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72.アルゲンとの決闘をしてるんだが①・・・

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「―――アイスランス」



 フラッドの詠唱により打ち出された氷のランスは確かな速さを持って正面に立つアルゲンへと突き進む。

 その速さは弾丸と言うには憚られるが、少なくとも狩人の放つ矢と同等程度の速さであった。

 反射神経に優れた魔物や、それなりの経験を積んだ武人であれば弾くなり躱すなり出来るであろう速さであるが、素人に、それもまだ年端もいかない学生にそのような芸当画出来るはずがない誰しもが思い、その姿を見守る。

 それは魔句を放った当人であるフラッドも同様であった。

 過去に相対した魔物(ジャイアントローチ)に対すると同じように放った魔句。

 それを放ったフラッドはそれが形作られた時点で己の過ちに気付くも止めるには既に遅く、生成された槍はアルゲンへと飛翔していたのである。



(やべっ!

 油断しないとか言ってたら威力間違えた!

 これ当たったら致命傷だろ!

 唯一救いなのが急所を避けて撃ったってことで、それでも審判の事もあるし当たったら俺の判定負けにされねん!

 頼むアルゲン!躱すとか弾くとか、真の実力を解放とかで何とかしてくれ!)



 イワンとの決闘の時とは違う、明確な攻撃の意思を乗せて人に魔句を放ったためか、はたまた敗北に対する思いからか、フラッドは焦りアルゲンへと無茶ぶりとも言える期待を向ける。

 もちろんそんなこと等出来るはずもなく、当のアルゲンは途中まで意気揚々と気持ちよく語っていたのも束の間、自身へ迫る明確な脅威に慄き硬直してしまう。

 氷の槍が間近に迫り対象であるアルゲンも含め会場に居る()()()()()者がその光景を確信したその瞬間。

 アルゲンの手足を貫くと思われた氷の槍は着弾の直前、不可視の壁に行く手を阻まれたと思えば甲高い音を立て砕け散ったのである。

 眼前で起きた予想とはかけ離れた結果に、会場の人間は思わず硬直する。



「え?」

(今、何が起きたんだ?

 確実に槍は当たったはず。

 それが甲高い音を上げたと思えばアルゲンは全くの無傷で立って…いや立ってはいないか。

 でも無傷なのは変わりない)



 状況が解らず開口し硬直するフラッド。

 そんな彼の目の前では、その恐怖から会割けなく地面に座り込み、顔を涙と鼻水に濡らすアルゲンの姿がある。

 


(こいつもこんな状態だし、あのシールド?見たいのは仕込んだものじゃないだろうな。

 じゃあ、誰かが咄嗟に施した?

 でも観戦席のどこを見てもそれっぽい様子の奴は居ないし・・・もしかして取り巻きが?)



 そう思いアルゲンの取り巻きである審判と場外で観戦してた一人を見るフラッド。

 しかし、その両方がこの状況を見てホッとした様子で胸を撫でおろしていた。



(アイツらも様子から察するに違う。

 ってことは、先生が介入って感じか?

 それなら納得なんだが、じゃあなんでその先生は姿を現さないんだ?)



 フラッドがシールドを張ったであろう教師の姿を探していると、突如前方から狂ったような笑い声が聞こえてくる。



「――ハハッ!フハハハハハッ!――」



 その狂笑の元はそれまで地面に座り恐怖に身を震わせていたアルゲンであった。

 想定外の展開に静まり返っていた演習場は、突如として響き渡ったアルゲンの狂笑で動揺が渦巻き始めていた。



(な、なんだ?急に笑い出しやがって。

 ついに頭がおかしくなったのか?)



 あまりにも唐突な行動にフラッドは怪訝そうに、それでいて少し心配するようにアルゲンを見る。

 それは観戦席にいる生徒たちも同様で、動揺によるざわめきはさらに大きくなっていく。

 そんな演習場において唯一アルゲンの取り巻き達だけが冷静にその姿を見守っていた。



「――ハハッ!

 これほどまでとは!

 いや、お前の魔句がこの程度と言う事か」



 笑い終えたかと思えば意味深な事を言い始めるアルゲン。

 そんなアルゲンの様子に未だ混乱から覚めないフラッドであったが、その後に続く言葉にようやくその意味を理解する。



「あいつ等に張らせたバリアの魔句は破られたみたいだが、シールドの方はまだまだ健在のようだ。

 先輩方に頼んでおいて正解だった。

 ・・・さて、フラッド。

 少々驚かされたが、私はこの通り無傷だ。

 つまりお前の魔句は私には効かないと言うことだ!」


(こいつ平然と仕込んでること暴露してるけど頭大丈夫か?

 ・・・いや、もともと頭はイカれてたな。

 まぁこのことを責めても審判がアレ(取り巻き)だし継続だろうなぁ)



 平然と仕込みを公言するアルゲンに呆れた視線を向けるフラッド。

 少し予想していたフラッドは、それまでの動揺を捨て継続の為構えを取る。

 そんな中アルゲンの行為を批判する声が観戦席から飛んでくる。



「そんなの不正だぞ!」


「そうよ!決闘の前に魔句を仕込むなんて、決闘をなんだと思っているの!」


「おい審判!仕事しろよ」



 次々と飛んでくる非難の声に当のアルゲンは気にした風もなく、先ほどまでの恐怖に引き攣った顔ではなく慢心に緩んだ表情でフラッドを見据える。



「なんだか外野がうるさいが、続きと行こうか。

 まぁなんだ、念のため審判に確認でもしてやろう」


(結果は解り切ってるからわざわざそんなことしないで続けて欲しいんだが)


「審判。

 この私の行為は不正や違反に該当するか?」



 不正が不正とならないことが解っているアルゲンは余裕の笑みを浮かべ、審判である取り巻きに確認を取る。



「今回のアルゲン様の行為は不正ではありません。

 よって決闘は継続します」



 もちろん審判の回答はNOであり、決闘は継続されることとなる。

 それに対し観戦者たちの非難の声はさらに激しさを増すのだが、アルゲンはどこ吹く風と気にすることもない。



「審判もこう言っていることだ。

 予定通り続けるとしよう」



 にまにまと厭らしい笑みを浮かべるアルゲン。

 解り切っていたとは言え綺麗なまでに想定道理なやり取りにフラッドは思わずため息を零す。

 その時、観戦席から聞き慣れた声が聞こえてくる。



「フラッドはどんな状況でも負けないから!

 そもそもフラッドと闘うならもっとシールド?張らないと戦いにならないもん!

 だからフラッド、サッサとそいつ倒しちゃえ!」



 演習場に響く天使のような彼女(ポーラ)の声にフラッドは苦笑いを零す。



(おいおい、ここで無茶ぶりが飛んでくるんかい!

 いや、シールドがどんだけ堅いかは知らんけど、魔力量増やせばどうにかなりそうなのは確かなんだけどさぁ。

 ここで観客の期待を煽るようなこと言わないでくれ)



 ポーラの声を聞いた観客たちは、昨日行われたイワンとの決闘を見た者も居る為か、その言葉に期待を寄せ始める。

 逆に、公然の前で侮辱とも取れる宣言をされたアルゲンは怒りに青筋を浮かべる始末である。



「ほう。

 なら、私がお前を倒しあの女に現実と言うものを教えてやらんとな」



 怒りに身を震わせるアルゲンはそう言い放つと、最初とは比にならない速度で駆け出すのであった。

 お読みいただきありがとうございます。

 次話の投稿は一周空けさせていただき6/14とさせていただきます。

 

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