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73.アルゲンとの決闘をしているんだが②・・・

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発言と同時に駆け出したアルゲンのそれは、本来の実力を出したのか、はたまた怒りによりリミッターが外れたのか、先ほどまでのものとは比較にならない速さであった。



(んなっ!

 急に早くなりやがった)



 フラッドからの魔句を警戒してか、最初とは違いジグザグと蛇行しながら距離を詰めてくるアルゲン。

 しかし、それを呆然と見ているわけにはいかないとフラッドは迎撃に魔句を唱える。



(ポーラの発言の手前、情けないところを見せるわけにはいかんからな!

 ・・・もしんなの見せたら今後の学院生活が不安でならんしな。

 と言うことで、こっちも迎撃させてもらうぞアルゲン!)

「アイスバレット バースト シュート!」



 フラッドの撃ちだした氷の弾はバースト射撃よろしく蛇行し、迫り来るアルゲンへ飛翔する。

 しかしアルゲンの移動速度に因るものか、そもそもの飛翔速度に因るものか、氷の弾は走りくるアルゲンの後ろに着弾していく。

 何発か放ったなかで、幾つかかがアルゲンに着弾したのだが、その幾発かもアイスランスを防いだシールドにより意味を無くす。

 そうこうしている間にフラッドとアルゲンの距離は詰まり、お互いの武器が届くまでに近づく。



「お前の魔句もたかが知れているな!

 あの女があそこまで言うから少し警戒してみたが、これならその必要はなかったな!」


(さっきまでアイスランスであれだけビビってたくせに、シールドの効果見てコレかぁ。

 ホントに調子いいなぁ)



 フラッドがアルゲンの言葉に呆れを感じていると、アルゲンは手にした剣を横薙ぎに払うとともに魔句を放ってくる。



「フゥハッ!

 ソイルグラベル」


「クゥ」



 アルゲンの横薙ぎを剣で受けつつ、フラッドは礫を防ぐべく魔句を唱える。



(・・・バリア使ってみるか?

 アイツが使えるわけだし、俺にも使えるはず!

 そもそも魔句はイメージだって話だしな)

「バリアッ!」



 フラッドが自分を覆う透明な膜を想像しながら魔句を唱えると、彼を中心に薄く水色掛かった半透明な球体が生成される。

 生成されたその膜は、アルゲンの詠唱により放たれた土の礫を弾くだけでなく、受け止めていた剣さえもその外へと押し出していく。



「クォ!?

 なんだこれは!

 これがバリアだというのか!」



 目の前で展開されたものが彼の知るバリアと大きく違うのか、目を驚愕に見開くアルゲン。

 それは観客も同じだったのか、観客席に動揺と驚愕の入り混じったざわめきが広がる

 通常バリアの魔句は一部にのみ展開できるもので、今フラッドが展開しているように全方位をカバーできる代物ではないのである。

 さらに、あくまで魔力による攻撃を防ぐだけであり、矢や剣撃等の物理攻撃を凌げるようになるのは上位魔句であるシールドからなのである。

 つまり、フラッドが展開したバリアは一般にそれとされるものとは似て非なるものなのである。

 


『バリアって唱えてたよな?』


『確かにそう聞こえたけど、でもあれって…』


『剣を押し返した!?』


『なんか主席の全体を覆ってないか?

 それに、なんか水色掛かってるっていうか…

 バリアって透明だったような気がするだが?』


『なんか白い靄みたいなの出てない?』



 フラッドのバリアから漂う薄い霧のような靄や、全身を覆うその様を見て、観戦席の者達は更に騒めく。

 込められた魔力に因るものなのか、その靄は冷気が可視化したものであった。

 その証拠とばかりに、魔句により押し出されたアルゲンの刀身にはうっすらと霜のようなものが掛かっていた。



(なんだ?

 実際のバリアと違うのか?

 でも、実際にコイツの魔句を防いだわけだし、効果としては間違ってないはずなんだが?)


「何を唱えたかはわからんが、氷の魔句だと言うのなら炎で対処すればいいだけだ」



 フラッドが自分の魔句への周りの反応に戸惑いを覚えているのを置いて、アルゲンが飛び退きながら魔句を唱える。



「ファイア」



 アルゲンの詠唱により魔力が炎を形作る。

 火炎放射器さながらに噴出した炎がフラッドのバリアに触れたかと思えば、瞬く間に全体を包んでいく。



「フハハハハッ!

 どうだ?これであればお前の魔句も役に立つまい!」



 魔力の炎がフラッドを包み込んでから数十秒。

 フラッドからの反応がないことから、攻撃の有効性を確信したアルゲンが高らかに笑い声を挙げる。

 魔力の供給を絶たれた魔句が、その効果を失いゆっくりと霧散した先には未だ健在なバリアに身を包んだフラッドの姿があった。



(・・・フゥ。

 全身包まれたから流石にまずいかと思ったが…割と平気だったな。

 意外なことに熱も伝わってこなかったし、魔句による炎って熱は伴わないのか?)


 決闘よりも魔句への考察に思考がシフトしたフラッドの無防備とも言えるその姿に、魔句に焼かれ膝をつく姿を想像していたアルゲンは驚愕よりも先に怒りを露わにしていた。



「ふ、ふざけるなぁ!

 なんなんだお前のソレは!

 不正だな!?観戦席に上位魔句を使う者を忍ばせているんだな?

 おい、審判!こいつは不正をしている!

 即刻確認しろ!」



 実力よりも先に不正を疑ったアルゲンは、即座に取り巻きである審判へ確認を促す。

 それほどまでにフラッドの使った魔句が異常であるのだが、バリアの魔句がどういったものかを曖昧にしか理解していなフラッドにとって、その発言は不快以外の何物でもなかった。



「か、確認したところ、観戦席からの魔力反応は検知されませんでした!

 つ、つまり、その魔句はフラッドが唱えたもので間違いないものかと!」



 以外にもしっかりと確認をした審判にフラッドのみならず観客席の面々が関心している中、アルゲンだけが自分の予定通りに進まない現実に更に顔を赤く染め始める。



(へ~、そこはしっかりやるんだな)


「嘘を言うな!

 これほどの魔句。入学したての、それも平民に使えるはずがないだろ!

 貴様、私の事をバカにしているのか?

 それとも、貴様もグルと言う事か?」


「滅相もありません! 

 わ、私は決闘の審判として確認したのであって、決してアルゲン様をバカにしてるなんて――」



 凄むアルゲンに及び腰になる取り巻き。

 どうにか釈明しようと口を開くも、アルゲンは怒りに我を忘れているのか聞く耳を持たない。



「貴様、後で覚えておけ。

 ・・・お前がどんな手を使ってアレを手名付けたかはわからんが、その上で私は貴様に私は勝つ」


(おいおい、何で俺が悪者みたいになってんだ?

 そもそも不正してんのはお前であって、俺が不正やらなにやら言われる謂れはないぞ?)


「フッ!

 ダンマリとはよっぽど余裕の様だな。

 さて、これを見た後もその余裕を保っていられるか?」



 一貫性のない言動をするアルゲンは、暗い笑みを浮かべつつ手にした剣へ手を翳し、魔力を込め始める。



「見るといい。

 これがお前と私の実力の差と言うものだ」



 その言葉と共にアルゲンが更に魔力を込めると、刀身に刻印が浮き出し始めるのだった。

 

 お読みいただきありがとうございます。

 次話の投稿は6/21を予定しています。

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