ったフラッドは正面の相手へと視線を投げる。
その思いは相手も同じだったのか同様にフラッドを見据えるアルゲンの姿が映る。
まるで早撃ちをするガンマンのように互いに様子を窺う二人の緊張感が伝播したのか、何度目ともつかない静寂が演習場を満たす。
それは一瞬か、はたまた数分か、時間の間隔が曖昧になってくるほどの静寂の中、再度二人は示し合わせたかのように動き出す。
「ッ!アイスバレット バースト シュート」
「ッ!ソイルグラベル」
互いに右回りに円を描くように走りながら魔句を詠唱する。
詠唱の長さ故にアルゲンの礫の方が先に完成するも、射出込みの詠唱と、わざわざ射出する事を付けるのでは違いがあるのか、遅れて完成したフラッドの氷の弾丸はアルゲンの放つ土の礫とつぶし合う。
互いに魔句が有効打にならないことを悟った二人は、魔句の詠唱を続けたまま剣戟を再開する。
魔句を放ちつつ剣を交えるのは多大な集中力を要するのだろう、二人の顔や体に互いの魔句による生傷が増えていく。
しかしそれまでの鍛錬の賜物か、転生してからこの片、強くなるために前世では遠く及ばない程の努力をしてきたフラッドである。
当初ほどの強度ではないとは言え今なおシールドを維持し続けていた為、身に生じる生傷も少なく、次第に優勢になっていく。
「クッ!この私が、押されている!?
たかが平民風情に!
あり得ない!あり得ない!」
攻撃用の魔句を詠唱し剣を振るいながらも、シールドを維持するその技量の差か、ただ単に身体に増える生傷が相対する相手よりも多い現実が受け入れられないのか、どちらにせよ目に見えて明らかになっていく実力差に叫びを挙げつつ更に魔句を詠唱するアルゲン。
(チッ!正直甘く見てた!
普段の様子からってのもあるけど、Bクラスってことで何だかんだ楽勝だろとか思ってた自分を殴りてぇ!
こいつ、実力だけならAクラスに入れるんじゃねぇか?)
一方フラッドは鬼気迫る表情で攻撃を繰り出すアルゲンを相手取りながら己の浅はかさを悔やむ。
(流石にこれ以上生成量を増やして戦うとなると、制御に自信がないから…シールドの展開分を攻撃に回して押し切るしかない!)
身を覆うシールドが無くなったのもあるだろう。
だがそれ以上に限界が近い故の全力か、苛烈さをますアルゲンの攻撃にフラッドの生傷が増えていく。
そして互いに少しずつ消耗していく中それは起こった。
突如としてアルゲンの剣で轟轟と燃えていた炎が消えたのだ。
アルゲンの魔力が底をついたのだ。
その事実に遅れて気付いたアルゲンは剣の動きを鈍らせる。
フラッドがそんな絶好の好機を逃すはずもなく、アルゲンの剣をはじき出し間合いの内へと入り込む。
弾かれた剣を咄嗟に手放し、近づくフラッドを殴り飛ばそうとするアルゲンよりも早く、フラッドは手にした剣の柄を力強くその鳩尾へと打ち込む。
急所の一つであるそこから伝わる強烈な衝撃に、アルゲンの身体はその意志とは関係なしに膝をつくこととなる。
それは誰しもが容易に想像できる痛みであり、アルゲンが膝をつくと同時に盛大に嘔吐することを責める者は居ないだろう。
体だけでなく脳までもを犯す衝撃に顔を顰めたアルゲンは憎々し気にフラッドの顔を見つめる。
「この化けm・・・チート野郎め…」
そして、その言葉を吐き捨てるとアルゲンは意識を手放した。
その瞬間、演習場を万雷の喝采が満たす。
この決闘の勝者が決まった一瞬であった。
お読みいただきありがとうございます。
またも投稿が遅れてしまいもし訳ございません。
それでもどうにか一日遅れで済ませることが出来ました。
そして今話でひとまずアルゲンとの決闘は終了です。次話ともしかすると次々話は決闘の後処理回になるかと思います。
次話の投稿予定は7/12とさせていただきます。
今後とも当作品をよろしくお願いします。




